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第二部外伝・そのころ彼らは1

ネタバレを大量に含みます。

本編である「つまりこの話はVRMMO異世界転移テンプレものを書いた話なわけだ」と連動しています。

こっちも話が進むにつれてちょいちょい更新していく予定です。


登場人物は主におっさん(笑)

 カタカタカタカタ


 某オフィスビルの一画で、複数の人物がパソコンのキーボードを叩く音が響く。


 カタカタカタカタ


 パソコンの画面の半分には、一般人では到底理解しえない文字の羅列が打ち込まれていく。

 もう半分には、同じく文字の羅列が並んでいくのだが、その入力されていくスピードは隣の画面の3倍は早く入力されていた。


 カタカタカタカタ


「了解、こちらの準備は済んでいる。

 ログインが確認され次第実行しよう」


 携帯電話を片手に、作業をしている人達の後ろで監視するように立っていた男がいた。

 彼は電話の向こう側、遥か離れた場所にいる誰かとの会話を、その一言を最後に終わらせる。


「状況はどうだ?」


 今時珍しくスマホではなくガラケーを使っている男は、パチンと軽快な音を立てて携帯電話を折り畳む。

 すぐには仕舞わず、手に持ったままにしているのでまたすぐに使う予定なのだろう。


「監視からはそろそろログインだろうとのことです。

 今日は決闘があったみたいで、いつもより遅いみたいですね」


「我々にとっては好都合……だな」


 問いかけに答える部下の手は、報告中であっても止まることは無い。


 ポン、と軽い音が誰かのパソコンから鳴る。


 その瞬間に空気が変わった。


 緊張だ。


「監視からです!

 ログインの準備を始めました!」


 先程とは別の人、今度は女性が声を出す。

 その声に含まれている緊張は、彼女の言葉に震えという要素を追加した。


「よし、全て同時に起動させろ」


 命令を下す男は逆に緊張など微塵も感じさせない強い口調だ。

 上司がブレれば部下もブレる、ということをわかっているのだろう。

 事実、報告をした女性は落ち着いたのか、震えていた手が落ち着きを取り戻している。


「転移システム起動、電子精霊の80%を分割してそれぞれに対応させます。

 起動開始まで10秒……カウントダウンスタート」


 9、8、7と最初に報告をした男性が時間の減少を数えていく。


 それが例え0を読み上げたとしても、安心していいわけでは無いと全員がわかっているようだ。

 緊張の気配は減っていく数字と反比例するようにどんどん強まっていく。


 そして男が5の数字を読み上げた瞬間。


「……っ!?

