前編
もう何番煎じかも分かりませんが、書きたいと思うから書いた。
カッとなって書いた。
反省はしてないし後悔はもっとしていない。
でも、はじめてだからやさしくしてね!!
なんちゃって異世界ファンタジーをベースに、あやふやな王族貴族の常識を混ぜ混ぜしてお届けします。
読む前や途中で「これ駄目なやつだ」とお考えになった方、申し訳ありませんがそっと閉じて下さいませ
m(__)m
オッス!おらカトリーナ!
悪役令嬢って言われてっぞ!
剣とか魔法とかファンタジー溢れる世界にある国々の一つ、ウェルヘルブルグ王国の侯爵令嬢だ!
商人あがりの成り上がり貴族っつー事で古参の貴族から嫌われてて、強面の親父と悪女顔のお袋と悪人面の俺、家族三人で迎え撃ってんだ!
婚約者の王子からもすげー嫌われて、これから更に精神&物理的嫌がらせが激化しそうで、おらワクワクすっぞ!
……。
………。
…………はー、やめやめ。
いい加減このテンションきっついわー。
このクソッタレな現状をちっとでも楽観的に考えようかとハイにナレーションしてみたが、これっぽっちも効果が無ぇ。
ここは淡々粛々と現状把握に努めるしかあるめぇ。
――元々、わたくしになる前、俺は『俺』でした。
元いた世界では地球と呼ばれる星の中にある日本という国に住む、高校三年生の男子でした。
れっきとした男でした。
大事な事だから二度言った。失敬。
有難いことに奨学生制度の枠を利用して貧乏ながらも高等学校まで進むことが出来、無事に高校最後の文化祭の締めの打ち上げまで終えられた所までは覚えてる。
程よく人様の迷惑にならない程度に賑やかに、助っ人に入った演劇部の部室で腹を満たして楽しんだ。
家(つっても寮だが)に帰るまでの道を腹ごなしにゆっくり歩いて、途中にあるいつもの歩道橋をゆっくりと登った。
そんで、なんか歩道橋の上から甲高い叫び声が聞こえたと思ったら………、
―――気がつけば、この世界に赤ん坊として生を受けていた。
最っ悪に面倒くさそうなお貴族様の侯爵『令嬢』として。
初めはそれこそ泣きわめいた。
恥も男としてのなけなしのプライドも捨てて雄叫びだってあげまくったさ。
俺の側でニコニコ微笑むカップルに向かって好き放題に罵倒もした。
「おまえら誰だよ!」
「ちきしょう俺は慎ましい奨学生だ!誘拐しても金なんか一円たりとも出せねーかんな!」
「とっとと家帰せうらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
………だがしかし、悲しいかな俺は赤子と書いてベイビーと読む存在。
カップル(後に現在の両親と発覚)は、
「よく頑張って産んでくれたな、ありがとう。本当にありがとうエリザベート」
「いいえ、あなたが私とお腹の子を大切に慈しんで下さったからこそ無事に産めたのですわ」
「ふふ、それにしても元気な女の子だなぁ」
「あら本当に。まるで男の子みたいに元気ねぇ」
「いやしかし、将来はきっとお前に似た絶世の美女になるぞ」
「まぁ、あなたったら……うふふ」
……とかキャッキャウフフしてるだけで、言葉なんぞ伝わらん。
叫んで寝て、叫んで寝てを繰り返すうちに諦めというものを学ぶしかねぇわけだ。
つか、『女』になっちまったんだな、俺……。
ここはどうやら『前の俺』がいた世界じゃ無いらしい。
まだ自分で調べものが出来ない段階では「ここはもしかしたら俺が死んでから出来た国orまだ知らない小国かも~」とか夢を抱いていたのだが。
人の夢と書いて儚いと読む。
あっさりと現実は希望を打ち砕いてくれるんだもの。やんなっちゃう。
三歳になってから付けられた家庭教師が、
「さあ、まずはカトリーナお嬢様の魔法適正を探る所から始めましょうか」
