【1:2:1】狂月の夜(中編)
■20分台本
■登場人物
・ルシア ♂15:アキネの弟子であり助手。
魔術系二級・Dランクの初級魔術師。
・アキネ ♀27:探偵事務所「月下」の所長。
自称、魔術系特一級・Sランクの特級魔術師。
・ゴート ♂25:狂夜の殺人卿の仲間。
・ミリディアナ ♀24:愛称ミリィ。パン屋の看板娘。
・ガトー ♂51:犯罪者収容所の所長。
・N :情景描写。
■配役(1:2:1)
両 ○ (L38) ルシア :
♀ ◇ (L45) アキネ :
♂ □ (L25) ゴート・ガトー:
♀ △ (L25) ミリィ・N :
■補足・備考
※1 配役及び台本中の『○◇□△』は、
各配役の台詞を検索する際の検索対象にお使い下さい。
※2 放送等にはご自由にお使いください。ボイスドラマ等企画については、
メッセージボックスにてご一報ください。
※3 著作権は放棄しておりませんのであしからず。
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■06.
●オルバクレイ卿の屋敷
◇アキネ:「次、第五級魔力放出」
○ルシア:「はい!」
△N : 左右の拳を正面に揃えて構え、右拳を引絞っていくルシア。
まるで弓矢を構えているような格好である。
ルシアの両拳の間に矢のような魔力が高められていく。
○ルシア:「いきます! 第五級魔力、放出!」
△N : ルシアの放った魔力は、
前方に立てられたいくつもの的を残らず薙ぎ払った。
一度に大量の魔力を放出し、倒れそうになったルシアを、
アキネが受け止める。
◇アキネ:「よく頑張ったな。一旦、休憩にしよう。
座れ、魔力を供給してやる」
○ルシア:「すみません…僕が魔力変換ができないせいで……」
△N : 消費した魔力は普通、時間を置くことで自然に回復する。
しかし、大量の魔力を消費してしまった場合、
魔術師たちは大気中のマナを魔力に変換し、
自身に取り込むことで失った魔力を回復するのである。
◇アキネ:「まぁこんなものか、よし、訓練の続きをするぞ」
△N : 結局この日、何度もアキネからの魔力供給を受けながら、
ルシアは第五級魔力放出を難なくこなせるようになった。
■07.
●街道
△N : そして狂月の日。今夜は蒼月である。
マナが大気中から潮が引くように失せている。
何となく空気も味気なく感じられる。
○ルシア:(師匠大丈夫なのかなぁ…。
昨日、あんなこと言ってたけど……)
◇アキネ:『あいつは、私が目的だろうから。私を狙ってくるはずだ。
前回の狂月の時そんなことを言ってた気がするし、
だから今回は私がおとり役だ。
お前は物陰に隠れて機をうかがい、訓練の成果を叩き込んでやれ』
○ルシア:(気がするって時点でどうかと思うけど……。
とりあえず、今はこの路地裏から師匠を見ているしかないか)
□ゴート:「なぁ、お前、ラックマンの弟子か? それともストーカーか?」
○ルシア:「ひぃあっ!?」
△N : 突然、背後から底冷えのするような声で話しかけられたルシアは、
転がるように路地から飛び出し、後ろを振り返る。
真っ白な服を纏った痩身で背の高い男。
やけに細長い腕の先には、巨大で鈍く光るナイフを握られていた。
◇アキネ:「!? ルシア!」
□ゴート:「ふぅん。あれだけ慌ててるって事は弟子の方だな。
…じゃぁ、死ね」
○ルシア:「ぁ……」
△N : 身がすくんでしまって動けないルシアの前にアキネが滑り込む。
手甲でナイフを受けたアキネは、握りしめた拳をゴートに返す。
◇アキネ:「この馬鹿! 何のために訓練したんだ!」
□ゴート:「あぁん?」
◇アキネ:「今夜はこんなにおめかししてきたんだ。
付き合ってくれよ、ゴート! はぁっ!!」
□ゴート:「おっとぉ。
…けっ、すぐ近くにこんな若くてかわいい男の子が居るのに、
こんな年増女の相手なんてなぁ、面倒というか何というか」
○ルシア:(へ…変態だ……)
□ゴート:「まぁ、お姫様の元に至るまでには、
魔女とか婆さんとかの邪魔があるのが世の常だもんなぁ?
