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中編その一~ファーストコンタクト~

待っていて下さった方、お待たせして申し訳ありません。

何故か携帯で編集していたら何度も文章が消されたり改変されたりという…



今打ってる次話も消されないかとヒヤヒヤしつつ、ゆっくり更新していきます。



皆様、ごきげんよう。



元地球での名も無き男子高校生の『俺』改め、地球からすれば異世界で『悪役令嬢』シルクベルト侯爵令嬢カトリーナのわたくしである。



悪役令嬢の立場に産まれた事自体が不幸だが、本日はその幸薄いカトリーナの人生の中でも指折りの不幸が待ち構えていた。




まずは、朝早くから叩き起こされたと思えば、まだ眠ィのにメイドに風呂でつむじから足の爪先までピカピカに磨かれた。

起き抜けにかまされた暴挙に抗議しようとしたが、声を出す前に今日がなんの日か思い出したのでなんとか我慢。


髪を丁寧に乾かされ櫛を通される傍ら軽く朝食を採らされる。

眠気が抜けずに、危うくスープに顔を突っ込みそうになる所で髪担当のメイドが気付いたはいいものの、首がグキッとなった。いたひ。


朝食を終えたら顔を再度拭われ下着だけの姿にされた後、髪担当のメイドさんとは別のメイク担当が現れ、そこからは二人がかりで悪夢の共演が始まる。


ちょっ、なに、十歳児相手にマジになってんのアンタら!?

つかドレスもアクセサリーももう決まってるんだからムキになんなよ!

相手だって十歳のガキなんだから!

気合い入れても相手が逆にドン引くだけだってば!?


……とは言えないのが猫被り令嬢の辛い所だねぇ。




「……ああ……本当にお可愛らしいですわお嬢様……」

「本当に。王子様もきっとお気に召されますわ……」



元々化粧をしなくても十分美しい肌は、メイドたち渾身のマッサージとケアで更に真珠色の輝きを放つ。

真珠のごとき肌の白を、磨き抜かれたブラックダイヤよりも滑らかに艶めく黒髪が引き立てている。

細かい編み込みで後ろに流された黒髪を飾るのは、父が今日の為にと自ら選び抜いた大粒小粒さまざまな形のダイヤにルビーにピンクパールからなる特注の髪飾り。

ちなみに父が花々を模したその髪飾りを作らせたのは、娘のドレスをちゃっかり自分お抱えの職人に『妖精のように愛らしい私の娘に相応しきドレスを』と、独断で依頼してしまった母上に後から合わせる事になったのが理由なのは、ここだけの秘密で。


―――時計が二時間後を指す頃には、まるで絵本の中から抜け出したような妖精そのままの可憐な美少女が鏡の前に誕生していた。


大鏡の前に立たされたカトリーナの両脇に控えるメイドが、鏡に写った飾り立てられた張本人よりもうっとり幸せそうにトリップしているのがげに恐ろしい。


ぶっちゃけ逃げたい。

逃げ出したいのは山々だが、本当にきっついのはこれから行われる『顔合わせ』である。


それに、【化粧は女にとっての戦支度である】と昔の人も言ってたみたいだし、この苦行が後々に役立つのであればそう嫌う必要も無いな。


両脇でまだ恍惚としているメイドさん二人と目を合わせないように注意しながら、こっそり吐いた溜め息一つの中に文句を逃がした。






事の始まりは、王家からの使者だった。


この度、十歳になったカトリーナに対してこの国の王太子である第二王子との婚約の申し入れが王家よりあったらしい。


その王太子にして第二王子こそが、ゲーム内で自分が『ヒロイン』と浮気をしていながら邪魔になったからといってカトリーナを婚約破棄して切り捨てるクソ野郎である。


ちなみに第二王子が王太子なのは、第一王子の母親が身分の低い側室で後ろ楯が弱く、第二王子の実母である王妃に押し負けたかららしい。

第二王子の対抗馬として祭り上げられる事を危惧された第一王子は、今は遠い空の下で留学生として勉学に励んでいるとか。


そういえば、ゲーム内のCGでも見かけたような……。

パッと見は、目鼻立ちは整っているがどこか印象の薄い男だったと思う。

出てきたのがストーリー終盤辺りだったのも相まってよく憶えてないんだよね。


その時点では、カトリーナに対して申し合わせたように追い込み連携かける外道どもに吐き気こらえるのに神経使ってたからなー。


まぁ、この国にいない第一王子の話はこの位にしておこう。



父上の書斎に呼び出されたカトリーナは、こう『お願い』された。


「カトリーナ、お前に第二王子と婚約して欲しいんだよ」


――『して欲しい』と懇願の体をとってはいるが、実際には家長としての命令だな、こりゃ。


「パ、……私がアストラッド様――現在は玉座におわす国王陛下と学生時代の友人だったと前に話をしたのは憶えているかい?」


おやおや、普段の口癖で『パパが』って言いそうになりましたね父上?

