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第二部外伝・そのころ彼らは3

こっそり更新。

書ききれなかったので分割。

「……なあ」


「なんすか?」

『なんすか?』


『なんでしょうかご主人様☆』


 トライ救出作戦が決まった数時間後、おっさんたちのいるオフィスの一画はちょっと怖いほどの光景へと変化していた。

 整然と並べられていたデスクのほとんどは隅っこのほうに寄せられ、お茶や書類などを置くための最低限の数が中央付近に残されている程度。


 だが一番変化したのは、そのデスク1つ1つに備えられていたはずのパソコンの位置だ。

 サーバーの置かれた場所の近くに全てが移され、ファイリングされた書類が置かれていたのであろうスチールラックなどを使って一箇所に集められている。

 10台近くあるように見える大量のパソコンが一箇所に集められ、まるで守衛室の防犯カメラ映像を映し出すテレビのように並べられていた。


 そこで例の残念部下は、絶え間なく高速でキーボードを叩き続けて様々な処理を行っているようだ。

 10台ほどもある大量のパソコン画面には次々と意味不明な文字の羅列が入力されていく。

 1つとして遊んでいるパソコンが無いあたり、彼の能力がどれほどチートレベルなのかわかるというものだろう。

 ……厳密には遊んでいるように見えるパソコンがあるにはあるのだが。


 そんな状態の残念部下に、アイテム主任は呆れながら、それはもう盛大に呆れながら声をかけた。


「お前がもう一人、ってのはわかるんだ。

 電子精霊を改造してお前並の能力を持たせてるってのは理解できる。

 この際だから無駄に人格とか会話機能を持たせたのも目を瞑るよ」


「そらどうも」

『そらどうも』


『ありがとうございます☆』


 残念部下が返事をするのと同時に、作業に必要とは思えないスピーカーから同じ声で同じ返事と、誰の声だとツッコミをいれたくなる声が聞こえてくる。

 合成音声だとわかる声なのだが、妙にリアルな発音をしてくるので何も知らなければ受付嬢くらいならできそうなほど自然な発音だ。


「でもな」


 アイテム主任は一度深くため息を吐く。


「なんで、メイドなんだ?」


「ロマンッス」


 再び主任は深く、深~~~~~くため息を吐く。

 チラリと並ぶパソコンの1つに目をやれば、そこでは妙に露出が多くなるように改造されたメイドっぽい服装、秋○原のメイド喫茶にいそうな格好をした女性の画像が映し出されていた。

 しかも静止画ではなく、CGでも使っているのか3Dの立体的な映像で、それが画面内をグリグリ動き回っている。

 掃除をしていたり、お菓子を作っていたり、歌いながら画面横断していたり……

 ちなみに


「我が技術の結晶体、エリザベスちゃんッス!」


『よろしくお願いしますっ☆

 気軽にエリザちゃんって呼んでくださいね♪』


「今日もかわいいよエリザちゃん!」


『や~ん、ご主人様ありがとうございますぅ☆』


「なにこれウザい」


 そして現在は電子精霊と融合し、見た目とは裏腹に世界レベルで高性能なAIを持つ存在だったりする。

 この時代の最高峰に位置するAIを鼻で笑ってしまえるほどの。


 ちなみにもう1つ似たような画面が存在し、そちらは残念部下をそのままCGにしたような見た目をしている。

 ただし着ている服はまるで魔法使いのようなローブをまとい、画面の中央にぼーっと突っ立っているだけだが。

 もちろんこちらも電子精霊を改造し、エリザと同レベルの性能を持っている。


「なんか、うん、もういいや……」


 そういって窓から赤く染まった夕日を眺めるアイテム主任。

 その目はどこか遠くを見るような、虚ろな瞳をしていた。


「で、進捗のほうは?」


 この際、一切を無視しよう、そうしないと精神的に色々と無理だと判断した主任はまじめな顔に戻る。

 現在対応している大が付くほどのトラブルのためには、非常に残念ではあるがこの部下の力なくしては解決できないからだ。


 まともな返事をしてくれるかと、画面の中にいるエリザベスに向けてちゅっちゅしようとしている部下とそれを受けて「いやん(はぁと)」などとほざきながらくねくねしているAIを見て、真面目に心配するアイテム主任であった。

