【1:2:1】狂月の夜(前編)
■20分台本
■登場人物
・ルシア ♂15:アキネの弟子であり助手。
魔術系二級・Dランクの初級魔術師。
・アキネ ♀27:探偵事務所「月下」の所長。
自称、魔術系特一級・Sランクの特級魔術師。
・ゴート ♂25:狂夜の殺人卿の仲間。
・ミリディアナ ♀24:愛称ミリィ。パン屋の看板娘。
・オルバクレイ ♂48:マナの研究の第一人者。魔術系統学の権威。
・N :情景描写。
■配役(1:2:1)
両 ○ (L64) ルシア :
♀ ◇ (L50) アキネ :
♂ □ (L25) ゴート・オルバ:
♀ △ (L41) ミリィ・N :
■補足・備考
※1 配役及び台本中の『○◇□△』は、
各配役の台詞を検索する際の検索対象にお使い下さい。
※2 放送等にはご自由にお使いください。ボイスドラマ等企画については、
メッセージボックスにてご一報ください。
※3 著作権は放棄しておりませんのであしからず。
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■01.
●街道
△N : 月明かりが街を紅く染める。
今夜は紅月。誰一人として外には出ない、紅い夜。
□ゴート:「何だ、またあんたか。
どうせ無理なんだ、諦めて可愛い弟子の世話でもしてな」
◇アキネ:「はっ、言っとけ。別に無理なわけじゃないさ。
ただな、その弟子にもそろそろ花を持たせてやろうと思ってな」
□ゴート:「まあいいさ、好きなようにすればいい。
殺戮は続く。それを指をくわえて見てるがいいさ」
△N : 二人の声が響く。男と女。
拘束具のような深紫の服に身を包んだ女。
真っ白な服に巨大なナイフ、そのどちらも真っ赤に染まった男。
◇アキネ:「次だ。次の狂月には全てを終わらせる。
それまで存分に余生を楽しむんだな」
□ゴート:「次…次は蒼月か」
◇アキネ:「そうだ。彼女に伝えておけ」
□ゴート:「ふん、いいだろう。……俺だ、聞こえるか?
…あぁ、そうだ………」
◇アキネ:「念話か…」
□ゴート:「………。伝えたよ。その愛弟子に伝言だとさ。
『ルールは鬼ごっこでよろしいですかぁ?
あなたが逃げて私が追うの。
あなたが逃げ切れれば勝ち、そうでなければ……」
◇アキネ:「(前セリフ『なければ……』に被せる)
ルールなんてどうでもいいさ。
私の弟子があんたらを倒す。それだけだ」
□ゴート:「くっくっく。では、蒼い夜に」
◇アキネ:「ああ」
△N : 返された踵は相容れることなく遠ざかっていった。
■02.
●街道
○ルシア:「~♪~♪」
△ミリィ:「ルシアくーん、今日はパン買っていかないの?」
○ルシア:「買います買いますー」
△ミリィ:「いらっしゃい。今日は何を買ってく?」
○ルシア:「ぬー、じゃあ……。それとそれとそれとそれと、それっ!」
△ミリィ:「いつもありがとうね。
これ新作だからどうぞ。先生から感想聞いてきてね」
○ルシア:「分かりましたー。ありがとうございますっ」
●探偵事務所『月下』
△N : 大陸有数の港町『アルディス』。
様々な人々の行き交うこの町の大通りに面した小さな建物。
その二階に事務所を構えているのが探偵事務所『月下』である。
事務所は所長と助手の二人だけで営業中。
○ルシア:「只今戻りましたー」
◇アキネ:「【寝息】」
○ルシア:「師匠?」
◇アキネ:「【寝息】」
○ルシア:「ちょっと、どこで寝てるんですかっ、師匠、師匠!」
◇アキネ:「…んぅ………誰?」
○ルシア:「ちょっ、師匠! 僕です僕っ」
◇アキネ:「……あー、アリス?」
○ルシア:「誰ですかっ。ルシアです!」
◇アキネ:「あー……おはよう、ルシア」
○ルシア:「もう昼ですが? それに寝るなら寝るで、
ソファーに横になるとかあるんじゃないですか?」
◇アキネ:「面倒くさい。
そんなことよりも昼食にしよう昼食に。いただきます」
○ルシア:「ちょっと師匠。
僕はまだ帰ってきたばかりなんだから待ってくださいよ」
◇アキネ:「……」
△N : ぴたっと、パンを口に持っていこうとした手をその場に止めた。
そして、ルシアが荷物を片して席に着き、
○ルシア:「いただきます」
