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悪役令嬢に対する『悪役ヒロイン』

作者: みにや
掲載日:2026/05/08

別名義で投稿後、自主削除したものを再投稿。

バッドエンドとは言い切れないつもり……ハピエンではないです。ビターエンド。

 私はメリーナ。平民で……『悪女』です。

 何も、そうなりたくてなったわけじゃない。

 だけど、私が生まれた時、『神様』から与えられた役目は、『悪女』でした。


 断罪されるために生まれてきた、物語の癌。それが、私です。


 様々なことをしました。

 憎いとも、嫌いとも思ったこともない人をいじめなければならなかったのです。


 そう言うと、少し語弊がありますね。

 私は……『とある人からいじめられているようにふるまう』存在なのです。


 私は、平民の出で、公爵令嬢であるエリザ様から、婚約者であり、王子であらせられるアルフレッド様を奪わなければならなかったのです。

 どうしてどうしてどうして!!


 エリザ様を差し置いて、アルフレッド様と結ばれるなんてあってはならない!

 私はこんなことをしたいのではありません!


「私は……こんなことをやりたいんじゃない……!」


 私は、エリザ様を尊敬しています。

 凛とした立ち居振る舞い、身につけられた教養、厳しくも優しいお方……。


 そして、アルフレッド様もまた。

 国一番の剣の使い手、周囲への細やかな気配り、年頃の女子であればだれもがうっとりする美貌……。


 お二人は、本当に釣り合っています。

 だから、私はお二人の恋がうまくいくのをずっと影ながら見ていました……。

 ですが、とある日のことです。

 アルフレッド様が私にねぎらいの言葉をかけてくださってから少ししたくらいに……エリザ様とアルフレッド様の関係が崩れ始めました。


 ぎくしゃくし始めたお二人を見て、私はエリザ様のご友人にどうしたのかをお聞きしたのですが、返ってきた言葉は……。



「あなたのせいでしょ? あなたがエリザを嵌めたんじゃない!!」


 どういうことかわかりませんでした。

 それはどういう意味なのか……聞こうとしたのですが、それはかないませんでした。

 私は唐突に意識を失い、『エリザ様のご友人がメリーナを気絶させた』ということになっていました。



 違います!

 エリザ様のご友人は何もしていません!



 そう私が皆さんの前で言おうとした瞬間……私はまた倒れました。

 医師にはストレスによるものだと判断され、疑惑の視線はエリザ様に向けられました。


 何故ですか!

 エリザ様は何もしていません!


 ですが、まるでそうなることが当然、であるかのように、エリザ様が私をいじめたという話になっていました。


 不気味でした。

 ……今まで、感じたことのない感覚でした。

 こんなことはあり得ないとはっきり言い切れます。


 だから、私は何度も何度もアルフレッド様に訴えました。

 エリザ様も、エリザ様のご友人も関係ない、と。

 何かに操られた運命だ、と。


 ですが……いえ、思えばそれがいけなかったのでしょうね……。

 だんだん、エリザ様が私をいじめたということが、いつしか『真実』になりつつありました。


 噛み合っているようで噛み合わない、事実ですらない『勘違い』。

 どこの誰かが書いているような、三流お芝居。


 私は……愚かにも自ら踊っていたのです。

 『悪女』となり、お二人の仲を裂くように。


 日が過ぎれば過ぎるほど、私に対して向けられる視線は懐疑的なものが増え、徐々にそれは憎悪といった感情を孕むようになりました。


 私に敵意を向ける人は、一人、二人と増え……私の味方は、最後まで声を張り上げてくださったのは、恐れ多くもアルフレッド様でした。

 ……でも、違います。

 実際には、アルフレッド様のご友人で、国の重鎮のご子息であらせられる方々が、私を庇っているのがわかります。


 終わりは近いのでしょうか……?