我慢してやるよ。年増女なんて大嫌いだがな」
○ルシア:「ぁ、あはははは……」
◇アキネ:「そうだよなぁ、おかしすぎるよなぁ、笑いたくなるよなぁ。
なぁ、ルシア?」
○ルシア:(ひぃっ、怖い、怖すぎる…)
□ゴート:「あぁ? なんだ? 何もしねぇならこっちから行くぞ」
◇アキネ:「作戦変更だ、ルシア。捕まえる予定だったが、殺す!」
○ルシア:「えっ、師匠待って下さい。
いくら殺人犯でも殺したら、僕たちが罪に問われますよ!」
◇アキネ:「かまわん、私が許す。たとえ罪に問われたって殺す。
全力で叩き込んでやれ! 手加減したら私がお前を殺す!」
△N : アキネは地面を蹴り、ゴートに向って突進していく。
ゴートのナイフとアキネの手甲が幾度もぶつかり、火花を散らす。
○ルシア:(【深呼吸】
よし、集中だ集中。
左手で弓を握り締め、右手で矢を引くイメージ。
魔力充填開始)
***
◇アキネ:「ちぃっ、大人しく殴られろ! この変態が!」
□ゴート:「ふん、年増女に殴られる趣味はないな!」
○ルシア:(第五級魔力放出程度の魔力はもう充填できているけど、
アイツを倒すにはきっとまだ全然足りない。
充填、充填、充填、充填、充填…)
△N : ほぼ互角だった戦いの均衡は崩れ、アキネが押され始めてきた。
ゴートの攻撃を受け切れず、被弾してしまう。
□ゴート:「もらったぁ!」
◇アキネ:「ぐぅっ……こ、のっ!」
□ゴート:「堅いな…俺のナイフで斬れんか…。
流石にあの方の妹というだけのことはあるな」
◇アキネ:「うるさいっ!」
□ゴート:「ふん、ならばこのまま甚振り殺してやろう」
○ルシア:(第四級魔力放出? いいや違う。
引き絞られた弓が折れる寸前を目指すんだ。
もっと、もっと、もっと)
◇アキネ:「がはっ」
□ゴート:「くくく、どうしたぁ?
そろそろ魔力が尽きてきたんじゃないか?
随分ヤワくなってきてるぞ?」
◇アキネ:(くっ……まだかルシア!)
○ルシア:(充填、充填、充填。
まだだ、まだだ、まだだ。
あと少し、弓が、僕の体が、壊れる限界まで!)
□ゴート:「しつこいババアは嫌われるぜぇ?
そろそろ終わりにしようかぁ!」
○ルシア:「師匠! できました! よけて下さい!」
◇アキネ:「遅い! あと一分は早く仕上げろ!」
○ルシア:「第三級魔力、放出!」
□ゴート:「はぁ!?」
◇アキネ:「ば、馬鹿たれ!」
△N : 限界まで魔力を放出したルシアは意識を失い、その場に倒れた。
□ゴート:「おい! コレどうするつもりだ!? 街ごと消えるぞ!」
◇アキネ:「上に逸らすしかないだろう!?」
□ゴート:「ぐぅぅううぉぉおぉおおおおおっ!」
◇アキネ:「はぁぁぁあああぁああああっ!」
△N : ルシアの放った第三級魔力放出。
それは町ひとつを半壊させるに足る代物であった。
その驚異的な破壊力を前に、もはや敵味方などなく、
2人はその軌道を逸らすことに専念した。
□ゴート:「がぁぁあぁああああっ!!」
◇アキネ:「もう…少し…。
これでぇぇ、どうだぁあああああああああっ!!」
△N : 残り僅かな魔力を注ぎ込み、アキネが渾身の蹴りを放つ。
下から蹴り上げられた魔力の奔流は
僅かに軌道を上方へと修正され、
付近の建物の屋根を破壊しながら、はるか空へと消えていった。
□ゴート:「ぐ……、………ぁ」
◇アキネ:「はぁ…はぁ……。はんっ、ゴートのやつ力尽きやがったか」
△N : 魔力欠乏によって倒れたゴートの横に、アキネもまた座り込む。
立っていることもできないほどの疲労であった。
◇アキネ:「まったく、あのバカ弟子は……」
■08.