△N : と言った瞬間に食べ始める。まあ、いつものことだ。
***
◇アキネ:「で、仕事の件だが、お前、
狂夜の殺人卿について、どれくらい分かる?」
△N : 狂夜の殺人卿。狂月に起こる連続殺人。
狂月とは、月光の性質変化がもたらす一夜限りの天変地異である。
一番多く起こる紅月は、
大気中のマナを人体に有害となるレベルまで急激に増加させる。
△N : 建物にはそれなりの措置がとられており、
建物内部にいればほとんど影響が無いので、
紅月の夜は研究者以外は外に出ないのが普通だ。
他にも黒月や白月、そして蒼月がある。
△N : そんな狂った夜に現れる殺人卿。被害者はすでに5人。
自警団も手が出せず注意を促すことしかできていないようだ。
○ルシア:「それで、師匠に依頼が来たんですよね?」
◇アキネ:「そうだな。
だが先日遭遇した感じ、どうも私とは相性が悪くてな。
だから、今回はお前に手伝ってもらうことにしたから」
○ルシア:「そうですかって、ええっ! 僕ですか?
いつもならいくら頼んでも手伝わせてもらえないのに……。
それに師匠でも手が出せないって言ってるのに、
僕ができることなんて何も無いんじゃないですか」
◇アキネ:「手が出せないっていうと私が弱いみたいじゃないか。
そうじゃない、相性が悪いんだ。属性の相性は
レベルの差を十二分に補えるものだって前にも言っただろう。
さて、そうと決まれば一つ聞くが、訓練は毎日続けてるか?」
○ルシア:「当たり前じゃないですか。
普通は師匠が監督するものだと思うんですが……」
◇アキネ:「監督なんかしなくてもちゃんとやってるのはわかってる。
確認だ確認」
○ルシア:(絶対面倒くさいだけだ……)
◇アキネ:「それは置いといてだ。攻撃力重視で今一番得意な魔術はどれだ?」
○ルシア:「……攻撃力が一番高いのは純粋な魔力放出です、多分」
◇アキネ:「………」
△N : あからさまに呆れた顔でアキネがルシアを見つめる。
◇アキネ:「まあいいか。威力は?」
○ルシア:「第六級魔力放出くらいですかね。
家一軒は楽に吹っ飛ばせますよ♪」
◇アキネ:「なるほど。
次の狂月までに威力を三倍、いや五倍まで上げとけ」
○ルシア:「師匠、次の狂月っていつですか?」
◇アキネ:「知らん」
■03.
●図書館
△N : ルシアは、狂月の研究機関で助手をやっている友人に頼み、
次の狂月がいつ起こるかを割り出した。
結論としては、次の狂月までは一週間、
狂月の種類としてはおそらく蒼月になることだろうということ。
○ルシア:「たったの一週間……やっぱり無理だよ。
そんな短期間で魔力放出の威力を五倍まで高めろだなんて」
△N : 魔術における訓練は、ずっと段階的に上達していくわけではなく、
初級魔術は努力量さえ積めば比較的簡単に習得できるが、
中級魔術から上級魔術にかけては急激にレベルが上がり、
努力だけでは無理な状況になってくる。
○ルシア:「…才能、かぁ。
僕にないもの。僕が今一番欲しいもの。
でもこればっかりはなぁ……」
△N : 『才能が無ければその分は努力で補えばいい』というのは
アキネの受け売りで、ルシアの好きな言葉の一つだが、
そのアキネはと言えば、
いつも寝ているばかりで努力しているようなそぶりはない。
過去、魔術を習いたての頃は凄い努力をしたんだろうか。
そんなことを考えながらぼんやりしているうちに、
ルシアはうとうとと眠ってしまった。
***
○ルシア:「やっば、もうこんな時間!」
△N : 羽織っている上着のポケットから時計を取り出し確認すると
もう結構な時間になっていた。
借りた本を縛って鞄に入れると、図書館を後にした。
○ルシア:「あれ? ミリィさんのパン屋さんもう閉まちゃってる…。
いつも夜までやっているのに、何かあったのかな…?」
●探偵事務所『月下』
○ルシア:「ルシアただいま戻りましたー、遅くなってすみません。
すぐに夕食の用意しますんで……って、
何でそんな格好してるんですか?」
◇アキネ:「そんな格好で悪かったな。
すぐに出れるように用意しろ、出かけるぞ」
△N : ルシアが事務所にもどると、アキネが珍しく正装をしていた。
いつもは後ろで結んでいるだけのぼさぼさの髪の毛も、