話が進まないからスルーしてあげる優しき愛娘に感謝するがよい。


「はい、それに確か王妃様もご学友だったとお聞きしましたわ」


「……ああ、そうだったね、あの方はいつも陛下の傍でご一緒だったな……」


どこか遠い目をする父上。

それを視界に納めつつも、父上が言葉を続けるのを待つ。



父上いわく、王家からの打診は前々からされていたらしい。


あちらの言い分はこうだ。


【貴族位を賜った祖父の代により国内外における流通経路の安全確保を成し遂げて物流を安定化させ、父の代からは加えて新商品並びに元からある商品を意欲的に発明・開発して経済を活性化させてウェルヘルブルグ王国に多大な貢献を果たしたシルクベルト侯爵家。

その功績をもって、栄えあるウェルヘルブルグ王国における現王太子であるアンドリューとの婚約を認めよう

これを誉れとし、より一層のシルクベルト家の忠誠と繁栄を望むものなり】


―――という、本文はもっと格式ばった長ったるい勅命が下されたようだ。


厳めしい文章に地味にイラっとしたので、言葉を崩して訳してみると、


『お前んとこのジジィも親父もよーやった、誉めてつかわす。

その褒美としてお前んとこの娘をうちの息子の嫁にしてやんよ。

ところで最近儲かってるみたいじゃん。

もっとガッポリかせいでウチ(王家)への『形ある忠誠と誠意』として貢ぎ物よろ♪

あ、認めるっつってもお前んとこに拒否権ねーから(笑)

これ勅命だからそこんとこYO・RO・SHI・KU☆』


うわーイラつくわー訳したら更にイラついたわー。

よく考えたらうちへのメリットが無くて、むしろデメリットしか無いのに上から目線なのか果てしなくイラつくわー。



え、国内外における我が侯爵家とシルクベルト商会の保護?

超いらないんスけど。

いらん口出しして商売をひっかき回されたり、その都度保護とか必要経費の名目作って何かとタカる気満々だろ。


王家の後ろ楯?

諸外国には既に商業ギルド通して進出済みで、そっち方面と実績に基づく信頼を得て持ちつ持たれつな関係を築いてますが何か。


信頼と後ろ楯が必要なのは、むしろ王家のほうだろうに。


冷害における飢饉時に国庫を開放せず税率すら下げなかった事、国民の皆様はしーっかり憶えてらっしゃいましてよ。


山の実りが少なくて人里まで魔物や魔獣が降りてきた時。

王宮に閉じ籠もって震えるだけで王国軍の当時の騎士団長に丸投げして、結局ことを治めたのが侯爵家率いる私兵たち+地元の自警団+冒険者ギルドの皆さんで結成された義勇軍だった事。

うちの領地の皆さんだけでなく各地で被害にあってた地元民の皆さん、今でも恨んでますよー。



だから、王家との繋がりを深める意味が無いんだけどね。


カトリーナはシルクベルト商会トップである侯爵の現時点における一人娘。

今後母親や、可能性は低いが囲うかもしれない妾や愛人が子供を産む事を期待してるのかもしれないが。


一人娘であるカトリーナを育てるのに費やした手間隙費用に見合う利点があるのか?

自分で言うのもなんだが、直系の血縁という結構使い道のあるカードをここで使う意味は一体?

この国の王家を相手にするより、もっと効果的に交渉の場に用いるべきカードでしょうに。

父上、その辺りどうお考えで?


「父上は何故、今回の縁談をお受けになったのですか?」


意図が分からなきゃ動きようも無いので聞くも、その時の父上は結局何も教えてはくれなかった。








所変わって、やって参りました王都です!


いや~、久しぶりですね~。

ウジ虫どもという名の攻略対象どもにエンカウントしたく無かったので積極的には来ませんでしたが、王都そのものは嫌いじゃありませんよー。

店舗どうしの競争率が半端ないせいで、各々の品質から種類の多さまで、中々の高水準を保ってますね~。

貧富の差が激しすぎる事による治安の悪さはいただけないが、王都は王城のお膝元なので、そこは本職の方々に頑張っていただきたいですね~。


おや、馬車が王城に着きましたね。

ここからは現場のカトリーナさんに中継をお願いしましょうか。


カトリーナさ~ん。

カトリーナさ~ん。




―――はぁ~い、現場のシルクベルト侯爵令嬢カトリーナでぇす♪


今回は王子様との顔合わせの為、両親と一緒に王城までご招待頂きました!