 部長!ハッキングです!」


 4


「なんだと!?」


 3


「中止を!」

「止めろ! 今すぐ!」


「2、ダ、ダメです!もう……」


 1


「0、起動……しました……」


 場は一転し、緊張ではなく絶望からの沈黙に包まれる。


 何が起こったかわからない、何をされたのかもわからない。

 しかしタイミングの良すぎる今この瞬間にハッキングということは、これはたまたまハッカーが遊び半分でやったことでは無いだろう。


 そもそも電子精霊の守るこのパソコンは、この時代における技術が何世代も先に進んだとして、まだ敵うかどうかというレベルの性能を誇っている。

 その高性能なスペックがセキュリティ面をおろそかにするはずが無いというのに、相手はそれを破ってきた。

 それはつまり相手も電子精霊、それもここのパソコンにいるものよりも高性能なそれを使う存在が仕掛けてきたということだ。


「……対象の状態はどうなった?」


 部長と呼ばれた、その対象からはおっさんと呼ばれている男がなんとか声を絞り出す。


「転移による消失ロストは確認されました、現在地は……不明……です」


 女性は再び震え始めた声で答えるが、最後のほうは消えるようなか細い声になっていく。


「どこに転移したかわからない、ということか?」


 焦りからか、言葉に怒気を滲ませておっさんは再び問いかける。

 女性の震えが大きくなったような気がするが、今の彼にはそこまで気をつかえるほどの余裕は無いようだ。


「少し待ってください。

 逆にハッキングしてやります、なんならクラッキングして後悔させてやりますよ」


 カウントダウンをしていた部下は、怒りの気配を少しでも和らげようとしたのか、冗談めかした言い方で女性より先に答える。


 余談だがハッキングとクラッキングは微妙に違う。

 どちらもパソコンやソフト、データバンク等に侵入こそするが、解析や調査を主としてデータそのものには何もしない場合や、データをコピーするだけの場合はハッキング。

 データを破壊や改竄し、時にはシステムそのものに致命的な被害を発生させることをクラッキングと呼ぶ。

 今回の場合も正しくはクラッキングを受けた、と表現するのが正しいのだが、侵入するまでの経緯は一般的にハッキングで一括りにされる場合が多いので、あの時点ではハッキングと言うのは間違いない。


 それをやり返すと言ってしまうこの男、敵に回したら結構怖い相手かもしれない。

 そこまで考えてしまったおっさんは笑うに笑えず、状況も合わさって微妙な笑顔を浮かべるに留まった。


「……」


 カタカタカタカタ


 無言で再びパソコンを操作する男性。


 静寂が支配しようとしていた空間は、乱入者によって突然ぶち壊されることになった。


 バンッ!


 部屋のドアが勢いよく空けられる。

 割りとしっかりとした鉄製で、それなりにしっかりとした鍵が付いていたハズのドアが。


「ぶっちょーーーう!

 こんなとこにいたんスね、トロンちゃんの勇者認定された記念品なんスけ……ど……?

 あれ、なんか間違えたッスか?」


 はぁ〜と誰かが溜め息を吐く、誰かというか全員だが。


「まあいいッス。

 そんで記念品ッスけど」


「よくは無い。

 よくは無いし鍵壊すなだし立ち入り禁止って書いておいたのに何故入ってくる」


「トロンちゃんへの愛ッス、愛の前にはそんなの些細なことッス」


 全然些細なことではないのだが、この部下の残念すぎる性格は治しようが無いので全員頭を抱える以上のことが出来なかった。


「……その愛の力でこれなんとかならないか?

 そしたら愛しのトロンちゃんへのプレゼントは協力してやらんことも無いぞ」


「やるッス!