きちんと櫛で梳かされ綺麗に結び直されている。
いつものよれよれの服はピシッとしたローブに着替えられていた。
依頼人に会いに行くときの正装である。
○ルシア:「お、依頼ですか?」
◇アキネ:「まぁそんなところだな。会っておかなければいけない人がいる」
○ルシア:「へぇ……ってか僕もですか!?」
◇アキネ:「ほら、ぼんやりしてないでさっさと用意しろ、
今回ばっかりはお前もいなくちゃならないんだからな。
で、そのままの格好でいいのか?」
○ルシア:「僕はこのままでいいですよ。
そんな余所行きの服も持ってませんし」
◇アキネ:「ふん、こんなこともあろうかとお前に合いそうな服を取ってある。
それを着るといい」
△N : そう言って事務所のクローゼットをごそごそと漁りだすアキネ。
◇アキネ:「ああ、これだこれ」
△N : アキネは大きめの古びた箱を取り出すと、
その中から黒い服を取り出した。
広げてみると、タキシードであることが分かる。
所々に刺繍が入っていたりして結構凝った作りになっている。
○ルシア:「師匠、何でこんなの持ってるんですか?」
◇アキネ:「ん……ちょっと、な」
○ルシア:「……?」
◇アキネ:「いいからさっさと着替えな!」
●アルディス・郊外
△N : 二人を乗せた馬車が物静かな街外れの林道を走る。
○ルシア:「そう言えば結局どこに行くんですか?」
◇アキネ:「オルバクレイ卿のところだ、
マナの研究の第一人者にして魔術系統学の権威」
○ルシア:「あ、そうだったんですか」
◇アキネ:「お前何も勉強してないな」
○ルシア:「う……、ははは…」
◇アキネ:「そういや、帰ってくるときにミリィんとこの前通ったか?」
○ルシア:「え? えぇ、でも珍しく閉まってましたよ」
◇アキネ:「そうか……」
○ルシア:「?」
◇アキネ:「………」
△N : その後は2人とも口を開くことなく、
馬車の中には微妙な沈黙が流れる。
辺りはすっかり夜の帳が下りて真っ暗になっている。
今夜は雲っていて月も出ていない。
人工の灯りがない暗闇の中、馬車はガタゴトと邸宅へ向かう。
■04.
●オルバクレイ卿の屋敷
△N : オルバクレイ卿の邸宅に着くと、執事の人が丁寧に迎えてくれた。
邸宅の内装は装飾華美なものではなく、
重厚な石や木で落ち着いた感じに造られている。
応接室に通されたが、ここも客室というより事務所っぽい造りで、
部屋の壁を覆う本棚には書物がみっしりと整理されている。
◇アキネ:「これから何を聞いても驚くなよ……」
○ルシア:「え?」
□オルバ:「待たせてすまなかったね、ラックマン君」
◇アキネ:「いえ、こちらこそ突然押しかけてすみません、オルバクレイ卿」
□オルバ:「いやいや今は致し方ない、ところでそちらの少年は?」
○ルシア:「あ、えっと、師匠の弟子のルシア・アンファディアと申します。
ぇー、どうぞ宜しくお願いします」
◇アキネ:「……ったく、師匠の弟子ってそのまんまじゃないか」
□オルバ:「ふふふ…、こちらこそ宜しくお願いするよルシア君」
○ルシア:「はい、僕でよろしければ何なりとお手伝いさせて頂きます」
△N : ルシアとオルバクレイ卿は互いに握手を交わす。
白手袋を外したオルバクレイ卿の手は意外にごつく、
どことなくアキネの手と似ている感じがした。
□オルバ:「それでは本題に入ろうか。
殺人卿のことについてだが、概要は分かっているかな?」
◇アキネ:「はい、こちらでも独自に調査を進めていましたので。
こちらの報告書をどうぞ」
□オルバ:「ふむ……やはりあの男が絡んでおったか」
◇アキネ:「はい。
そして、メルロン・ゴートが関わってきた以上、
私では相性に問題があります。
そこでこの子に協力してもらおうと思っているんですが」
□オルバ:「彼、いや、ルシア君の魔術系統は何かね?」
◇アキネ:「それなんですが……
いや、お恥ずかしいことに魔力変換はからっきしでして。
しかし、魔力の蓄積量と単純な魔力放出の威力は私が保証します」
□オルバ:「ふむ…。
蓄積量と魔力放出に特化しているならば、
確かに君よりも相性はいいと思うが、
ルシア君も無傷ではすまないよ?」
