服選び
名前カタカナばっかで覚えにくいですよね。スミマセン。
まん丸い月は今宵、リムゾナント国の姫、クレドリッヒの誕生日を祝うかのよう。誕生石は【oracle】オラクル。少し黄色がかっていて透明な美しい石だ。
「それではごゆっくり」
クレドリッヒの目の前に、侍女のサーナが置いた紅茶が差し出された。
「話とは?」
向かい側に座っていた屈強な男騎士のミゲルは笑顔を作ると、後ろにいた5人の召使いに視線を向けた。どの召使いも同じ角度できっちりお辞儀をし、2人のいる部屋を後にした。
「父はもうアーニャ様の言いなりです。もう貴方だけしか頼れる人がいなくて・・・」
クレドリッヒは紅茶の入ったカップを手に取ると、飲まずにテーブルの上に返した。銀髪の、床まである髪がさらりと流れる。
「ここへはおひとりで?」
姫がこくりと頷くと、ミゲルの目が険しくなった。
(姫ともあろう方がエーツィまで1人で来たなんて。余程お困りの様子。従者達は何をやっているんだ)
クレドリッヒは継母のアーニャ女王の監視から逃れる為、自身のいた第2の城であるベンヌ城を飛び出してきた。実父のローウェルの他に身寄りがなかったが、父はもはやアーニャ女王の言いなり。頼れるはずがなかった。なので、幼馴染で騎士のミゲルの元へとやってきたのだ。
「今日は私にとって特別な日です」
クレドリッヒは目を細めてミゲルを見た。その目はどこか物悲しげであるが。
「私と共に、ナルカに行っていただけませんか?」
ナルカには継母であるアーニャと父のローウェンがいる。だが1人で行くのにはあまりにも危険だと、さすがのクレドリッヒも感じていた。
そう言われ、ミゲルは笑顔を隠せぬようにして
「ぜひ。わたくしの馬ならば山をも越えて行けるでしょう」
と言った。
馬と聞いてクレドリッヒは決心した。早く首都ナルカに行って父を説得したい。
「お洋服がボロボロですね。その恰好じゃ目立ちますし」
と、クレドリッヒのドレスを見た。そのドレスの胸元には宝石が飾ってあり、豪華な光を放っていた。
「す、すみません」
ドレスの裾を自分で確かめるように持ち上げ、クレドリッヒが慌てて言った。その様子をくすりと笑うと、ミゲルはこちらです。と彼女を試着室へ案内した。
何百着ともあろう服が上と下にかけられていた。そんな光景に慣れてしまっているクレドリッヒはいつもの癖で、召使いに着替えやすいよう両手を上げてしまった。そこでサーナが次々と見立てていく。
どうでしょう?と何十回聞かれただろう。しかしクレドリッヒは鏡に映っている自分の後ろにある服が気になった。深々とした緑で一般的だがどこか品があり、背中には矢筒がかかっている。
「これですか?」
サーナがその視線に気づき、クレドリッヒの目の前に服を持ってきた。
「ミゲル様の亡くなった奥様のものです」
そうと聞き、自責の念にかられたクレドリッヒは
「違うものを」
と言い、かけてある服の中を探し始めた。その様子を見て、サーナは首をふるふると横に振った。
「幼馴染の貴女様なら、これを着る権利があるでしょう」
その言葉を聞き、しばらく考えたクレドリッヒは彼ならば許してくれるだろうと思い、心に決めた。
幼馴染なのによそよそしいのは何でか、というのは後々書いていきます。