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『ソフィアの白紙文書』

(ジャパンクールとか輸出とか戦略とか言っているけれど、結局不遇ですよね。この人たち。)

 上智の天使ピスティス・ソフィアは神様からの呼び出しに応じるために雑踏を進みながら、スマートフォンに映る英雄を見て思った。

(だって結局厨二病患者と嗤われていた結果として、異世界召喚とか異世界転生を受け入れてしまうんですから。)


 かなり失礼なことを考えながら、ソフィアがたどり着いたのはどこにでもあるファストフード店。

 問題がいろいろ起こっているチェーンなのだが自分の身に起こらなければ平気だし、節約しないと駄目なのはどんな存在でも共通だったりする。

 まずはカウンターに行って一番安いハンバーガーとバニラシェイクを調達。場所代に食べ物飲み物がついてきてこのお値段ってお得ですよねと思いながら、神様を探す。


「10分前到着。相変わらずソフィアは几帳面だね。」


 そんなソフィアに手を振ってくる白面黒髪の美少年。どうやら神様は既に到着していたようだ。


「そんなことはありませんよ。普通のことでしょう?」

「最近はそうでもないよ?携帯電話が普及したからどこにいても連絡がついちゃうからね。」

「そちらのほうががおかしいのでは?」

「ビジネスにおいては、そうだろうね。プライベートでは普通じゃないかな?ウラヌスもロゴスも遅れるときは気軽に携帯で連絡くれるけど。」

「そんな畏れ多い。(あとでロゴスにぃ叱っておかなきゃ…)」


 他愛もない会話をしつつ、場所代として買ったハンバーガーを片付け、シェイクを飲みつつ本題に入る。

 今回の本題は“異世界へ行く魂に与える加護を持ってくること”

(でもロゴスにぃが「ソフィアの加護はウラヌスさまと被りそうだから免除で大丈夫」って言ってたんだけど…)

 ソフィアは1冊の革層本を鞄から取り出しつつ問いかける。


「ところでご指定の通りに作ってきましたけど…なぜ今更になって?」

「ロゴスが彼の加護は君との合作だって言ってたんだよね、最初。でも加護の中身と力のパス見てみたらロゴスだけじゃない?で、審問したら白状した。」


(大丈夫って、免除されてたわけじゃなかったの!?あのバカ!)

 ソフィアは頭を抱えつつ、本を相手に差し出した。


「ロゴスにぃが大変失礼いたしました。どうぞご査収ください。」

「そんなに畏まらないでよ。別に怒ってないし、実際君の加護ってウラヌスやダマビヤーたちと被るから普通に考えたら免除だし。」


 神様は気安く応じて、本を受け取ってくれた。

(よかった…ってあれ今?え…?)

 ひとまずの安堵を得た後、神様の発言に違和感を得る。

 おかしい。ソフィアの作ってきたものは加護のはずだ。あの革層本は確かに加護のはずなのだ――


「あ、あの、でもそちらは加護ですよね…?普通に考えたら免除って…」

「え?加護?これが?あはは、ないない。だって1回だけじゃショボ過ぎじゃない?これじゃ誰にも選んでもらえないよ。」

「わかりました回数増やしましょう。」


 格はウラヌスほどではないし、格下のダマビヤーたちにはある加護を譲ったが、ソフィアとて上智の天使。知をつかさどる神格の一雄だ。意地がある。


「駄目だよ、それは。ここと同じような世界が量産されちゃうでしょう?」


 そんな意地から出た言葉も、神様には効果がなかったようだ。正論で返されてしまった。


「ううっ…で、ではそれは何に使うんですか?」

「おまけ。」


 あまりに清々しい即答に思わずソフィアは突っ伏した。トレイの上に畳んであるハンバーガーの包み紙の上に。


「大丈夫?ソース付くよ?」

「大丈夫じゃありませんなんですかおまけって!おまけ扱いってひどくないですか!?」

「いやでも丁度いいんだよね、これ。」

「丁度いいって…」


 ソフィアが絶句したのを見て相手は立ち上がる。


「じゃあブツも受け取ったしそろそろ行くね。暇じゃないんだよ、これでも一応神様だから。」

「嘘ですよねそれ!楽しそうだからって言う理由だけで魂の輸出事業始めたお子様なのに!」

「こらこら、不敬であるぞ。畏み敬いたまえ。」


 冗談めかしてそう言ったこの世界の神様は立ち去った。

 恨みがましく見つめるソフィアをファストフード店に残して。


 神様が立ち去った後もしばらく一人佇んでいたソフィアは猛然とシェイクを吸い込むと席を立った。


(おまけ扱いされた鬱憤も含めてロゴスにぃに全部ぶつけてあげる…!ふふふふふふ―私が自重せず作った激辛麻婆豆腐と激甘ティラミスにむせかえるがよい!)