◇アキネ:「それは私が援護します。あとはこいつの覚悟次第で」
□オルバ:「ということらしいが、ルシア君自身はどう思っているのかな?」
○ルシア:「僕は、師匠の弟子になったときから、
いつか師匠の役に立ちたいと思ってましたし、
実戦経験は全くないですが、戦える、と思います……おそらく」
△N : 大陸同士の大戦や国の内戦も収まったこのご時勢では、
国防の魔術員になるか傭兵にでもなるかしない限り、
実戦の機会などないのが普通であった。
□オルバ:「ふぅむ…、そうだな。
殺人卿とその周辺、それに狂月の基礎的な知識を話しておこう。
どうするかを決めるのはそれからでも遅くはない」
△N : ルシアが思いつめているのを悟ったオルバクレイ卿は
穏やかに語り始めた。
□オルバ:「狂月というのは君も知っていると思うが、
その種類には紅月・蒼月・黒月・白月というものがある。
たとえば紅月は、
大気中のマナを人体に有害となるレベルまで急激に増加させる。
それに反して蒼月は、
大気中のマナがほとんど無くなってしまう状態を引き起こす。
黒月と白月については詳しくは解明されていないが、
おそらく闇と光に関する何らかの反応を引き起こすのではないか、
と言われている。ここまではいいかな?」
○ルシア:「ぇ…あ、はい」
□オルバ:「まぁ、それ自体はあまり問題ではないのだがね……。
問題なのは、
ラックマン君と殺人卿の同胞メルロン・ゴートとの魔術属性が
似通っていることなのだよ。これは話してもいいかい?」
◇アキネ:「どうぞ、私もそのつもりでしたので」
□オルバ:「では続けさせてもらうが、
ラックマン君の魔術系統は少々特殊でね。
彼女の魔術は魔力をそのまま変換して使うのではなく、
自分の身体に魔力を流し身体能力を飛躍的に上げるものなのだよ。
ラックマン君の蓄積できる魔力量はそう多くないが、
別に自分の魔力で大魔術を放つわけではないからね。
少しの魔力があれば戦闘を行うことができる。
とは言っても、蓄積量故にそう長くは無理だがね」
○ルシア:「………」
□オルバ:「メルロン・ゴートもこれと同じような魔術を使う。
彼らのようなタイプの魔術師は蒼月の時に戦うのを好む、
蒼月なら大気中のマナがほとんど存在しなくなるから、
それを引き出し変換するような普通のタイプの魔術師からは
攻撃を受ける心配がないからね。
そういう意味では蒼月の時にメルロン・ゴートと互角に戦えるのは
ラックマン君ぐらいしかいない」
◇アキネ:「お言葉ですがオルバクレイ卿。
私よりもこの魔術系統で秀でている者は他にも存在します」
□オルバ:「だが君は大気中のマナを取り込む魔術系統にも長けている」
○ルシア:「それなら蒼月じゃないときに
そのメルロンとかいうのと戦えばいいんじゃないでしょうか?」
□オルバ:「それが出来れば苦労しないのだが……。
紅月のときには殺人卿本人も出てくるのだ。
殺人卿は大気中から魔力を抽出して変換することに特化している。
ラックマン君よりもその能力は高いだろう。
だから紅月では二者を相手取る必要があり、
まともに近寄ることもできないのだよ」
○ルシア:「………」
□オルバ:「そして、殺人卿が唯一弱くなる蒼月の日を狙えば、
メルロン・ゴートが出てくる。そこでだ。
殺人卿の出てこない蒼月の日に彼と戦い、優先的に彼から倒す。
もちろん我々も援護はするよ。
だが、決定的な一打には君の力が必要になるのだよ、ルシア君」
○ルシア:「僕にそんな力は……」
◇アキネ:「あるね。お前ならできるさ」
○ルシア:「何で、そんなことが言えるんですか……」
◇アキネ:「お前は私の弟子だからだ」
□オルバ:「ラックマン君らしいな」
○ルシア:「えっと………。
わかりました、頑張ってみます!」
◇アキネ:「まだ時間はある、しっかりやってくれよ。
死ぬのも死なれるのも嫌だからな」
□オルバ:「では具体的な話を始めよう」
◇アキネ:「っと、その前に。おい、ルシア。
ちょっと事務所に忘れ物したから、取ってきてくれないか?」
○ルシア:「……はい?」
◇アキネ:「いやね。ちょっと殺人卿対策の資料用意してたのに、
事務所に忘れていることに気付いてな。
机の上においといたと思うから、よろしくな」
■05.
