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かしこまりました。婚約は破棄致しましょう。~従順な姫君を辞めたその日、隣国の王子様が迎えに来てくれました~

掲載日:2026/10/20

「あなたは顔は良いのだから、黙って頷いておきなさい。才の無いあなたが不幸に陥らずに過ごすためには、従順でいることに心血を注ぐのです」


 十年前、公爵領を出たあの日、母様に言われた言葉を私は忠実に守り続けている。

 

 ——だから、今回だって同じように頷けば良いのですよね、お母様?


「セレスティア、君なら理解してくれるだろう? 幼馴染の危機で一刻を争うんだ」


 この謝罪する気のない詫び顔も何度目だろう。

 私の婚約者、アレクシス・ぺラスティアは、持ち前の金髪を揺らしながらそう告げた。

 観劇中に声を張り上げるものだから、周囲の目が痛いのだが、彼はそんなことを気にする様子もない。


「幼馴染……また、リリアーヌ様ですか?」

「またとは何だ! 彼女は今このときだって本気で苦しんでいるんだ!」

「……わかっております、アレクシス殿下」


 そう、私は全てわかっております。


 あなたが私よりもリリアーヌ様に心を寄せていることも。彼女が病弱であることを利用してあなたの心を惹こうとしていることも。

 実は私とのオペラ観劇も数年ほど前から億劫になっていることも。

 

 全てわかっているのです。


「火急の用なのであれば致し方ありません。私のことはお気になさらず、あの方の元へ」


 漏れ出そうな不満を奥歯で噛み潰し、私は笑顔で頷いた。

 母様に言われた通りに、これが王の妻になる者としての務めだと信じて。

 

「そうか、セレスティア! 君ならそう言ってくれると思ったぞ!」


 そうして、すぐに殿アレクシスは走り出してしまった。婚約者との月一回の約束を放っぽり出すのだから、去る時の笑みは隠してほしい。


「はぁ……」


 吐いた溜息が、手の甲に当たる。


 舞台に目をやるとヒロインが涙を流すシーンだった。たしか、題目は悲劇。


 普通の令嬢なら主人公と自分の状況を重ねて感傷に浸るところだろうが、私の目からは涙の一つも流れない。初めて彼の想いに気付いたときには涙に暮れる日もあったが、今ではその涙も枯れてしまった。


 当然だ。口を開けば、幼馴染の話を延々と語る婚約者を相手にすれば百年の恋も冷めてしまう。……いや、彼と私の間にはもとよりそんな甘酸っぱい感情は芽生えてすらなかったのかもしれない。

 

 そんな諦観が伝わったのかどうかはわからない。

 けれど、私の冷え切った心が更に凍てつくことになったのは、観劇の予定から一月と少しが経った頃だった。


「セレスティア。私との婚約を破棄してほしい」


 件の幼馴染を連れ、私の前に立ったアレクシスからの言葉だった。

 数多ある予定を調整して、ようやく時間を空けた私は愕然とした。


「……え?」


 狭まった喉からは、それ以上に声が出なかった。煌びやかな応接室に、しんとした冷たい空気が広がっていく。

 

「突然の申し出で混乱するのはわかるが、受け入れてほしい。余は後悔したくないのだ。リリアーヌに残された少しの時間を、余は一緒に居てやりたい」

「後悔……? 残された時間……?」


 首を傾げる私を見て、アレクシスは繋がれた右手を引いた。言うまでもなく、握られているのは私の手ではない。


「ケホッ……。このような再会となり大変申し訳ございません。セレスティア様。本来であればもっと早く、私からお話をすべきだったのでしょう。実はまた最近、身体を崩しまして……ケホッ」

「は、はぁ……」


 要領を得ないし、その白々しい咳込みにもそろそろ嫌気がさしてきた。

 この際だから、「あなたと話すことなどありません」とでも言ってやろうかしら?