 皆さんが、私が断罪されることを待っている――そんな気がしました。

 そして、奇妙な動きがあることに気づきました。


 宰相の息子であらせられるジョニー様が、私とすれ違い際にこう言いました。



「運命からは逃れられない。お前の裁きの時は近い」



 ジョニー様は、私から唯一離れていた国の重鎮の方でした。

 そして、その日以降……ジョニー様は、私達の前から姿を消されました。

 おそらく、『裁きの時』を用意しているのでしょう。

 それだけが、私の心のよりどころです。

 エリザ様とアルフレッド様を傷つけておいて、自分ひとりのうのうと生きる気はありません。




 その数日後――アルフレッド様は、エリザ様との婚約を破棄すると宣言しました。


 運命の時はやってきたのです。




 ですが――そこで、衝撃的なことが起こったのです。




 何の前触れもなく。皆がまるで糸が切れた人形のように倒れ伏したのです。


「え……エリザ様?」


 エリザ様は動きません。

 それだけでは終わりません。周囲が……灰色に塗りつぶされていきます。

 人は何とかその『灰色』に塗りたくられるのを免れたようですが、『灰色』に世界が侵食されつつあります。


 何があったのか……あたりを見まわしても、エリザ様も、アルフレッド様も……エリザ様のご友人も倒れ伏しているだけ。

 まさか……ジョニー様も!?


 最悪の……私が罰を受けないというケースを想定し、ジョニー様を探そうと決意しました。

 今まで、自分の意思とは違う考えでありながら、正気を失わなかったのは、ひとえにあのかたのおかげです。

 与えられるであろう『罰』があるからこそ、私は今まで生きてきたのですから。


 たとえ、殺されるための、裁かれるためのものであっても……私は、エリザ様も、アルフレッド様も確かに愛していたのです。


 振り返ると、そこには呆然とした様子で立ち尽くすジョニー様の姿がありました。

 どうされたのでしょう……皆さんが倒れ伏しても、ジョニー様は無事……まさか……!



 この方は、私と同じように……『操られているという自覚がある』お方……!?



 その時、私に舞い降りたのは、まさしく天啓ともいうべきもの!

 この方は……この世界で『私』と同じ……!