ゲーム画面のCGで見たアングル、そうでないものまで盛り沢山でカトリーナちゃん感激しちゃ~う♪


王家の王家による王家のための自画自賛ぽいタペストリー群を抜けて、血税を吸い上げて揃えられただろう幾多の装飾品に彩られた広い廊下を抜け、維持費に莫大な予算がかかるだろう薔薇園へと通じる広間と開かれたテラス席へと入場しました~。


おや、キラキラしい国王様御一家が既にお待ちの御様子!

あら~、CGでも美形でしたが実物もなかなかお美しい方々ですね~。



無駄にダンディーな昔は典型的な王子様であっただろう国王陛下に。

今流行のうちの商会が卸す布地に宝石を縫い付けたドレスを纏い、髪を雅やかに結い上げた王妃殿下に。

金髪碧眼の甘いマスクで将来はクソゲーがクソゲーたる所以の一翼を担うバカ王子殿下。


汚泥にまみれた内面を、キラキラしい外装で覆い隠してここにご登~場~!


ここからの中継では見るに耐えない場面の連続が予想される為、一旦終了とさせて頂きまァ~す。


それでは皆様、また来~週~♪♪♪






確か、『ゲーム』中でカトリーナと王子が出会うのが今のタイミングだ。

十歳の時に結ばれた婚約をよすがに『ゲーム』のカトリーナはアンドリューを慕い、より一層努力するようになる。


その時点での王子の気持ちは定かではないが、結局は切り捨てる未来に繋がるんだよなぁ。

さて、どんなもんかね?

王太子アンドリュー殿下や。


「父上、カトリーナ嬢と二人だけで話をしても大丈夫ですか?」


こちらをじっと見つめつつ、まだ幼さを残す輪郭の頬を薔薇色に染める様はまるで天使のようだ。


……ん?なんか引っ掛かるよーな。


「ふむ、……カトリーナ嬢がそれで良ければ構わぬよ。」


んんー?おっかしいなー?

王子、おまいさんは一応ゲームの設定上では紳士っつ―事になってなかったっけ?

なに初対面の少女と二人きりになろうとしてんの。


相手が恐がるとか思わんのかーい!!

まぁ、こいつもカトリーナと同じく十歳だから、ガキの浅慮ですって言っちまやそれまでなんだが。


ただの馬鹿か、それとも……故意か。


さてさて。

どう来るんだい、アンドリュー君や。






広間から離れ、薔薇の小路を王子に導かれてとことこ進む。

人気か無くなる方に行くにつれ、王子が無口になり足早になります。


「……っ、ふっ……」


とりあえず、アンドリュー君に聞こえるかどうかの荒い息を吐いてみましょう。

実際に疲れてるわけでも無いんだが、いつもより『バリバリ盛装』のドレス姿なので、それなりに神経は使う。

っつか、エスコートするなら相手の一挙一動に気配りしろや。



ピタリ。



荒い息に気付いたのか、やっと立ち止まりやがった。

ちょっと開けた場所であるここはどうやら、薔薇の小路の休憩所ってとこかね。


気配りが出来なかったのはまぁ許し「ふん、貴様が僕の婚約者だって?」――許してやる必要は無さそうだな。


がらりと雰囲気を変えた王子様()に臆する事なく、嘗められないように秘かに腹に力を籠める。


「はい、この度お招きに預かりました。わたくしがシルクベルト侯爵が娘カトリーナにございます」


母上にみっちり仕込まれた淑女の作法にて、一礼。


それが余計に気にさわったのか、アンドリュー君あらぶるごとし。


「どんなに取り繕った所で、貴様が我が王家に送り込まれた毒蟲である事は明らかだ。無駄な事は止めろ」


うっわ~、こいつ初対面の女の子を蟲呼ばわりしましたよ~~

聞きました?奥さ~ん。

可愛い顔して最近のクソガ……げふん、御子様って怖……くは無いけどな。


にしてもこいつ、マジで憎たらしい顔で見下して来やがる。

見当違いな事を見当違いな相手にかますとか、お前何様だよ!