と優しくのたまった所で色々と諦めました。
潜在魔力を高めるために魔法学に力を入れ、魔力増強を試みつつ使用法を学んでたら、今度は別の家庭教師がこう言うんです。
「それでは、この大陸について学びましょう」
はい、決定~。
ここは俺が知る地球じゃありません。
なので、
『ある程度の年齢になったら日本にトンズラすんべー』
と密かに思い描いていた未来図もオジャンです。
万が一にでも俺の中身がばれて放り出されたりする前に、なんとか自活出来るだけの知識や技などを盗みつつ、周りから求められる『侯爵令嬢』を演じ切るしかあるまい。
幸いなことに、親父である侯爵は実力主義らしく娘の教育には金を惜しまなかった。
奥さんとのやり取りから見た感じ身内にも甘そうだったので、ここぞとばかりに美少女としての外見と幼子としてのあどけなさを利用し、
「わたち、とおさまのようなりっぱなショーニンになりたいの」
「かあさまみたいにすてきなレディにあこがれりゅの」
から始まるおねだりヨイショ攻撃にて様々な知識を身に付けられるよう、ちぎれんばかりに周りに尻尾を振りました。
そん時思ったんだけどさ、『この幼女の潜在能力すげー』って。
例えば前の体ん時に十時間かけてやっとこさ一つ身に付いた知識が、一~二時間で十、身に付く感じ?
もしくは、『前世の俺』が遊園地のなんちゃってゴーカートなら、カトリーナはF1のレーシングマシーン、位の成長スペックの開きがあった。
『ふーん、天才のスペックってこんな感じで身に付いていくのねー』
って、天狗になるの通り越してただただ呆然としたよ。
身体機能の上昇に加えて元から努力するのが嫌いじゃなかったのと、そこに残像すら見えない勢いで尻尾ふりふりしてオネダリした高度な教育を掛け合わせた結果。
十歳に手が届く頃には、父上の手掛ける領地運営を学びつつも我がシルクベルト商会の経営を助け、かつ母上から太鼓判を貰える位には模範的な淑女が完成した。
しかし。
だがしかーし。
カトリーナが十歳になるのを見計らって結ばれた王子との婚約が決定打となり、大変残念な事をこの時同時に思い出す。
大陸や国の名前とか、親や婚約者やその他関係者の顔や名前とか、今の行動範囲内の風景とか、とどめに『魔法は実在するんだゾ☆(ウインク)』という無茶ぶり。
―――これ、俺が地球にいた頃無理矢理プレイさせられたゲームにそっくりでやんの。
【ほんわか乙女のティータイム~隠し味は魔法と剣とイケメン~恋の障害なんかに負けないんだからぁ☆】
……確かこんな感じのゲームだったか。
ちなみに、最後の☆までが正式名だったりする。
簡単に言うと、身分の低い主人公である『ヒロイン(名前変更可)』が学園にいる間にイケメンを墜とし、その攻略対象との恋の障害であるイケメンの恋人なり婚約者なりを破滅させるシンデレラ的なハートフルストーリー()らしい。
題名からして脳味噌お花畑臭がプンプン匂ってたんだが、『ヒロイン』どころか攻略対象もその他大勢もお花畑だったよ。
あまりに『ヒロイン』に好都合でご都合主義万歳な展開に何度も気持ち悪くなった事は嫌な思い出だ。
不幸中の幸いで、カトリーナ・シルクベルト侯爵令嬢はその限りでは無い。
カトリーナは婚約者であるアンドリュー王子が得体の知れない主人公に傾倒していくのに危機感を感じ、なんとか軌道修正させようとする役割だった。
次期国王候補にして未来の夫に得体の知れない女が近付こうとすれば、様々な事態を想定して警戒するのが臣下であり婚約者というものだろう。
その時のカトリーナの危機感自体は間違っていなかったのだろう。
けれど、カトリーナが『臣下として婚約者として正常な感覚の持ち主だった』事が、彼女を最悪な未来へと導く事になってしまった。