 ……いえ、私などと同じなどとはおこがましいですね。


「お前……本当はエリザ達のことが好きだったのか」

「……大好きです。こんなこと……私が望んだことではありません……」


 ジョニー様は、どこか呆然とした様子でつぶやきます。

 その瞳には、哀しげな色が浮かんでいました。

 憎い私の前だというのに、隠しさえされない……このかたの、『弱々しい』御姿でした。


「ならば、これは世界を作った神の仕業だろうな」

「神様……」


 神様は、どこまでも残酷です。

 エリザ様にも、アルフレッド様にも厳しいなんて……。


「俺だって……別にこんなことしたくねーんだよ」


 深い溜息をつきながら、ジョニー様は私に向き直りました。

 その瞬間、ジョニー様の瞳と私の瞳がかち合います。

 ジョニー様の瞳は、深い疲労の色が見えました。

 おそらく、私と同じように……今まで心休まることはなかったのでしょう。


「お前は、どうしたいんだ?」

「私は……エリザ様とアルフレッド様を見守りたいです。お二人とも、幸せになることを……私は心から望んでいます」

「その言葉に嘘はないな」


 先程とは違い、いつもの凛々しい御姿で、私に剣を突き付けるジョニー様。

 ……できれば、このまま剣に私の喉を一突きし、死に至りたい……。

 ですが、それは許されません。

 少なくとも、エリザ様の濡れ衣を晴らしてからです。


「あなたが私のしたことを許せないと言うのなら、いつだって裁きをくだしてくださっても構いません。いえ……むしろ、私はそれを望みます」

「……ったく……じゃあ、本当に今のこの状況は……いや、この状況を作り上げたのも、『カミサマ』の仕業ってわけか……」


 ぐ、と……ジョニー様の指がその掌に食い込むのを見ました。


「くそったれ!!」


 がらん、と剣が地面へと転がります。

 放り投げられた『それ』は、むなしく鈍く輝くだけ。


「神よ! お前の勝手で、すべてを決められてたまるか!」


 そう、ジョニー様は高らかに叫びます。

 ですが、どんなに時間がたっても、そこから『物語』が動くことはありませんでした。


 いっそ、楽にしてくれたらと何度も思った。

 だけど――ひとつだけ、わかりました。


 飽きたのです。神様は。



「俺にできることもない。無論、お前もだ。見つけてくれと叫ぶこともできない」


 私達は、捨てられました。

 ですが……こうして、ジョニー様とお話できることは確かです。


「だけど、今、この瞬間ならば……ジョニー様と話をすることができます」

「惚れたか?」

「それは違います」


 それだけは違うと言いきれます。

 私が心から尊敬している……そんな存在は、エリザ様とアルフレッド様です。

 もちろん、ジョニー様も尊敬しておりますが、惚れるということはないです。

 ここでジョニー様が私を処刑するのは簡単でしょう。


「いい根性してるぜ、お嬢さん。まあ、俺も少し意地悪が過ぎたな。悪い」


 ですが、彼ならばそんなことはしないという確信に近いものがありました。

 ジョニー様は、誇り高い御方。私が並び立つのは許されていません。


「これから先……俺はアルフレッドを殺し、お前を公開処刑してから……エリザと共に国外に行くつもりだった。そういう筋書きだったんだ」

「国外、ですか?」


 それは意外な話でした。

 宰相の息子ともあろう方が、どうして……。


「ああ。俺は隣国のエージェントだったんだよ」

「……そんな存在が食い込むのを止めなかったのですか、この国は……」


 理由を聞いて理解はしましたが、納得はできませんでした。

 この国は、他国のスパイがいても気にしないのでしょうか……少し気落ちします。


「『この国』、じゃなくて『この世界』がいかれてんだよ。どこまでも『俺』と、『俺が好きなエリザ』に優しい設計になってるんだ」


 エリザ様……ではなく、『ジョニー様』と、『ジョニー様が好きなエリザ様』。

 ……エリザ様はアルフレッド様が好きでした。

 ジョニー様はどうなのでしょう。

 『本当の』ジョニー様はエリザ様のことをどう思っているのでしょうか。


 ですが、エリザ様の願いは一つでした。

 たった一つの、シンプルな願いでした。


「……世界が動き出して、エリザ様とアルフレッド様がご結婚されたらいいのに」


 ばっ、と……ジョニー様は私の言葉に弾かれたようにこちらを向き、目を見開いています。

 ……どうかされたのでしょうか。


「その先が……お前にとっての世界の終着点が『死』であってもか」


 ……ああ、そういうことですか。

 そんなこと、今さらです。


「はい、いいんです。それで私は幸せですから」


 この世界が、神様に操られた世界であったとしても、私が尊敬した人は確かにいるのです。

 ですが……ジョニー様に、恐れ多くもお願いしたことはございました。


「ですが……アルフレッド様を許してくださいね。あのかたは何も悪くはないのですから」


 そう。アルフレッド様に罪はありません。

 エリザ様と同じく、とても優しく、とても生真面目なお方――

 私などがいなければ、お二人は幸せになれたのでしょう。


「善処はするさ。今はこの冴えない世界で語らっていようぜ。話し相手がいなきゃ気がふれそうだ」


 ジョニー様がそっぽを向きながらもそう言いました。


「お前も……カミサマに操られたんだ。恨み言くらいは言ってもいいんだぜ」

「では……せめて、皆様が幸せになる世界を祈ります」


 エリザ様。アルフレッド様。ジョニー様……。

 それぞれ皆様が、幸せになれる世界を。



 そして――



 私達は、私は待ち続けます。

 このすべてが止まった時が動き出すのを。


 たとえ、その終着点が私の死だとしても。




 END.

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