お疲れ様ですお嬢様。ところで今夜はもうご入浴なされますか?夕食になさいますか?それともクソ浮気王子のザマァにしますか?
メーデル公爵家のエントランスに、俯いた表情をしたサリア・メーデル公爵令嬢が帰ってきた。
彼女は下を向いて「はぁ〜」と、深いため息を何度もしながら自室に戻った。
「おかえりなさいませお嬢様」
自室では、サリアの専属メイドのナナカが居た。
ナナカは疲れたサリアにブランケットをかけた。
「ナナカ……今日はほんと散々でしたわ」
サリアは、今日あった事を語った。
◆◆◆
少し前
昼間のパーティー会場。
サリアはカルト王子を探していた。
サリアが会場に着いてから二十分。
カルト王子はどこにも居ない。
「サリア・メーデル。第一王子である私に貴様のような醜い女は相応しくない。故に私は、貴様との婚約を破棄する。即刻私の前から消え、二度とこの場所に姿を見せるな」
サリアがやっとの思いで見つけた婚約者のカルト王子は壇上でそう告げた。
カルト王子の隣には、男爵令嬢のアマリアがいた。
この場にいるカルト王子が招待状を出して呼んだ貴族達もサリアを追い詰めた。
「わたくしサリア様は鼻についてましたの」
「カルト様に見捨てられて……お可哀想に……」
「男爵令嬢に負けて……みっともない(クスクス)」
サリアはこの場の地獄のような空気に負けず、揺らぎのない瞳でカルト王子を見た。
「……カルト様、なぜ私と婚約破棄を?」
「何を言うか。気味の悪い研究ばかりしている陰気な公爵家など、我が王家には不要だ。薄汚い魔道具もどきのゴミと一生ブツブツ喋っていろ。そして貴様は今すぐこの場を立ち去り、私に捨てられた女として、ゴミ捨て場でお仲間のゴミと会話でもしたらどうだ……ハッハッハッ」
王子の言葉に反応したアマリアは、壇上からサリアを見下した。
「サリア様。ゴミ捨て場に行く時は私にも教えて下さいね。ちょうど、要らない物が沢山あるので、私に負けて、良いところが一つも無いゴミのあなたが持って行ってくれればとても助かるの……クスッ」
「おい近衛騎士。今直ぐサリアを……このゴミを外へ放り出すのだ。私が気分を害する前にな……」
カルト王子は近衛騎士に命じた。
王家専属騎士である近衛騎士。
王族の命令は絶対遵守する彼らだが、カルト王子の命令に戸惑いを顕にした。
「カルト様……(相手はあのメーデル公爵家ですぞ、本当に)よろしいので?」
「早くしろ。私の前にゴミを置くな」
「…………ハッ」
そうしてサリアは、意味の分からない理由で会場を追い出された。
◆◆◆
今現在
「確かに公爵家は物と話していますが、それは公爵家の……この国の最新技術に必要なことですのに」
サリアの言葉を、一心不乱に聞いていたナナカはやっと口を開いた。
「……お疲れ様ですお嬢様。ところで今夜はもうご入浴なされますか? 夕食になさいますか? それともクソ浮気王子のザマァにしますか? 」
「ザマァができるのなら今すぐしたいわ……。でも相手は王族なのよ? カルト王子はこの国の第一王子で、現在は第二王子が王位継承権を持ってるとはいえ……ザマァなんてことができるわけ……」
「かしこまりました」
ナナカはメイド服をめくり、中から取り出した赤色のスイッチを押した。
『ウ〜ウ〜ウ〜ウ〜』
「ナナカ……貴方まさか!?」
耳を押さえているサリアは、ナナカの方を向いた。
ナナカは突然現れた、空中に浮き、白く光っている板を、両手でポチポチと押していた。
「それでは、我がメーデル公爵家特殊機動兵器部隊GCBを起動します」
『ブォン』
「対象指定カルト第一王子」
公爵邸の広大な庭園が左右に割れ、地下ドックから大量の無人兵器が姿を現した。
「3……2……1……イグニッション」
『ゴォォォォォォォォ』
「これより、お嬢様に恥をかかせ、王城で良い気になっているカルト王子に向けて出陣します」
