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我輩

|鵠《くぐい》

作者: 紅蓮

 近所の畑にあるデントコーン(飼料用とうもろこし)畑の残りカス目当てで来ている白鳥の事を眺めながら何となく書いてみました。

 2階にいると目の前をV字飛行して飛んで行きます。

 でかいです。

 

 鵠とは白鳥の古語の事です。


 それにしても、毎日毎日クエックエ、クワックワと喧しい事この上ないです。

 たまに丹頂鶴の番も飛んでいますよ。

 我輩は(くぐい)である。

 名前は当然の如く無い。

 我輩は冬の間遥か北より…人間が作った国名で言えば、シベリア、と言ったか…そちらの方から遥々海を渡り、これまた人間が作った国名で言えば、日本とやらの北海道にやって来たのである。


 それは何故か。

 それは越冬するためである。


 それは何故か。

 それはシベリアが寒いからである。


 …。


 あとは食事の確保か。


 無論、北海道とやら以外にも更に海を渡り、本州とやらに行く者もいる。

 しかし、我輩はこの温泉に程近い川が好きなのである。


 それは何故か。

 川の水が他の場所よりも温かいからである。


 それは何故か。

 それは観光地故、我輩等のために無料の食事が設置されており、それを観光客共が撒いてくれるからである。


 うむ、美味である。

 穀物も良いが、あのふわふわと柔らかい…パンとやらを所望するぞ。


 うむ、そこの小さき者よ、良きに計らえ。


 クウェックウェ!


 我輩等鵠の他にもコガモ、マガモ、カルガモ、ホシハジロ、キンクロハジロ、マガン、アメリカヒドリ、アメリカコハクチョウ、ヒシクイ、アメリカコガモ、スズガモ、シマアジ、トモエガモ、オナガガモ、ハシビロガモ、ヒドリガモ、ヨシガモ、バン、カイツブリ、コサギ、アマサギ、ゴイサギ、アオサギなどもいてクエックエ、クワックワ、ガーガーと喧しいのである。


 そういえば…鶴も来ていたな。

 滅多に来ないのだが、何を思ったのやら…。

 若い個体だった故、親離れしたばかりの個体であろうな。


 

 しかし、そろそろ雪も溶けて暖かくなって来た。

 そろそろシベリアに帰らねばなるまい…。

 その前に、ここより少し北の畑には去年の秋にデントコーン(飼料用のとうもろこし)の収穫した残りが残っているはずである。

 周りを見れば、仲間達もその白く大きな翼を広げ、畑へと向かっている。

 毎年の事ゆえ慣れたものよ。



 我輩も急がねばなるまい。


 

 その畑の直ぐ側には家があるのだが、去年は無かった長い棒が天高く立っておったのには驚いた。

 あれは一体何なのであろうか?

 危うくぶつかる所であったぞ。

 そして、去年はいなかった小さいのが母親に抱かれ、我輩等を指差し笑っておる。

 

 ふむ、子か?


 我輩には関係ない事だが。


 畑に着くとすでに他の群れからも集まり100羽以上が集まっていた。

 こうしてはおれん。


 我先にと残っていたデントコーンを貪り食い、体力を蓄え、他の群れのリーダーと話し合い、我輩等は故郷へと帰る日取りを決める。



 

 そして、我輩等は沢山の群れでV字を作り、シベリアへと帰って行くのだ。

 

 ふむ、何故V字飛行をするのかと? 

 それは空気抵抗を減らす為である。

 

 もっと詳しく説明するかの?

 分かり易いよう車で例えようか。

 

 V字になるのはスリップストリームの利点を生かしつつ危険度を下げるためである。

 スリップストリームとは先行車の真後ろにつくと先行が空気を押しのけた分気圧が下がり空気の渦が発生、まわりの空気や物体などを引き寄せる効果が発生し空気抵抗も先行車より低下させた状態の事をいう。


 さらに先行車も後方に出来る空気の渦が後続車の後ろに流される事で、空気抵抗が減りわずかに速度が上がるのだが、これをバックスリップと言う。

 先行も後続も抵抗が減る事で省エネの恩恵を得られるのである。


 ちなみに、一列であった場合、疲れた先頭を交代する時に追い越そうとすると今まで軽減されていた空気抵抗をいっきに受ける事になるため車体バランスを崩しやすく、車体が浮いたりスピンして先行や他の後続車を巻き込む危険がある。

 

 故に、恩恵は受けられるが危険度の少ない斜め後ろを飛んでいる、という事である。

 

 またバックスリップは高速走行でないとほとんどメリットはないが、後ろに2羽つく事で先頭のメリットが2倍に増やせる、という事でV字飛行をしているのである。


 長距離飛を跳ぶが故に、仲間が多い方が自分の負担も減らせるのだ。

 V字飛行はローリスク・ハイリターンな飛行法なのである。


 賢いであろう?

 鳥頭だと馬鹿にするでないぞ。


 



 それでは、また来年にでも会おう。

 さらばである。

同日4月3日誤字修正済み。

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