 やらせていただくッス! 同期のくせに俺より上の立場になりやがって給料1.5倍になりやがったムカつくアイテム開発主任様!」


 わずか0.2秒の即答だったことはわざわざ説明する必要も無いだろう。

 一言どころのレベルでは無いほど嫌味を重ねてくるのも、彼にとっては当たり前なのでどうしようもない。


「そんなんだからいつまでもヒラなんだよ……」


 片手でこめかみを抑えるおっさんの言葉は、きっと彼には一生届かないだろう。



――――5分後――――



「オワタッス」


 あっさりとハッキングを終わらせた残念部下の言葉に、他の社員一同は驚愕していた。


「で……電子精霊のプロテクトがたった5分……」


「んなバカな……」


「ちょろいッス。

 で、なんなんすかこれ、イミフが多すぎてワケワカメッス」


 彼は自分が言っている言葉のほうが理解されにくいということから学んだほうが良さそうだ。


「ああ、うちにハッキングしてきたバカのとこだ。

 ちょっと見せてくれ」


「了解ッス、クソ主任野郎様。

 アイテムの件忘れんじゃねーでございやがりますよ」


「貶すかお願いするかどっちかにしろよ」


 がらがらがら〜っと椅子のキャスターを転がし、わざと椅子の無くなった空間を渡す残念部下。

 彼の残念っぷりは留まるところを知らないようだ。


「はぁ〜……

 とりあえずはいい、いやよくは無いが今は置いておこう。」


 とりあえず手近にあった椅子を引き寄せて画面を見る主任。

 椅子をくるくるさせている残念部下は一旦放置するようだ。


「……」


 カタカタカタカタ


 画面を睨むようにして内容を把握していく。


 カタカタカタカタ


「……ん?」


 ある地点で、作業を中断し、非常に嫌そうな顔で再び残念部下に声をかける。


「なあ、ここ解析できるか?」


「うい、オワタ、送るッス」


 いつの間にやっていたのか、隣のパソコンから再度ハッキングをかけてその情報を送ってくる。


「……次これ」


「オワタ」


「あとここ」


「エンド」


「これも」


「糸冬」


 何を見ているかわかっているように次々と仕事をこなす部下、仕事だけを見ればこんなに優秀というか天才だというのが、彼の残念さに拍車をかけている。

 天才とバカは紙一重とはよく言ったものだ。


「で、これなんなんスか?」


 彼の恐ろしいところは、これだけのことをしておいてなんのためにやっているのか理解していないところであろう。

 遊び半分で政府の機密情報ハッキングしてこいと言われたら、鼻歌混じりで易々とやってしまうかもしれない。


「……部長、報告しても?」


「頼む」


 しかしそんな彼は再び放置だ。

 彼も放置は慣れているのか、椅子のクッションに収まるように体を縮こませ、体育座りをしている。

 体を左右に回転させて、勢いだけで椅子をくるくるさせることにチャレンジしているようだ。


「今回のことは半分人為的で半分は事故のようです」


「……詳しく」


「まずハッキングを仕掛けてきたのは間違いなく例の『信者』のヤツらです。

 転移を妨害するつもりだったんでしょう」


「『信者』ね……

 だがあいつらはこっちの世界に来たこと無いだろう?

 うちより性能の良い電子精霊を保有してるとは思えないんだが」


「ええ、向こう側の『世界の壁』にある隙間から直接こっち側の電子精霊に干渉していたようです。

 問題はここからでして……」


 主任は1度息を吐き、色んな感情の入り交じった複雑な雰囲気の苦笑いを浮かべる。


「たまたま同時刻に魔族の時間転移儀式が行われ、これがそのままこちらに影響を与えたようです」


「あいつらまーだそんなことやってんのか、タイムパラドックスが起こるから無理だってあんだけ言ってやったのに……」


「さらに同時刻、聖王国が独自に開発した勇者召喚の実験を行ったようです。

 これが『世界の壁』にダメージを与え、一時的に魔力の流出量が増えたようですね」


「あいつらバカか、保護条約でFG以外は禁止になってるハズだろう」


「さらに獣人族の秘宝『ブースター・ブースター』がその2つを感じ取って起動を開始したようです」


「あー、あの強い力に反応してさらに強くしちゃうヤツか。

 あれ昔、元勇者のあいつに反応して大変なことになったんだよな」


「結果一時的に強力になった電子精霊がハッキングに成功し、一時的に強くなったせいで成功してしまった勇者召喚に呼び出され、一時的にかっこりゃくで成功した時間転移が彼を飲み込んで過去に似た別世界に飛んでしまったようです」


「……マジか」


「さらに全ての要素が連結して、損傷した世界の壁の隙間が開きっぱなしになっています。

 そこに『アレ』が巻き込まれて少しずつその世界に流れて行っています」


「つまり」


「つまり」


「「大惨事」」


 嫌な沈黙が周囲に満ちていく。


「解決方法は?」


「この世界からは完全に干渉できません。

 FGも転移機能のほとんどを停止しています、せめて向こう側にいればなんとかなったんですが……」


「うぇっぷ……回りすぎて気持ち悪……」


 場の空気が静まり返ったのは、決して残念な部下の残念な行動が原因では無かった。

今後はおっさん達含めてトライ達以外を中心に、本編にあまり影響しない範囲で色々描いていく予定です。


本編だけ読んでれば大丈夫なようにはしていきます。

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