 しかし仕事はきちんとしているようで、(不純ではあるが)仕事をしなければならない理由もある彼はきちんと返答をしてくる。


「今はギリギリつながってる回線を補強してるとこッス。

 直接操作はできないんで外堀から埋めて、余計な負荷がかかってる部分を切り離ししてる作業中ッスね。

 もうちょいすれば馬鹿勇者の位置特定と通話くらいならできるかもッス」


「そうか……

 部長、呼んできたほうがいいか?」


「そうッスね。

 馬鹿勇者に現状を伝えるくらいはできると思うッスよ。

 ね~エリザちゃん」


『はいっ! エリザ頑張りますっ☆』


 画面の向こうでガッツポーズのようなものをするエリザに激しく不安を覚える主任であったが、他にどうしようもないので部長を呼んでくることにするのだった。


「あ、行くならついでに飯買ってきてくださいッス。

 吉○家の牛丼特盛半熟卵付き、紅しょうがと七味2袋ずつで」


 ついでにパシリにされるのも、今は緊急事態だから甘んじて受け入れよう。

 そう考えた主任は、諦めの境地への悟りが開けそうな自分に苦笑いしながら部屋を出て行くのであった……



 ――――――――――



 それから15分ほどして、廊下を走る音が響いてくる。

 開けっ放しになっていたドアを潜り、トライにおっさんと呼ばれる部長が焦った表情で部屋に飛び込んできた。

 ちなみにドアが開けっ放しになっていたのは、前回残念部下が鍵をかけていたにもかかわらず無理矢理開けたせいである。


「つながりそうだって!?」


「うッス」

『うッス』


『エリザがんばりましたっ!』


 画面を見ながら高速でキーボードを叩きつつ、残念部下は別段気にした風もなく作業を続けている。


「どんな状況だ?」


「転移には程遠いッスね。

 今の時点では向こうの世界の状況をほんの一部閲覧できるくらい?