「セレスティア様、ここは一度身を引いてくださいまし。私たちの愛は本物なのです!」


 リリアーヌ・ロルカスの目は、震えていた。

 ロルカス家は、過去に国庫の財に手を付けた罪で、当主が捕縛され、凋落の一途を辿ったと聞く。

 過去の栄光を掴まんと、この女も必死なのだ。


 ……でも、あなた、寝たきりで移動できないという設定じゃありませんでした? 

 余命ギリギリの身でこんな場所に来て良かったんですか?

 

 謀り、謀られるのが常の嘘が渦巻く貴族社会。いずれ、自分にもその粉が振りかかろうとは思っていたけれど……。せっかく騙されるのなら、もっと綿密に練られた嘘が良かったな。


「余も同じ気持ちだ。だから——」

「かしこまりました」

「え?」


 アレクシスとリリアーヌは、キョトンとして首を傾げていた。

 もっと、私が反論すると思っていたのだろう。でも——

 

 ——私は昔から、従順な姫君(わたくし)だったでしょう?


「婚約は破棄いたしましょう。つきましては、私がこれまで担ってまいりました外交上の務めや、宮廷儀式への出席などは、リリアーヌ様にお引き継ぎいただきたく存じます」


 多少投げやりになっていた私は、それだけ言い残して部屋を出た。

 部屋を出る最後に見たリリアーヌは、歪んだ笑顔を浮かべているように見えた。




****


「あそこは、譲ってはいけない所だったのでしょうね」


 王都から公爵領への帰路。夕日に照らされた麦畑が金色に輝いている。

 私は車窓の縁に肘を置き、鼻で息を吸っては嘆息してを繰り返していた。


 婚約破棄の書状を書き、手短なやりとりと挨拶回りをして、直ぐに王宮を出た。

 国王夫妻や王宮内での私の世話をしていた侍女頭は目が飛び出しそうになっていたし、外交官や宰相からは行くなって泣きつかれたけど、まぁ、多分大丈夫でしょう。


 才のない私ができたことだ。簡単に代わりは利くだろう。何にしろ、私がアレクシスに対して果たすべき義理も全てなくなった。

 これで、晴れて私は『ただの公爵令嬢』に戻れることだろう。


「はぁ~。疲れたぁ」


 肩の荷が下り、身が軽くなる。これが世に聞く解放感というものなのだろう。

 これほどの自由を感じたのは、数年前、王宮で保護していたあの少年と話していた頃以来かもしれない。


「あの子は、私と違って上手くやれたのかしらね。要領は良かったし地頭も良さそうだったけれど」


 物思いに耽っていると、身体が撥ねる。馬車が止まったのだ。


「何事ですの?」

 

 私は、王都近郊の街道で盗賊事件が多発しているという報告を思い出しながら、御者に尋ねた。

 

「対向車にございます」

「それなら、脇に逸れて道を譲ればいいわ。こっちは急ぎじゃないもの」


 王都から伸びる街道は、馬車二台が優にすれ違える幅に整備されている。あまりに規格外の大きさで無ければ、止まることも必要ないはずだけど。


「それが……相手の馬車が動かないのです」

「動かない、ですって?」


 不審に思った私は、おずおずと馬車の扉を開き、身体を車内に置いたまま顔だけを出して対向車の様子を窺った。


 余白なく幾重にも塗り重ねられたであろう真っ白い車体には、純金製の花の装飾が施されている。車を引いている馬もぬかることなく毛並みの揃った美しい白馬。車体に掘られた家紋に見覚えはないが、乗っているのは十中八九、位の高い貴族だろう。


 せっかく、王宮から逃れられたというのに……。辟易して歪みそうになる顔を必死に抑え、私は満点の造り笑顔で馬車から降りた。|

 バーデン家《ウチ》の家紋が掘られたペンダントを揺らすことも忘れない。身分社会は舐められたらそれで終わりだ。


 相手側も気が付いたのか、馬車から降りて来た。

 この国ではまず見かけないような碧眼が空を見上げる。思ったより日差しが強かったのだろうか。


 後ろで優雅に束ねた長髪が風に流され、後ろの金絨毯と一緒に波を打っている。鼻筋が綺麗でさっぱりとした端正な顔立ち。服も顔も、相手は『貴公子』という言葉がピッタリな青年――否、少年だった。