 八つ当たり込の勢いで買い物を済ませて、意気揚々と引き揚げたソフィアは。

 冷蔵庫に貼ってあるカレンダーを見て崩れ落ちた。


○課の歓送迎会(晩飯不要)


 その晩。一切の自重なく材料を買い込み。一切の自重なく自分好みの激甘激辛に味付けした料理を食べつつ。ロゴス秘蔵のワインまで開けて、本性丸出しで酔っぱらう天使が爆誕した。



「私は!おまけじゃないです!わ・た・し・は!お・ま・け!なんかじゃな~~~~~い!!!」

「ただいま~ってうわ!酒臭っ!しかも目!髪!羽まで!何やってるお前は!」


 午前様で帰宅したロゴスが目にしたのは、純白の羽を背に生やし、両手に空のワイン瓶を持ってジタバタする金髪碧眼の女天使だった。


「あ~~!お帰り嘘つきロゴス!ダイジョブじゃなかったじゃな~~~い!嘘つき嘘つき。おかげで私は加護じゃなくておまけに…うぇ~ん!」


 酔っ払いの言葉に気まずさを覚えたロゴスは、目をそらしつつ部屋の整理から始めることにした。


(俺もかなり飲んできたはずだが…かなりの酒臭さが…まあ酒に弱いこいつが一人で2本も開けたら当然か。はぁ…俺のワインが…)


 麻婆豆腐が入っていたと思しき皿とティラミスが入っていたと思しき小型タッパーを洗い。

 ようやく離したワイン瓶も濯ぎ。

 お風呂を温めなおしてからようやく、事情を聴くためにソフィアの傍に腰を下ろした。


「で。何がどうなってこうなった。」


 宥めるように指で髪を梳きつつ問いかけたロゴスに、猫のように頬を摺り寄せながらソフィアは答えた。


「ロゴスにぃがダイジョブっていってたのに、何だか神様から指定の加護を作って持ってきなさい!って言われてたじゃない?」

「(うっ…!)あ、ああ。被らないように加護を指定してきたってことだろ?」

「(じとー)正式には免除されてなかったじゃない!嘘つき!…それでね、作って持って行ったの。『ソフィアの白紙文書』」

「あれな。たしか『贈られた人間がその表紙に書いた技術・制度についての知識が、状況に応じて随時書き込まれる』んだっけか?」

「うん。それでね、指定回数1回だったからその通りにして渡したら加護じゃなくておまけにするって!1回じゃ加護としては誰にも選んでもらえないって!うぇ~ん!」


 また泣き出してしまったソフィアの頭を抱いて撫でながら、ロゴスは少し考える。

(おまけって…どういうことだ?まさか!)

 ある可能性に思い至ったロゴスは神様に電話をかけた。


「なんだよこんな時間に…。子供は寝ないと大きくなれないんだよ…?」

「戯言はいいから一つ答えろ阿呆父上。おまけって全員にか?」

「そうだよ…じゃあおやすみ。」


 その答えに慄然としつつ、泣きつかれて寝てしまったソフィアをベットに運んだロゴスは、ソフィアの耳元で囁いた。


「君の加護が一番大変かもしれないぞ…?おまけなんかじゃなくサポートやアフターケアの類じゃないか。時間と手間が他の加護の比じゃない。変に嘘でごまかして守ろうとしなければよかったな…」


 そしてソフィアの羽を隠し、目と髪の色を黒く戻して、ロゴスはお風呂に向かった。



 翌朝。10時過ぎまで寝た上に、泣きはらしてヒリヒリする瞼に濡れタオルを当てつつぼやく駄天使の姿があった。


「う~~~。ヒリヒリする。しかも恥ずかしい…どんな顔して帰ってきたロゴスにぃに会えばいいんでしょう…」


 そんなソフィアの前に、革装の本が光とともに現出する。


「あれ?もう1人目の使用者さんですか?やりました!おまけ扱いでも使い勝手はいいですものね。私の加護は。ふふふ。何がお望みなんでしょうか…?」


 そしてソフィアは1冊目の本を開いた――

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