 その閲覧できる範囲に人がいれば、多少は会話できる……かもッス」


 性格は残念だが能力は天才の彼は、自信なさげな言い方をすることは非常に珍しい。

 それはつまり、彼の能力を持ってしてもどうなるかわからないほど不安定な状況ということだろう。


 それを察することができるくらいには、おっさんの頭はまともだ。

 まあ残念部下と比べたら大概の人はまともなのだが、その中でもおっさんはだいぶまともなほうだ。


「できるだけ早く状況を伝えたい。

 FGのシステムが正常に動作していれば、死んでいるということは無いだろうが……」


 FGのシステム、それはゲームの中で存在していたプレイヤーの肉体アバターが、現実のものとなる。

 それが正常に機能していれば、現在のトライはレベル150で様々なステータスが最高峰になっているはずだ。

 これはおっさんの知るFGの世界で見ても中々珍しく、さらに彼は熟練度という隠しパラメータもほぼ極めていたので相当な強さを持った状況になっている。

 そんな状態で簡単に死ぬとは思えないが、現実とゲームは違う。

 その差を埋めるために、FGでは当たり判定や即死判定など、できるだけ現実に近い仕様になるように調整してきたが、それでもやはりゲームはゲームだ。

 些細なことで死につながる場面など現実ではいくらでもある、死んでもゲームであればすぐに復活することはできる。


 しかし現実の死は、そのまま死ぬ。


 もし彼がゲーム感覚のままで行動していて、自分の命を容易く投げ出すようなことをしていれば、その命は思いのほかあっさりと摘み取られるだろう。

 復活など、無い。


 せめて安否だけでも、できれば現実だということを早く伝えたい。

 それがいま部長にとって最も重要なことであった。


「了解ッス。

 エリザちゃん、いけるッスか?」


『おまかせください、ご主人様☆』


 キーボードを叩く手を止め、隣にあったキーボードを使って操作しはじめる部下。

 それと同時に、無駄とも思えるほど画面内を動き回っていたエリザベスがピタッと動きをとめ、色と表情がストンと抜け落ちる。


『不測の事態に対応するため、最低限のシステムのみを起動します。

 マスター、ご指示を』


「プレイヤーネーム【トライ】の現在位置を特定しろ。

 干渉可能な領域にいた場合、通信回線を開け」


『了解いたしました』


 エリザベスが返答をするのと同時に、パソコンとサーバーの冷却装置が唸りをあげて稼動する。

 モニターには大量の文字列がビッシリと、それらが高速で入力されていき、その文字群は画面に収まりきるはずもなく高速で画面がスクロールしていく。

 おっさんにはもはや何が何だかわからない状態だ。

 その状況にあって、部下だけは1つの画面をじっと見ながら、キーボードをずっと叩き続けている。


『位置特定完了。

 ……干渉可能領域です、通信回線を開きます」


 次の瞬間、ザッザッザーとひどいノイズがスピーカーから吐き出される。

 ノイズは稀に途切れ、無音の状態になったりはするが、時折回線の向こう側のものらしき音が聞こえてくる。


「これはつながってるのか?」


 不安げな表情で部下に問いかけるおっさん。

 それに対して部下の返答は「多分」という曖昧なものであった。


「なんか話してみてください」


 そういって自分がつけていたインカムをおっさんに渡してくる。

 他に手も無いと、ダメもとでおっさんは語りかけてみた。


「……トライくん……聞こえるか?」


 しかしスピーカーから聞こえてくるのはいらだつような音のするノイズだけ。

 これはダメなのかと諦めのような感情がおっさんにわき上がる。


「ん~?

 やたらぬるい通信設定になってるっぽい……?

 エリザ、ハッキングかけて設定変更できるか?」


「お待ちください……

 変更完了いたしました」


 途端に、スピーカーから聞こえてくる雑音が減少する。

 それと同時に向こう側の音が気持ち大きく聞こえてくるようになった。


「つながってるのか?

 つながってるか? 聞こえるか?

 トライくん!?」


『うッス、(ザザ)えてるっすよ』


「聞こえるんだな!? 無事か!?


 久しぶりに聞いたその緊張感の欠片も無いような声に安堵するおっさん。

 ひとまず会話できただけでも安心したようだ。


『(ザザザ)ちょっと電波 (ザザー)みてーだけど聞こえるッス』


「電波? いやそれより体のほうはなんとも無いのか?」


 電波のあたりで何かイヤな予感がしたおっさんであったが、緊急事態だからと気づかなかったフリをして会話を続ける。


『体の(ザザザ)大丈夫っすけど、こ(ザザ)ベントはログアウトできねぇからきついッス。

 アップデートの内容もす(ザザザ)すけど、あれ再現しすぎでグロいっす』


「よし、色々と良くないが無事ならとりあえずよし」


 とりあえず、色々と勘違いしている気がするのだがこの際生きていればとりあえずいいだろう。

 おっさんはそう判断し、色々と説明するために心の準備をするのであった。


『……どうしたんすか? なんかトラブルっぽい話し方っすけど……』


 そしてその空気を読んだのか、機敏に察してくるトライの言葉におっさんは息を飲む。

 この子に隠し事はあまりしないほうがよさそうだと思えるだけの行動だった。

 バカだから色々と勝手に勘違いしてくれそうではあるが。


 こうしておっさんは、トライに現状を語り始めるのだった。




 残念部下が、険しい表情でモニターの1つと睨めっこしていることに気づかないまま。

か、書ききれなかったっ!

時間も無かったっ!


ごめんなさいっ☆

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