 金糸の刺繍が施され、光沢帯びた絹の上着は多少緩めの着こなしで、身長も女の私より一回り小さい。よく見ると、顔にもあどけなさが十分に残っている。十四に満つか満たぬかといったところだろうか。


「あなたは……やはり」


 唇の片端を上げ、少年は私に駆け寄った。とてとてと、子犬のような足取りで私の眼前まで迫ると私の前に跪いた。


「お久しぶりにお目通りが叶い光栄です。あの一別以来、私はこの日を待ち侘びておりました」

「えと……え?」


 彼は何を言っているのだろう。私は、首をこてんと傾けた。

 少年は少しだけ哀しそうに眉を伏せた後、首を振った。


「そうですね……。忘れておられても無理はない。もう、あれから六年という月日が流れたのですから」

「六年……?」


 夕日に目を向けた少年の視線を追いながら、私は六年前に起きたことを思い出していた。

 

 アレクシスが幼馴染の名を口にし始めたのが丁度その頃だった。

 王族から見放されれば全てが終わりだと知っていた私は内心焦っていたのだろう。服を変え、化粧を変え、香水を変え。どうにかして彼の興味を引こうと頑張っていた。けれど、その全てが不発に終わった。結局、彼が本当の意味で私を見てくれる時間などなかった。

 自分の魅力の無さを嘆き、失意に沈んでいたあの頃の私をそれでも前に向かせてくれたのは、アレクシスではない、他の男性だった。


「——そのような哀しい顔はおやめください。折角のお美しい顔が台無しですよ。セレスティア様」


 自国の内戦から逃れるために、古い血の繋がりを頼ってバーデン家を訪ねた男の子がいた。その身分を鑑み、国としての体裁を保つために王宮で保護した彼は、婚約者から無碍に扱われていた私の心の拠り所となってくれた。

 武力抗争に巻き込まれ、両親を失ったにもかかわらず、凛として私の心配をする余裕まで見せたあの子供は当時八歳。育っていれば丁度目の前の少年の歳くらいだ。


「まさか……ノア殿下なのですか?」


 ラグレット王国。

 この国に隣接し、この国のおよそ五倍もの国土と財力を有する工業大国。

 私の記憶と予想が正しいのであれば、彼はその国の第一王子——


「——はい、ノア・ラグレットにございます。先日、正式に即位することが決まりまして。間もなく『殿下』ではなく『陛下』とお呼びいただくことになりますが」


 ノアの口端から八重歯が覗く。あの元気だった少年の成長に、母心のような愛おしささえ覚える。


「即位……ということは、内戦や紛争は終結したのですね」

「ええ。おかげさまで、ようやく国も平穏を取り戻しつつあります。まだまだ為すべきことは山積しておりますが、まずはこれまでお力添えくださった方々に、ご挨拶に伺っているところです」


 このご時世に、きちんと対面で挨拶回りをするなんて。呆れるほどに誠実なのも、あの頃から変わらずだ。


「でも、驚きました。まさか、あんな小さかった子供が今度は王になるだなんて。時の流れは早いというか、男の子の成長は早いというか……」

「私も驚きです。セレスティア様も変わらず……いや、何倍にも増したお美しさが健在のようで」


 ノアは、顔を寄せてまじまじと私の顔を見つめる。

 昔と同じ、清らかで淡い白薔薇のような香りの奥に、ほのかに色っぽい香りを感じて、悶えそうになる。


「アレクシス様に妬けてしまいますね」

「ひゃ……」


 髪に手を伸ばされそうになったところで、恥ずかしくなって一歩後ろに下がってしまう。


「申し訳ございません! 我が国では、男女間のスキンシップが盛んで……。距離感を誤ってしまいました」


 ノアは、深々と頭を下げる。


「いえ、大丈夫です。ただ、ちょっと恥ずかしくなってしまって……」

「婚約者のいる婦人に対し、大変ご無礼を……」

「もう、今はその婚約者もいないですけど」

「え?」

「あ……」


 やってしまった……。

 つい、漏れ出てしまった本音を誤魔化そうと口を抑えるも、既に手遅れだった。ノアは顔を伏せ、物思いに耽ってしまう。きっと、気まずい質問をしてしまったものだから、次の言葉を必死に探っているのだ。申し訳ないことをした。


