同学年のギャルが「これ。隣のクラスの友達が書いたやつ」と手紙を渡してきた。
「これ。隣のクラスの友達が書いたやつ」
授業間の10分休憩。俺(横田です)が一番左奥の席にて、痛く黄昏れていた時。
藍田さんが顔面真っ赤にしながら俺に手紙を渡しに来た。
うちの高校で金髪は違法。即座に裁かれる筈だが、彼女は地毛が金ということなので許されている。
その輝きが尚の事、彼女の頬と対比して美しい。
勿論、彼女自身も同様に。
「受け取ってー。ほら」
いや周りにめっちゃ人いるんだが。周りから見たら、藍田さんが俺にラブレターを堂々と渡しているようにしか見えないんだが?
「……ありがとう。あ、あのさ」
「……ん?」
「な、なんで藍田さんが照れてるの……?」
マジで意味わからん。友達の代わりに渡すお前がなんで照れるんだよ。お前かんけーねーじゃねーか。
すると更に指先すらも真紅に染め、挙動が不審になりまくる藍田さん。
「……だって、目の前で読まれたら恥ずかしいじゃろ?」
いやお前書いてないじゃん。書いてないんだよね?
「……じゃあ、目の前では読まないようにするから」
「いや! 直ぐに返事欲しいから読んで欲しいんよ! 今すぐ!」
とのことなので、早速開封。
中には見事な丸文字によって整列された、まあ藍田さんが書いてそうな文字の群が発見された。
『お返事ください。待ってます』の一言と、可愛らしい顔文字。
(どうすりゃええねん……?!)
それだけ言われても困るわけだが……。どうしよう……。
「早くー! 休憩終わっちゃう!」
「ああ……すまんスマン……」
取り敢えず席につき、ボールペンで返事を書く。
『君のことがもっと知りたいな』
一応手紙を折り畳んで、中味が見えないよにした後、渡す。
コクンコクンと笑顔で頷くばかりの彼女である。
「じゃあ彼女に渡しとくきん!」
「ああ……はい」
「じゃーね!」
◇
キンコンカンコン鐘の音が。
スッと椅子を引く音が何処かしこから。
授業が始まる音がした。
授業は淡々と進んでいく。
と、ここで先生。振り返り俺たちをじっくり観察している。
問題を出して、生徒達の思考力を鍛えてあげたいのだろう。
「えー……じゃあ今日は6月1日だから……」
((((ゴクリ……!))))
「《《藍田ぁ! やってくれぇい!》》」
「は、はい!」
俺の《《右隣の席の藍田》》さんが立ち上がり、黒板の前へと進んでいった。
そう。
Q.藍田さんとは?
A.普通に俺の隣の席に陣取る、クラスメイトなのである。
断じで『隣のクラスの藍田さん』が、隣のクラスの友達の為、俺に手紙を渡したわけではない。
黒板に答えが記されていく。
どう見ても手紙の文字と、同じ形、同じ癖。それらが正解を紡いでいった。
解答を見た先生が、藍田さんを褒めちぎる。
「よくやったぁ! 褒美を遣わす!」
「えへへ……」
褒美という名の席に戻る権利をいただいた藍田さんが、ルンルンしながら席まで戻り、着席。
そして俺の方を向き「イェイ!」と小さく手でVの字を作り、見せつけた。
(俺のことが好きってことでいいんだろうか……?)
わざわざ友達の代わりに、とか偽ってまで渡された手紙。
まあ、本当に俺のことが好きなら告白するか。
『お返事ください。待ってます』。なんて回りくどいこと、書かないよな?
(……書かない……よな……?)
彼女のことが気になる。彼女をチラと視界に入れる。
教科書を机に立てて、先生の目線をガードしてるな。早弁でもする気か?
周りをきょろきょろ見回す藍田さん。俺はとっさに窓の方を見る。大丈夫。彼女を見ていたことはバレてない筈。
念の為、俺は横目だけで彼女を視界の端に捉え続けるテクニックを披露。うん。もう藍田さんは見回してないな。
短く「フフフッ」っと笑う彼女は手元に一枚の、折りたたまれた手紙を持っている。
本当はネイルをしたいのであろう爪部分にはマニキュアが。女の子らしく装飾された指で丁寧に手紙を広げている。
隣のクラスの友達に渡す筈の手紙を、ひとしきり眺めた彼女。
手紙の匂いを肺に蓄えた後、新しいペンと紙を手に持ち、なんだか頭を悩ませ中。
(お前大胆すぎだろ)
そして可愛すぎる。もうとにかく、手紙の内容を確認したくて仕方がなかったのだろう。
だって隣に想い人がいるにも関わらず、速攻手紙を広げてるもんね。
だって隣に想い人がチラ見しているにもかかわらず、速攻返事書いてるもんね。
(……考えすぎか……?)
まあ良いわ。取り敢えず彼女のことは放っておいて、授業に集中しよう。
◇
授業が終わる。彼女は颯爽と何処かへと去っていった。
(……トイレだろうか?)
数秒後。普通に戻ってきた彼女。
そのまま俺のもとに駆け寄って来る。
「横田君! 返事貰ってきたよ!」
「いや早すぎるわ!」
「……え?」
「……なんでもない」
いかんいかん。声を荒げてしまった。
なんなん? バレたいん? 隠す気ないん? そのお友だちがお返事書く時間とか考慮せん普通?
細かい粗が、俺のツッコミを誘う。
だけど『まあいいか』なんて思わせられてしまうのは、彼女の人懐っこい笑みがあまりにも魅力的だからだろうか。
(こんなイメージなかったんだけどな)
藍田さんに。
何ならちょっと怖いイメージがあったくらいなんだけど。
スタイルがやけに良いので金持ちとあーだこーだとか。
不良の友達となんか夜にあーだこーだとか。
そんな黒い噂が出てくる彼女と今日の彼女は、みんなにとっては近寄りがたい女の子。
でも俺から見た君は、尻尾をぴょこぴょこさせた、ワンちゃんみたい。
「なーなー。横田君?」
「……うん」
「お返事くれてありがとう♪」
「……って友だちが言ってたんだよね?」
「……そうそうそう! そうなんよ直接言えやって話じゃろ!? ほんまシャイなんやき……あの子は……」
(お前が言うんじゃねーよ!)
なんてアホな子なんでしょう……?
友達が書いたっていう設定を秒で忘れて、俺に感謝を伝えています……。
(お母さん心配よマジで)
この胸の高鳴りは、俺の母親としての自覚か、はたまた恋の足音か。
(返事……書くか)
「ちょっと待ってて。すぐに書くわ」
「……うんうん! 待ってる!」
彼女は律儀に両目を手で塞ぐ。「まだー?」とか言って。
「まだだよー」とか返してあげて。
俺なりに誠意を込めた、直筆で返事を書いた。
書く手に力が込められる。ほとばしる緊張が
彼女の次の、返事はなんだろうな。
『隣の席の、藍田さん。僕と友達から始めてくれませんか?』
おしまい
間違えて連載作品としてあげてしまったものを短編にして上げ直しました。
すみませんでした。