「ナナカ……それは大丈夫ですの? 相手は腐っても王族ですのよ?」
「大丈夫です。こちらに、メーデル公爵家ご当主様のサインと、国王陛下のサインがありますので」
サリアはナナカが出した一枚の紙を見ると、クスッと笑った。
「……これは、良い案ですわ」
サリアは、ナナカがポチポチと押して操作している画面板を覗いている。
「お嬢様も操作してみますか?」
「良いんですの?」
「はい」
『ゴゴゴゴゴゴゴゴ』
「これは……とっても面白いですわ」
サリアは操作を楽しんだ。
カルト王子と兵器越しの対面をする前菜として。
◆◆◆
十分後
王城では、カルト王子が男爵令嬢のアマリアと夜を過ごしていた。
「アマリア……。君は今日も美しいよ」
「もうっ……カルト様ったらぁ〜」
「もっと顔を見せてく……」
『ドガァァァァァァン』
「う、うわぁぁぁぁぁぁ……なんだ!?」
カルト王子の自室にある窓が爆散した。
瓦礫の破片は、絶妙な位置関係でカルト王子から離れた服とドレスが置いてある場所に直撃した。
「キャァァァァァァ……カルト様が前に税金で買ってくれた世界に一つだけのネックレスがぁぁぁ!」
『対象を確認……スキャン開始』
「あ、あれは……何なんだ!? って、それよりも俺の部屋が……俺の服がぁぁぁぁぁぁ」
「私のネックレス……こいつは何してくれるのよ」
『ガキンッ』
アマリアは瓦礫を投げた。
しかし、兵器にそんなものは効かない。
『操縦者より設定変更の確認。ラージモードへ変更。これよりムービーを作成し、放映いたします』
「なんだ急に……こいつ……目が光って……」
兵器は、瞳パーツに搭載されてあるカメラで裸のカルト王子とアマリアを撮影し、この国の上空に全国同時ロードショーを開始した。
そのロードショーは貴族だけでなく、この国にいる全平民にも見られた。
「なんだあれ……カルト王子か?」
「あれは何をしてるんだ?」
『なんだこいつは……俺を誰だと思ってるんだ』
『何よこいつ……私は未来の王族なのよ……』
「…………」
「ハハッ……良い気味だな」
「もっとやってくれ」
「ついに罰が当たったんだ」
最初は戸惑っていた平民だが、次第に愉悦へと変わっていった。
なぜならカルト王子の日頃の行いは、この国の全ての平民に届くほどなのだから。
暇潰しに店を潰し、
暇潰しに人の人生を狂わせ、
暇潰しに王族への反逆罪として断罪する。
「もっとやってくれ!」
「良いぞ!」
「俺の息子の人生を狂わせた罰だ!」
「私の店を潰した報いよ! もっとやれ!」
「この映像を止めるな! 神様お願いします!」
一方公爵邸では、空に放映されている映像を誰一人も見ることはなかった。
サリアは画面から離れて魔道具を音声認識モードに切り替え、王城からの実況音声を部屋に流しながら紅茶を嗜んでいた
「お嬢様。紅茶はホット、アイスどちらでしょう」
「ホットにしますわ」
紅茶のホット。
それはとても暖かく、優しい風味。
国中の熱狂と同じ……。
『おいっ……なんだ……いきなり部屋の中が暑くなって……一体何が起こってるんだ……』
『カルト様……この部屋はもう駄目です。今すぐ部屋のドアを開けて外に逃げないと……』
『だが……あの化物が私達を追ってくるかもしれない……いや、逃げよう……こんなのごめんだ』
『カルト様……私を置いて行かないで……』
『はぁっ……はあっ……黙れ。私は男爵令嬢のお前と違ってこんなところでくたばるべきではない。この国の未来なんだ。絶対に……助かるべきなんだ』
カルト王子がアマリアの手を払い、逃げようとすると兵器の方から聞き覚えのある声がした。
『カルト様……貴方が主役の映画はとても面白いですわ……。国中の民も今頃はしゃいでますわよ』
「その声はサリアか? どこだ……どこからだ。まさかあの化物からじゃあないだろう…………な」
『ここですよ』
「はぇ」
カルト王子は絶望した。