●病院
○ルシア:「…あれ? ここは…?」
◇アキネ:「……ん………起きたのか……。
ここは病院だ。昨夜のこと覚えてるか?」
○ルシア:「ぇーと…僕が第三級魔力放出したところまでは…?」
◇アキネ:「そう、その魔力放出が問題だ。お前があのとき放った魔力量は、
ほぼ第二級魔力放出の域に入っていたんだぞ?
確かに私は手加減をするなと言った。だけどな?
魔力を極限まで使用すれば、命に関わることもあるっていうのは
当然知ってるよな? 知らないなんて言わせないからな。」
○ルシア:(あれ……?
誉めてもらえると思ったのになんか雲行きが怪しくないですか?)
◇アキネ:「……で、外からの供給もなしに、
自分のキャパと同じだけの魔力量を放出したバカは誰だ?
しかも第二級とか言う、街一つ軽く半壊させる威力の有る代物を」
○ルシア:「あはははは…、
それってもしかしてここで寝てた誰かのことですかね?
って、もしかして街潰れちゃったりしたんですか?」
◇アキネ:「いいや? 私とゴートで対処した。と言うか、
街を吹き飛ばすレベルの物を躱しきることは不可能だからな、
何とか逸らすだけ逸らせたよ」
○ルシア:(よ、よかったぁ…街が吹き飛んでなくて。
まさかそんな威力になっていただなんて……)
◇アキネ:「まぁ……何にせよ、生きてて良かった。
一時、本当に生死の境をさまよってたんだからな……」
○ルシア:(師匠…、やっぱり僕の事を心配してくれて……。
もしかしてここは抱きついても良い場面じゃないのか…?
よし、今しか!)
△ミリィ:「あの……もしかして、お邪魔でした?」
○ルシア:(!?)
△ミリィ:「えーと、ルシアくんが倒れて入院したと聞いたので、
お見舞いにパンを持ってきたんですけど……」
◇アキネ:「……ぁ、ああ。わざわざすまないな」
○ルシア:(し、師匠もなんだか固まってる!?
くっ、やっぱりあのタイミング活かせていれば……)
△ミリィ:「ルシアくんは大丈夫なんですか?」
○ルシア:「心配してくれてありがとうございます。
入院はしてるみたいだけど、別にどこか悪いわけでもないし、
今はもう元気ですよ」
◇アキネ:「当然だ、ちょっと生死の境をさまよったが、
基本的に魔力版の栄養失調みたいなモノだ、
十分な魔力を与えてもらえれば、あとは自然と回復する」
△ミリィ:「そうですか、よかったぁ。心配したんですよ?
それで、その、犯人の方はどうなったんですか?」
◇アキネ:「犯人? あぁ、ゴートのことか。
アイツもこいつと一緒で力尽きてぶっ倒れたから、
拘束して引き渡したよ。
たぶん今は収容所にでも入れられてるんじゃないか」
△ミリィ:「そうなんですね……」
◇アキネ:「……?」
○ルシア:「あ、だったら師匠。明日にでも聞き取りに行きませんか?
殺人卿について、何かわかるかもしれませんよ?」
◇アキネ:「うーん…、まぁ、無駄だとは思うが、行くだけ行ってみるか」
△ミリィ:「………」
◇アキネ:「どうかしたか、ミリィ?」
△ミリィ:「……え? えぇ、ちょっと用事を思い出しましたので、
今日はこれで失礼しますね」
◇アキネ:「あ、あぁ」
○ルシア:「お見舞い、ありがとうございましたっ」
△ミリィ:「それでは、また…」
■09.