なぜなら。
―――彼女が存在する世界は現実ではなく、『ヒロイン』が全肯定される世界で、『ヒロイン』の前に立ち塞がる事で『悪役令嬢』の烙印を押されてしまったのだから。
かくしてゲームの題名にも含まれている『障害』として『ヒロイン』に認識されたカトリーナは悲惨な末路を迎える。
婚約者は婚約破棄を正当化するために、カトリーナの欠点をこじつけて公衆の面前で罵倒し、
『ヒロイン』の逆ハーレム要員はカトリーナが満足に弁解出来ない様に取り押さえて這いつくばらせ、
『ヒロイン』信者たちはそれを当然と囃し立て、昨日までカトリーナに売っていた媚びを手のひら返して悪評をこれでもかと流し、
逆ハーレム要員でもあるカトリーナの従兄弟は、カトリーナの実家に悪意に満ちた報告をし、
カトリーナの実家は娘を切り捨てる事を選び家から着の身着のまま追放し、
領民たちは学園での悪い噂を真に受けてカトリーナを追い立てて、
カトリーナは寂れた裏路地で暴行を受けた後、誰にも助けられずに一人ひっそりと息を引き取る。
――更に、彼女の死が発覚した後もその不幸は止まらない。
上記の仕打ちをした者達は、口を揃えて言う。
「何も死ぬことはなかったのに」
そして、自分たちを正当化する為に、カトリーナの偽りの悪評を流し続け、死後もその名誉を汚し続ける。
挙げ句に、カトリーナを死にそこまで追い詰めた『ヒロイン』と王子は、
「死んでしまった彼女のためにも、彼女の分まで幸せになろう」
いけしゃあしゃあとのたまい、ラストに二人が晴れた午後のテラスで和やかなティータイムを過ごす所でイラストCGが表示されてゲームの幕は下ろされる。
――これでやっと胸糞悪いゲームとおさらばかと安心したユーザーは、エンドクレジットの合間に流される『キャラクターのその後』で堪忍袋の緒がブチ切れる音を聞くだろう。
俺もブチ切れて危うく借り物のノートパソコンをぶん投げそうになったわ。
逆ハーレムの攻略対象たちは『ヒロイン』との交流を続けつつも輝かしい未来を手に入れて。
カトリーナの実家に八割増しされた悪評を届け、娘を捨てさせた張本人である従兄弟が、
「従兄弟でありながら学園で彼女を諌められず、その暴挙を止められずに申し訳ありません」
と殊勝な顔で取り入り、養子として後継者の座をまんまと手に入れる。
訳あって全てのルート回収ならびにCG回収の必要に迫られた俺は、全エンディングで似たり寄ったりの悲惨なカトリーナの末路を目撃する事になった。
あのゲームのシナリオライターは頭がおかしいのか?
あれが面白いと心の底から思ってたのか?
もしくは、カトリーナという名前の人間になんか恨みでもあったんかい。
ともかくも、俺がカトリーナとして生を受けたと分かった瞬間に絶望しかけた理由がその悲惨な末路である。
ゲームプレイ時、カトリーナに一片の救いがあればと隅から隅まで調べつくし、結果として『救いは無い』という事が判明した彼女の立場に俺は今いるわけだ。
ゲームはあくまでゲームであり、現実とは違う。
自分は今ここに生きている。
そう楽観視する事は、ゲーム開始時との差異が今のところ見受けられない現時点ではできない。
多分、ゲーム開始時である学園入学式から動いたんじゃ遅いと思われる。
その時には、きっとカトリーナを囲う悪意の包囲網は完成されている事だろう。
とりあえず当面の目標としましては。
―――ゲーム開始時までに判明しているカトリーナの不幸フラグを、一つ残らずぶっ壊す!
誤字脱字、不適切な文章の指摘から感想までありがとうございます。
なるべく矛盾が無いように頑張らせて頂きますので、ご無理の無い方は今後ともよろしくお願い致します。