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[第五話] 一分で読めるショートショート

作者: ニルム
掲載日:2026/08/02

「もし願いが100円で叶う店があったら?」という発想から生まれました。

楽をして手に入れた幸せと、自分の努力でつかみ取った幸せ。あなたなら、どちらを選びますか?

少し考えながら読んでいただけると嬉しいです。

学校帰り。

商店街の裏路地で、一軒だけ見覚えのない店を見つけた。

木製の看板には、たった一行。

『願い、一回百円』

「安すぎだろ……。」

店の扉を開けると、小さな鈴が鳴った。

カウンターには白髪の老人が一人。

「いらっしゃい。」

「ここ、本当に願いが叶うんですか?」

老人は静かにうなずいた。

「百円玉を箱へ入れて願いを言うだけです。」

どうせ冗談だろう。

俺は財布から百円玉を取り出した。

「明日の数学の小テスト、満点が取りたい。」

チャリン。

老人は何も言わない。

それだけだった。

翌日。

配られたテストを見る。

100点。

「うそだろ……。」

勘で書いた問題まで全部当たっている。

偶然ではない。

放課後、俺は再び店へ向かった。

「ゲーム機が欲しい。」

次の日。

商店街の福引で一等が当たった。

新品のゲーム機だった。

「すごい……。」

その日から何度も店へ通った。

財布が欲しい。

彼女が欲しい。

部活で優勝したい。

全部叶った。

百円で。

ある日、店の前で泣いている少女を見かけた。

「どうしたの?」

「お父さんが急に仕事をクビになったの……。」

偶然だろう。

そう思った。

しかし翌日。

クラスメイトが落ち込んでいた。

「全国大会、ケガで出られなくなった。」

その翌日。

近所のパン屋が閉店した。

「客が急に来なくなってね。」

幸せな出来事の裏で、不幸な話ばかり耳に入るようになった。

違和感を覚えた俺は、老人に尋ねた。

「願いって、本当に百円だけなんですか?」

老人は少しだけ目を閉じた。

「代償は百円ではありません。」

「え?」

「願いは、どこか別の誰かの幸せを少しだけ使って叶えています。」

頭が真っ白になった。

「じゃあ、俺の願いのせいで……。」

老人は否定も肯定もしなかった。

「世界の幸せの量は、簡単には増えません。」

店を飛び出した。

ゲーム機を見る。

彼女から届いたメッセージを見る。

優勝トロフィーを見る。

どれも急に重く感じた。

数日後。

俺はもう一度だけ店を訪れた。

百円玉を箱へ入れる。

老人が静かに聞く。

「最後の願いですね。」

俺は深呼吸した。

「俺が今まで叶えてもらった願いを、全部なかったことにしてください。」

老人は少し驚いた顔をした。

「本当にいいのですか?」

「いい。」

鈴の音が鳴る。

気づくと店は消えていた。

翌日。

数学のテストは六十二点。

ゲーム機は持っていない。

彼女とも付き合っていない。

大会の優勝もない。

全部元通りだった。

だけど、商店街のパン屋は営業していた。

少女のお父さんは仕事へ向かい、笑顔で手を振っている。

ケガをしたはずのクラスメイトも元気に部活へ向かっていた。

俺は少し笑った。

「これでいい。」

帰り道、自動販売機でジュースを一本買う。

百円で買えたのは願いじゃない。

喉を潤す一本のジュースだけだった。

でも、その百円には誰かの涙は含まれていない。

それだけで十分だった。

空を見上げる。

幸せとは、誰かから奪って手に入れるものではない。

少しずつ、自分の力で積み重ねていくものなのだ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

今回のテーマは「願いには代償があるのか」という昔から語られてきた題材です。便利すぎる力には、見えないところで何かを失っているのかもしれません。

この5話のショートショートを最後まで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけたなら、ブックマークや評価、感想をいただけると今後の創作の励みになります。

それでは、また次の物語でお会いしましょう。

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