なにせ目の前の兵器からは、空中に立体投影されたサリアの冷ややかな姿と声が聞こえるのだから。
「サリア……君はそこで何をして……それよりも私が主役の映画……どういうことだ……」
「あぁ……貴方はまだ知りませんでしたね。崩れた窓から王都の景色を見てみたらどうでしょう?」
カルト王子がビクビクしながら王都を見渡すと、空の上にある自分の全裸姿の映像と、それを見て盛り上がってる民の姿があった。
「これは夢だ……ありえない……」
「カルト様。どうやら本当のゴミは貴方のようでしたわね。どうでしょうか? この国の全てが、貴方の……貴方達だけのゴミ捨て場になった気持ちは」
カルト王子は目の前の現実に耐えられず、全裸のまま四つん這いになって土下座した。
「やめろ……やめてくれ……私を見ないでくれ」
『…………ナナカ。音量を上げてくれる? ゴミの勇姿を国中にお届けしましょう』
『はい……お嬢様』
「そんな……嘘だ……嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
カルト王子が四つん這いのまま這いつくばって移動して部屋のドアを開けると、ドアの前には空の映像を見てやって来たこの国の王。カルトの父が居た。
「カルトよ……お主を王家から追放する」
「父上……お願いだ……待ってくれ!」
国王は呆れた顔で近衛騎士に命じ、カルト王子とアマリアを拘束した。
「なんなのよ……なんなのよこれ……」
アマリアはこの期に及んで抵抗をした。
「私は悪く無いわ。全部こいつのせいよ。こいつのせいで私が…………お前らはその汚い手を離しなさい。私は悪くないんだから……私はカルトに……」
「アマリア嬢は王家の醜態を晒す原因を作ったものとして鉱山奴隷に落とし、カルトは平民として余生きるのだ」
「は……なんでよ……なんで私がそんな事に……離せ……離しなさいよ……」
「そ、そんなの……俺は生きていけないじゃないか……父上……話を……話を聞いてくれぇぇぇぇ」
アマリアとカルトの醜態は今もなお全国ロードショーされている。
追放されて平民になったカルトと、鉱山奴隷となったアマリアに残されたのは、全裸での全国同時ロードショーという悪名だけだった。
【ミッションコンプリート】
カルト元王子の追放から数時間後。
思い出したかのようにサリアは画面を見た。
「あら? 気付いたら変な画面になってますわ?」
「その画面を下にスワイプしてみてください」
「は……はぁ……」
サリアがナナカに言われるままに画面を下にスワイプしてみると、エンドクレジットが流れてきた。
[-出演-]
カルト元王子
アマリア元男爵令嬢
[-ゲスト-]
国王陛下
【構成・脚本】
ナナカ
【監督】
サリア・メーデル
【タイトル】
お疲れ様ですお嬢様。ところで今夜はもうご入浴なされますか?夕食になさいますか?それともクソ浮気王子のザマァにしますか?
【THE END】
「あら? 何なんですのこれ?」
「お嬢様。それはエンドクレジットというものです」
「エンドクレジットですの?」
「はい。今回関わった人が表示されるんですよ」
「そうなんですの……じゃあ、この星?とブクマ?ってやつはなんなんですの?」
「それは『面白い!』と思ったり、『応援してます』と思ったり、『この関係者の続きの作品が見たい』と思った人がつけるものなんですよ」
「そうなんですの……ならこのロードショーを見てくれた人達が押してくれるのを願いますわ」
「お嬢様……それは名案ですね。ではここに記しておきましょう」
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今回は疲れた方でも気軽に読めるような約4200文字の短編となります。
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