痛み
彼の趣味がわかりやすくてよかった。と同時に、気が緩んだためか、ぴりりと踵に痛みが走った。まずい。ヒールで長時間歩き回ったせいか、踵に肉刺が出来てしまったようだ。
「よかった、更が居てくれて」
大きな紙袋を抱えた彼が、満面の笑みでレジから戻ってくる。
「これって結構高いし、両方はちょっとなって思ってたんだよね。でもなかなか決めきれなくてさ、よかった、更に選んで貰えて。じゃ、次行こっ」
私の右手は勢いよく引かれ、同時にさっきから気にしていた踵がおもいっきり擦れた。
「痛っ」
不可抗力に漏れた声に彼は振り返った。一瞬驚いた顔をしたが、私の足元をぼんやり見つめ「そうだよね」と呟いて、またいつもの表情に戻った。
「足、だよね。最初ね、更と待ち合わせした時に気付いてたんだ。『歩きやすい靴で』って言えば良かったって。でもこうやって廻っているうちに、なんか楽しくて、靴のことなんか忘れちゃってて。ごめんね、とりあえずどっか座ろうか」
項垂れた後姿を見て、私の心はチクッと痛んだ。
「王子、一人で廻ってきて。私、ここで待ってるから」
二人して戻ってきた駅前のファーストフード店で、アイスコーヒーを飲みながら彼に伝えた。私のせいでせっかくの休みに買うものも買えなかったのでは申し訳ない。しかし一緒に行くには私の足は持ちそうになかった。
「うん、そうだね。歩くの痛いしね。なるべく早く戻ってくるから」
ゆっくりでいいよ、という私の言葉が届いたかどうかわからないほど、彼は急いで自動扉を出て行った。見えなくなったその背中に向け、私は深く溜息を吐いた。「甘かったな」と。王子は人の服装にまでとやかく言うような人ではない。でも私が着たかったんだ、かわいい服を。私が思われたかったんだ、かわいい人だって。そういうわがままが、私の見栄が、彼の笑顔を萎ませた。さっきまであんなに喜んでくれていたのに。もっともっと彼のことを考えてあがれば良かった。