●犯罪者収容所
○ルシア:「なんだか、みんな忙しそうですね。
収容所って普通こんなに忙しそうにしているものでしたっけ?」
◇アキネ:「いや、私の持っているイメージともかけ離れているな」
○ルシア:「あのー、すみません。探偵事務所『月下』の者ですけど、
面会の手続きをしたいんですがー」
△N : とりあえず、誰か相手してくれる人が居ればいい、
そんな感じで、不特定多数に聞こえるように呼びかける。
すると、事務所の中にいる職員が全員手を止めてこっちを見る。
○ルシア:(えっ、僕何かしましたっけ?
街を消し飛ばしかけたけど、被害はないみたいだし、
許してくれてるんじゃなかったの?)
□ガトー:「これはこれは。
私はこの収容所の所長をしている、ガトーと申します。
そちらは、先日ゴートの逮捕に協力して頂いた
ラックマンさんとアンファディアさんで、よろしいでしょうか」
◇アキネ:「えぇ、探偵事務所『月下』の所長をしているラックマンです。
で、こちらが助手のアンファディアです」
□ガトー:「かしこまりました。
では立ち話もなんですので、どうぞこちらへ」
***
△N : 場所を応接室に移し、ガトーは重々しく口を開いた。
□ガトー:「大変、申し上げにくいのですが……
先日逮捕にご協力頂いたゴートなのですが……」
◇アキネ:「ゴートが何か?」
□ガトー:「今朝、取り調べを行おうと、
看守が牢屋の鍵を開けに行ったんです。
ですが、そこにいたのは、
すでに物言わぬ死体となったゴートでした。
○ルシア:「そんな……」
□ガトー:「無能と罵られても仕方のない失態ですが、
当然我々は囚人が凶器など持ち込まないように
入念にボディチェックを行っています。
しかし、ゴートは今まで彼が殺してきた死体のように、
鋭い刃物で惨殺されていました。
いつ殺されたかは分かりません、
現場には凶器も転がっていませんでしたが…、
ただ一つこの封筒が……」
◇アキネ:「開けても?」
□ガトー:「どうぞ。
宛名も探偵事務所月下宛となっていましたので、
こちらからお呼びしようとしていた次第です」
△N : アキネは封筒を開け、中から一枚の便せんを取り出した。
◇アキネ:「……これは、……………ルシア、ほら」
○ルシア:「殺人卿……からの手紙?」
□ガトー:「な……いや、やはり…」
◇アキネ:「えぇ、ゴートを殺したのは殺人卿の仕業です。
今回の事を教訓に、警備の強化を行うことをお勧めしますよ。
では、私どもは殺人卿について依頼人と話し合う必要があるので
これで失礼してもよろしいでしょうか?」
□ガトー:「あぁ、すまない。
あなた方の調査が進むことを祈っています」
●探偵事務所『月下』
△N :『六人の生け贄は揃いました。
次の狂月、祭典を開きます。
紅き夜を素敵に彩りましょう。』
○ルシア:「これってどういう事ですか、師匠」
◇アキネ:「どうやら今までの殺人はその祭典とやらの下準備だったようだな。
どう考えても、次の狂月はこれまでとは違う。
一体何をするつもりなんだ?」
○ルシア:「もしかして、次の狂月は……」
◇アキネ:「あぁ、……紅月だ。
殺人卿とやり合うのに紅月だけは避けたかったんだが……
そうは言ってられない状況になるとはな……」
○ルシア:「師匠、悩んだって紅月は来るんです!
僕たちにできることはあきらめないで、
何かできることを探す事ですよ。
そうすればきっと道は開けますよ」
◇アキネ:「……そうだな、お前の言うとおりだ。
悩んでいたって状況が変わるわけじゃないな。
とりあえず、お前に魔術の基礎から教え直すことから始めるか」
○ルシア:「え? …ぁー、そんなに厳しくしないで下さいね?」
◇アキネ:「いーや、だめだ。
私の弟子が魔術の使いすぎで死んだなんてなったら、
私は恥ずかしくてこの事務所をたたまなければならないからな」
○ルシア:「あぅ……」
◇アキネ:「ふふふ」
【後編につづく】




