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ほろ酔い留学記

弱肉強食な焼肉定食

作者: 大浜 英彰
掲載日:2026/07/08

画像を作成する際には、「AIイラストくん」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。

 二時限目の講義を終えるや大急ぎで学食へ直行した私こと蒲生希望は、ノートやレジュメの手早い片付けも教室からの早歩きも全て水泡に帰したという事実に直面せざるを得なかったの。

「えっ、『本日分の黒牛焼肉定食は完売しました』って…」

 私が在籍する堺県立大学には阪南市に農学部畜産学科のキャンパスがあるのだけど、その畜産学科が産学共同で販売している黒牛の赤身を用いた黒牛焼肉定食は学食でも評判なんだよね。

 しかも黒牛焼肉定食はレギュラーメニューじゃないし数量限定だから、競争率も輪をかけて高いんだ。

「それは仕方ないよ、蒲生さん。何しろ学食は十一時から開いている訳だから。二限目の講義を履修している私達が幾ら急いだからって、午前中の時間割を丸々空けている子達には敵わないよ。正しく先手必勝だね。」

 ゼミ友である王美竜(ワン・メイロン)さんの指摘は、文句無しの正論だった。

 だからこそ、一層に無念の思いは募るんだよね。

挿絵(By みてみん)

「そうして先手を取られて負けた私と美竜さんは、焼肉定食を食べられないのか…これじゃ焼肉定食じゃなくて弱肉強食だよ。あーあ、せっかく焼肉定食を食べる心積もりになっていたのに…」

「期間限定の黒牛焼肉定食も今週の土曜日まではメニューにあるみたいだから、次は開店前から学食にスタンバってリベンジしようね。だけど蒲生さんが今日どうしても同じ価格帯で焼肉定食を食べたいなら、それはそれで力になれるよ。私なりに心当たりがあってね。」

 台湾からの留学生で大学近くの女子学生専用賃貸マンションに下宿している美竜さんは、私以上に県立大学近隣の飲食店事情に通じている。

 そこで私は、ゼミ友の提案に賭けてみる事にしたんだ。


 そうして私達が暖簾を潜ったのは、県立大学から少し離れた南海高野線沿いの大衆食堂だった。

 客層も学食や学生街の飲食店とは異なり、町工場の工員や年配の近隣住民がメインだったの。

「ちゃんとした焼肉店の定食だと、ちょっと値が張るからね。こういう大衆食堂や町中華も人情味があって、なかなか悪くないもんだよ。」

 そうしてお昼のワイドショーを眺めながら冷水を手酌している美竜さんは、まるで何十年も通い詰めた常連だったみたいに自然と店内の空気に溶け込んでいたんだ。


 やがて私達の注文した焼肉定食がテーブル席に並べられたんだけど、それは私がイメージしていたのとは随分と様子が違っていたんだ。

挿絵(By みてみん)

「あの、美竜さん?確かに焼肉はお皿に乗っているけど、ちょっとお肉の量が少なくない?どちらかといえば千切りキャベツの印象の方が強いような…」

「それは我慢しなくちゃいけないよ、蒲生さん。個人経営の大衆食堂は学食以上に色々とシビアな問題を抱えていて、それでもリーズナブルな値段を維持しなくちゃ常連さんが離れちゃうんだもの。だからキャベツなどの野菜で嵩増ししてお肉の印象が弱くなったとしても、大目に見てあげようよ。焼肉定食を巡る学食の弱肉強食に負けた私達なら、その辺は寛大にならなくちゃ。」

 私はこの時、台湾出身のゼミ友がさり気なくねじ込んだペーソス混じりのユーモアに思い至ったんだ。

「弱肉…ああ、だから『お肉の印象が弱い』って事なの?じゃあ弱肉強食の『強食』は?」

「お肉の印象が弱いなら、その分だけ(したた)かに食べるしかないよね?すみません、追加でノンアルコールビールを二人前お願いします!」

 弱肉強食に負けて学食の焼肉定食を食べられず、代わりに入った大衆食堂で提供されたのは「焼肉定食」というメニュー名の印象が弱くなる程に肉の分量が少なかった。

 そんな不満は、晩酌気分で(したた)かに食べて解決しよう。

 どうやらそれが、焼肉定食を巡る弱肉強食に対する美竜さんの出した答えだったんだね。

挿絵(By みてみん)

「こういう場合は食べ方にも工夫が必要だよ、蒲生さん。まず貴重な焼肉はご飯にしばらく乗せてそのお供として温存する。そして千切りキャベツにはソースをかけて、よく冷えたノンアルコールビールで流し込んだら…」

「あっ、何となくだけど串カツ屋さんで飲んでる気分になってきた!それに牛脂とタレがしみたご飯がいい味出してるよ。」

 たとえお肉の印象が弱い焼肉定食でも、精神的に(したた)かになれば美味しく楽しく食べられる。

 心の持ち様で何とかするだなんて、まるで魯迅の「阿Q正伝」に書いていた精神的勝利法だね。

 だけど阿Qと私達との決定的違いは、「次は必ず競り合いに勝つ」ってモチベーションがあるって事なんだよ。

 もっとも、肝心の競り合いが学食の黒牛焼肉定食を巡る物だって事は何とも情けないけど…

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❅⋆⁺企画概要⁺⋆❅ やきにく短編料理企画 バナー作成:大浜 英彰さま ほろ酔い留学記 (こちらの表紙風バナーは、た~にゃん様より頂きました。バナーを踏んで頂きますと、「ほろ酔い留学記」のトップページに飛びます。)
― 新着の感想 ―
私もやきそばを注文したら焼きキャベツが出てきたことあります。麺35%、キャベツ60%…… 気持ちのもちようと言われても、あれは許せんかった٩( 'ω' )و 文句言わずに食べきったけど
イラスト見て肉充分あるよね・・・?と思ったワイです 老いたな・・・
決めてたメニューが食べれなかった時の、 ショックって大きいですよね。 でも、蒲生さんが 量が少なくても、お肉が食べれてよかった! 食べ方次第で、満足感は得られるんですね。
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