陽だまり
リビングの扉を開けると、荷物を放り出し、コートのまま彼の背中に張り付いた。あぐらをかき、ゲーム機のコントローラーを操作したままの彼。
「おかえり。疲れた?」
「ん…少し」
「ごめん…今、ボスキャラ倒してるからぎゅってしてあげらんない」
「大丈夫。王子の匂いをいっぱい吸い込みたいだけだから」
相変わらず腐ってんなーとばかりに軽く笑うと、
「俺が抱き締めたいの」
と彼は言った。
「よっしゃー!ステージクリア!じゃおいで」
彼はおもむろに後ろを向き、そして私を正面に引きずり寄せた。カサカサとコートの乾いた音が鳴る。左手で抱き締め、そして右手で私の長い髪をわしゃわしゃと手荒く掻き回す。私を甘やかすときの彼の癖だ。
決して長い付き合いというわけではない。偶然出会って意気投合、一緒にいると落ち着きを取り戻せる自分に気付いた。ドキドキではなく、穏やかな…そう、陽だまりにいるような心地良さ。そんな感覚を彼も感じてくれているのか、自然と一緒にいる時間が長くなった。週末にはこんな風に彼の部屋に行く日も増えた。
元々歳も仕事も住んでいた場所さえも、何もかも違う二人。こうやって二人で過ごすようになっても、なかなか長い時間を共有できるわけではなかった。しかし、合間の少しの時間、吐息が聴こえる距離で、二人で過ごす時間がたまらなく好きだった。何もしない、ただ一緒に「いる」だけの時間が…。