「……どうやら、あの噂は真実だったようだ。セレスティア様ほどの方を婚約者に持ちながら、他の女にうつつを抜かすなど、何かの間違いに違いないと思っていたのだが……来た甲斐があったということか」


 何やらぶつぶつ言っているが、よくわからない。


「セレスティア様。今から簡単な質問を三つほどさせていただいてもよろしいでしょうか」

「えぇ、いいけれど……?」

「ありがとうございます」


 と、アレクシスは会釈して三本の指を立てた。


「まず一つ。先日、アレクシス様宛に訪問の約束を取り付ける書状を送ったのですが、その内容は確認いただいているでしょうか?」


 ノアの苦笑いを見て、背筋が凍った。


「いえ……何も。まさか、アレクシスは返信も書かなかったのですか?」


 まさか、あの男。ラグレット王国からの書状を無視したというの?

 外交は私が担当だったけれど、それを私に伝えすらしないなんて……。どうせ、あの女のことで頭が一杯だったのでしょう。


「も、申し訳ございません! 私がもっとしっかりとしていれば……」


 頭を下げようとするが、腕を挟み込む形で止められてしまう。


「良いのです。知らなかった貴方に非はありません。次の質問へ移らせてもらいますね」


 薬指が折りたたまれて、二本指になる。


「ここは確か、王都とバーデン公爵領を繋ぐ街道だと記憶しておりますが、セレスティア様はバーデン領にお帰りになる途中……ということでしょうか?」

「それは……」


 答えづらい質問だった。説明するにしても、どこから話せば良いのだろう。


「詳細までは伺いません。ただ、『はい』か『いいえ』でだけお答えください」


 ノアは、私の震える手を両手で包み込み、温かな笑みを浮かべていた。

 私の言葉を待ってくれているのだろう。……まだこの距離感には慣れそうにないけれど。


「はい」

「そうですか」と、中指を下ろし、残り一本。


 ノアは笑顔を辞め、掴んだ私の手を自分の胸の前に持ってきた上で口を開いた。


「自国の王から、隣国の王への鞍替えなんていかがです?」

「……はい?」


 

****


 とどのつまり、私は従順な姫君を辞めることはできなかったらしい。

 あんな唐突な申し出にも拘らず、三、四度の押し問答を挟んで了承してしまった。

 婚約を破棄したのだから筋は通っているし、他の誰でもないノアが相手だったこともあるし……。必死に自分を言い聞かせるが、やはり深く考えてしまうことがある。

 

「やっぱり婚約破棄されてすぐ、他国の王族に嫁ぐというのは聞こえがよろしくないですよね?」


 ラグレット王宮の私の居室で、ふかふかのソファの上でティーカップを啜りながら呟いた。

 