あ、王子様か。


立場的に口答え出来なさそうな相手に鬱憤晴らしのつもりかよ。十歳にして末恐ろしいクソガキだな。親の顔が見てみたいぜ。

ああ、さっき両方ともツラ拝んだばっかだったわ。


「皆がお前たちの悪行を見ている。何を企もうと無駄だ。早々に分を弁えるんだな」


皆って誰だよ皆って。はっきり言えや。

おおかた古株のケツに根が生えた由緒ある貴族の皆様がたか、そのご子息たちか。

攻略者の一部と王子はもう出会ってるはずだ。案外そっからかもしんねぇな。


――今のこの状態じゃ何言っても無駄だろうが、ここは一つ『必殺技』でもカマしてみっか。


「あの、殿下」

「……なんだ」



息を吸って~吐いて~

手を握りしめて、発☆動☆


必殺!

【カトリーナ必殺・瞳ウルウル攻撃】ィィィ!!


「うっ!?」

おうじはかおをおさえている!!

こうかはばつぐんだ!!


――説明しよう。

【カトリーナ必殺・瞳ウルウル攻撃】とは。

対象の反応を引き出すため、『完璧淑女カトリーナたん』がわざとその完璧な自らの外装にヒビを入れ、相手の油断や本性の発露を誘う技である。

最初に犠牲になったシルクベルト侯爵から今日まで、日々磨かれるこの技を破った猛者はまだ居ない。

これからも現れるかすら不明である………。


「殿下が何をもってそのような事を仰るのかは分かりかねます、でも」


伏せがちな瞼をふるふるさせつつ、涙を堪えるような名演技のカトリーナさん、マジ美少女効果ぱねぇ!!


「殿下のお心に添える様、努力させていただきます」


分を弁えろと言われましたので、穏やか淑女スタイルにて目を伏せる健気なレディに擬態しておきませう。


それからも、しばし無言。

とりあえず、今これから何をしたらいいのかが分からん。

アンドリュー君がこっちと仲良くする気が無さそうな今、取れるリアクションも限定されちまう。

一応相手は婚約者つっても王子様()で身分も上なわけで、下手な事して不興をかっても後々面倒だ。

そのうち坊っちゃんが何か言うだろ。


「とにかくっ、僕が言いたいのはそれだけだ!」


言いたい事だけ言うと、今度はかなり強い力で手袋の上から手首を掴んできた。

荒々しい勢いのままカトリーナを薔薇園の直前まで引き摺るように連行すると、人がいる場所の少し手前で止まる。


王子は深呼吸をした後、


「いいか、――僕に逆らうなよ」


と脅しつけるように仰った。






無事に顔合わせが終わって屋敷の自室に戻った後のこと。


「―――っ」


やはり、王子に乱暴に捕まれた手首は痣になっちまった。


馬車で領地に帰る途中、気が抜けた辺りからジンジンしだしたから嫌な予感はしてたんだよねー。


繊細なレースの手袋をゆっくり外すと、手首周辺がくっきり青アザに浮かんでいた。


じっくりと確かめるために数秒間顔に近付けて凝視した後、もういいと手を下ろした。


治癒魔法を自分の手首にかけると、淡い発光が患部を保護する。

小さな光が収まった後、そこに痣はもう存在せず、元通りの白い少女の肌があるばかり。



(――素敵な『お土産』を有り難うございます、殿下)


くつり。


思わず漏れた笑い声を無理に抑えようとすれば、それは嗚咽のように静かな部屋に響く。


夕食は、「ごめんなさい、とてもご一緒出来そうにありません……」と弱々しく断っておいたので、後はもう寝るだけだ。


カトリーナの普段にないその様子に、手続きなどのために王城に父上を残して共に領地に帰ってきた母上がいたく心配してくれた。


純粋に娘を案じる彼女の姿に感じるものはあったが、わざと『一瞬暗い顔を見せるも、すぐに無理に笑顔を作って安心して貰おうとする』態度を母上と使用人たちに取ったので、ひとまずはそれ以上言及されずに済んだ。


カトリーナが今夜部屋に引きこもる事で、着実に【不穏の種】は根を張ってくれるはず。

それに、それにだ。


(今日は『いくつか』良い不穏の種が手に入ったなァ)


王子の本性に、この傷、それに今日連れて行かれた薔薇園で分かった様々な事。

吐き気を堪えた分の収穫はあったな。




(今日は、ここまで)




頭から被ったシーツから笑い声を漏らさないように注意しながら、ずっと『俺』は笑い続けた―――。







何度も消された後に脱力しつつ書いたやつなので、そのうち改稿するかもです。

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