●アルディス・街道
○ルシア:「師匠もひどいよ、全く」
△N : 先程まで雲に覆われていた空に、今は月が顔を覗かせ輝いている。
ほの暗く照らされる街。
アキネやオルバクレイ卿の言葉を胸に刻みながら、
ルシアは夜の街を歩き続ける。
○ルシア:「ん? あれはミリィさん?
どうしたんだろう、こんな時間に」
△ミリィ:「あら、ルシアくん。こんばんは」
○ルシア:「あっ、こんばんは。ミリィさん。
って、そうじゃなくて、危ないですよ?
こんなに時間に女の人が一人歩きだなんて」
△ミリィ:「そういうルシアくんだって、
こんなにかわいいんだから襲われちゃうかもしれないよ?」
○ルシア:「もう! ちゃかさないでくださいっ」
△ミリィ:「うふふ」
○ルシア:「それで、どうしたんですかこんな時間に?」
△ミリィ:「うーん。ちょっと、考え事してたら、随分遅くなっちゃってね」
○ルシア:「考え事?」
△ミリィ:「もう少しで、完成しそうなんだけどね」
○ルシア:「新作のパンですか? 楽しみにしてますねっ」
△ミリィ:「うふふ。それじゃあ、私はこれで……」
○ルシア:「あっ、送っていきますよ」
△ミリィ:「そんな。大丈夫ですよ」
○ルシア:「ダーメーでーす。
夜道は危険なんですから、送らせてくださいよ」
△ミリィ:「うーん、分かりました。それなら、お願いしますね」
***
△ミリィ:「それにしても、ルシアくんってすごいですよね」
○ルシア:「えっ? そ、そんなことないですよ」
△ミリィ:「だって、ルシアくん。
探偵と魔術師と、どっちも同じぐらい一生懸命だし。
その熱意は本当に凄いと思うわ」
○ルシア:「えぇ……そんなことないよ」
△ミリィ:「後、それに、アキネさんの世話もね」
○ルシア:「あっ、それは確かに。あの人の世話は大変だから」
△ミリィ:「っふ、うふふふ」
○ルシア:「あははは」
△ミリィ:「あっ、家に到着しました。
どうもありがとうね、ルシアくん」
○ルシア:「いえ、全然気にしないでください」
△ミリィ:「それじゃあ、また、今度会いましょう」
○ルシア:「はい、それでは」
●オルバクレイ卿の屋敷
○ルシア:「ただいま戻りました。師匠、持ってきましたよ」
◇アキネ:「うん? おお、ありがとう」
□オルバ:「おかえり、ルシア君」
○ルシア:「……」
◇アキネ:「どうした? そんなに見つめて。私の顔に何か付いてるか?」
○ルシア:「いや、もっとがんばらないとなあと思いまして」
◇アキネ:「ああ、お願いするよ。ゴートを倒す為にもな」
□オルバ:「さて、それではラックマン君の殺人卿対策も含めて、
残りの話を詰めていこうか」
【中編につづく】