「いいじゃないですか。バーデン家にも許しをいただいたし、セレスはこの国の評判もいい。厳しい言葉を浴びせるのはぺラスティア王国のアレクシス派ばかりでしょう?」


 隣のノアも、カップを啜り、いつものように眉を顰める。

 苦いなら、ブラックをやめればいいのに。意地でも私と同じ物を呑もうとするのが、なんともいじらしい。


「ふふっ。ノアってば、アレクシスに対しては昔から強めに当たっていたわよね。嫌いなの?」


 不満の滲ませた顔で首を振るう。


「嫌いというか……理解が出来ないのです。セレスのような完璧な婚約者を持ちながら他の女を選ぶなどと……」


 ノアはカップを握る力を強める。ソーサーがカタカタと踊っていて少し怖い。


「完璧だなんて……私は、頷くだけしか才のない人形よ?」

「人形にあれほど優れた外交は出来ません。何度も言うけど、セレスは外交の天才ですよ?」


 彼はこう言ってくれるが、本当に私がして来たことなんて大したことは無い。

 芸術にも音楽にも才のない私ができるのは、教養とマナーを身に付けることだけだった。生き続けるための必要最低限が私にとってはこれだっただけだ。


「礼儀と礼節を弁え、相手の意を汲むだけです。そう難しくもありません」

「その難しくもないことで、全てを失うこともあるのだから、気を付けないとですね。セレスも、アレクシスの末路は知っているでしょう?」


 アレクシスは、勘当された。

 なにやら北の大国の王族にリリアーヌが粗相をしたところ、彼女の方を庇って相手のことを蔑ろにする扱いをしてしまったらしい。深い話は知らないが、国王陛下の苦労顔が目に浮かんだ。


「でも、国によっては文化もマナーも違うのだし、また一から学び直しね。この国特有の距離感だって早く慣れなきゃ」

「あぁ……。嘘ですよ、あれ」

「えっ!?」


 驚くあまり、持っていたカップを落としそうになる。

 危ない危ない。


「……言われてみれば、あんなに親しげに私に近づいてくるのは、ノアだった気もするけど。まさか、まるっきり嘘だったなんて」


 「申し訳ございません」と言いたげに両手を合わせた後、ノアは私に向き合った。


「嘘を吐いてでも、あなたに触れてみたかったのです。私が人生で最も弱かった時間を、隣で共に過ごしてくださったあなたに。隠し通そう、秘めなければ。そう思っていたのに結局は本能のままに動いてしまった……。私はまだまだ子供みたいです」


 苦笑して頭をさするノアの手に、右手を重ねる。


「まぁ、私からすればまだまだ子供です。歳の差を考えれば弟、みたいなものかしら?」

 

 敢えて挑発的に言ってみる。鼻を突き出して、上目遣いで……これって扇情的に笑えているのよね?

 本で読んだ技術が実を結んだ。

 ノアはカップを置いて立ち上がり、その小さな身体を大きく見せようと、私の身体を覆うように前に立った。


「であれば、あなたは弟に禁忌の愛情を抱く不純な姉ということになりますが?」


 顔を近づけられ、温かな息がかかる。


「姉に対して欲情しているノアには言われたくないけど?」

「誘っているのですか?」

「さぁ?どうでしょう?」

「あなたという人は……ッ!」


 ノアの手が肩に伸びる。一枚の絵画のように美しく、子犬のように愛らしい顔が近づいてくる。

 そのままあと一押しですよ。……今は嘘なんか吐かずとも、好きなだけ触れさせてあげますから。

 だから、あと少しで——


「……」


 ——なんて、甘い展開にもならず。少年は自分を律するが如く、首を横に振ってしまう。


「ノアの意気地なし……」

「……勘弁してください。そういう関係は、王として即位し、正式に貴方を王妃に迎えてからです!」

 

 ノアはソファの端に置いていたブランケットを私に投げ飛ばし、私に背を向けた。

 

「今日はここまでです。私は政務に戻りますので、どうかお身体を冷やさぬよう」

「えぇ。ありがとうね、ノア」


 ノアはふっと鼻を鳴らしたあと、満足気な様子で部屋を出ていった。

 カップの中はちゃんと空になっている。本当に律義な方だ。


「……頷くだけでも、幸せを掴むことはできるのね」


 ソファから立ち上がり、窓に近づく。そのまま取っ手を勢いよく引っ張った。

 春一番の暖かな風が肌を撫でる。邪魔くさく揺れる髪を右手で受けながら、私は口を開いた。


「ねぇ、お母様。あの言葉は——」


 ——ここまで見透かしての言葉だったのですか。


 青に澄んだ空を、一羽の小鳥が飛んでいく。

 視界の端から消える直前、その小鳥は小首を揺らした気がした。

異世界恋愛(王道設定)の初挑戦作品でした!

お読みいただきありがとうございました!


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創作の支えになります。


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お母様は親心かもしれないないけど娘の活躍を聞いて自分の言葉を思い出して後悔する日ははやって来たりして。
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