フィギュアスケーター異世界転生
この物語はミラノオリンピックのフィギュアスケートを応援しております。
(勝手に応援しているだけで協賛関係などは一切ございません)
これ転生じゃね? と気がついたのは3歳の時。
(私の家ってお城みたい。シンデレラの。あれシンデレラってなんだっけ。ガラスの靴とか舞踏会とか)
お屋敷の庭園を乳母とお散歩していて分かったのだ。
私は伯爵家のお嬢様なのに、それだけでは知りえない知識をかかえていると。
以前にも周りの世界とは全く違う記憶や考え方に混乱することはよくあった。
毎日ドレスを着なくちゃいけないとか、両親と一緒に食事を取れないとか、もう1つの記憶は変だと言っている。
でもなぜなのかは今まで分からなかった。
転生したからだと納得したのは、物心とやらがついたのだろう。
私、アイリス・スライダーは手を握りしめた。
前世の記憶や感情を受け入れれば、前世の願いも湧き上がって止まらないのよ。
「あたくし今度こしょ世界一のフッギュアシュケーターになってやりましゅわ」
幼すぎてフィギュアスケーターがうまく発音できず、しばらく落ちこむ。
前世の私は全日本選手権で上位に入る成績だった。
上位ではあっても日本代表にはギリ選ばれないレベル。
期待はされてもオリンピックの舞台には立てないまま現役を終え、コーチとして後進を育てた。
(あー 世界選手権とグランプリファイナルの舞台にも立てませんでしたよ。けっ)
いくつまで生きたか覚えてはいないが、もう一度人生がやり直しできるなら、またフィギュアスケートがしたい。
(今は3歳。練習を始めるのなら十分ね)
自室に戻ると私はとりあえず柔軟運動を開始する。
「きゃあああ、お嬢様のお体がぁ」
メイドにドン引きされてしまった。
この世界に柔軟運動はないのか? とりあえず隠れて練習するしかないようね。
次は親に習い事のおねだりよ。サロンにレッツゴー!
「お母様、あたくしフッギュアシュケートを習いたいわ」
「何かしら、それ?」
は、と私は硬直した。
(まさかこの世界フィギュアスケートがない?)
フィギュアがないなんて、この世界何時代よ。石器時代?
いやいやいや、そこまでではないよね。
いそいで確認すると、スケートはあった。
が、フィギュアスケートの文化は未発達の世界だった。
(クソ、盲点だった)
こんな未文明社会に転生だなんて、思わないじゃない。
急いで思考を切りかえよう。なかったら作ればいいだけの話。
フィギュアスケートの、文化そのものをね!
「だったらバレエが習いたいわ」
バレエはあった。良かった。速効講師を手配してもらう。
「素晴らしい素質ですわ! これなら王家開催の夜会でも披露できますことよ」
バレエ講師は私の動きをベタ褒め。
そりゃ基本は知っているからね。
子供の体に1からたたきこむのは大変だったけれど。
バレエの英才教育を始めて3年、7歳の冬。
私はやっとスケートをする許可をもぎとる。
親にねだっても「まだ小さいから無理」と断られ続け、ひたすら説得した。
やっとスケート靴を買ってもらう。
寒さの中、馬車で領内の湖まで移動。
中心まで凍った湖は天然のスケートリンクだ。
何人かの平民が滑っている。
侍女に手伝ってもらって靴にスケートを装着した。刃がぶ厚くて重いわ。
「安全のため岸から離れてはいけませんよ」
付き添いの執事に念を押される。
湖の中央は氷が薄く、たまに溺れる者もいるらしい。
私は氷の上に立った。
背をまっすぐにしてバランスを保つ。
1歩踏み出し流れを確かめた。
(うん、問題ない)
バレエを習っているから体幹が鍛えられている。
そこからは一つ一つの動きを確認。
前世で子供たちに教えていた動きの再現だ。
(体が動く。できる。楽しい!)
周りの視線を集めてまくっている事にも気づかず、私は滑り続けた。
「お嬢様はまるで氷の精霊にございます」
屋敷に帰っても執事が絶賛してくれて、両親の心象は良くなった。
スケートを続けることはスンナリ許可される。
次は衣装だ。
さすがに普段のドレスでは重すぎて滑りづらい。
回転してもスカートがひらっとはならないし。
石板に絵を描いて侍女に作れるかどうか聞いてみた。
「なりません! 足を出す衣装など」
速攻で却下されちゃったよぉ。
うん、周りの服装とか見てなんとなくは分かっていたけどさ。
ちゃんとタイツもはくしさ。
「足のラインを見せるのがはしたないのです」
そっかぁ。
だったら足回りに余裕を持たせたデザインのパンツを提案してみた。
シェラザードの衣装にあるような形で、透けないのを。
こっちは否定されなかった。スケートの向上に必要だと周りを説き伏せて作ってもらう。
薄くて軽い布で上にはくスカートもついでに。
衣装ができ上りさっそく両親にお披露目だ。
(ふっふっふ、これからスピンやスパイラルを見たらどんな顔をするかな)
今日は家族そろってのお出かけ。
領主夫妻がそろっているからか湖には庶民の姿がなかった。
護衛兵が追いはらったらしい。
静まり返る湖面で、私はジャンプをためす。
まだシングルしか飛べないけど、スカートは軽やかに舞った。
スピンも高速はできない。
柔軟運動をずっと頑張っていたから、スパイラルはきれいに決まった。
「ぎゃああ、アリスちゃんの体がありえない形になってるぅぅ!」
「お嬢様、ご無事ですか⁉ 骨は折れていませんですか⁉」
みんなにはドン引きされた。
体が無事なことを説明するまで阿鼻叫喚は続く。
「すっごいわアイリスちゃん!」
やっとお母様が手をたたいて喜んでくれたよ。
「でも足を上げるのははしたないからダメよ」
しかしなぜが禁止事項まで加わる。
「え、基本のアラベスクスパイラルですよ?」
言い返しながら思い出した。
そう言えばバレエの授業の時もアラベスクポーズ取らなかったような‥
うん、足を大きく広げるポーズは全部なかった。
(せっかく柔軟運動頑張って来たのに)
これではできるスピンもかぎられる。
今ならレイバックスピンからビールマンポジションも可能なのに!
自室に戻り、ベッドにダイブする。
ゴロゴロゴロゴロ悩みまくった。
(どうしよう。足を上げない技だけで演技を構成する?)
それだけでもこの世界であれば頂点に立てる。
コーチとしての経験があるから振り付けも問題ない。十分美しい演技構成は可能だ。
それだけでも大勢を魅了できるはず。
フィギュアスケートの文化を作る目的だけなら、問題なかった。
だがそれで私自身は満足するのだろうか?
せっかく健康でスタイルも良く金持ちの家に生まれておいて、その程度で十分だと?
前世では才能と環境に恵まれず泣く泣く引退したライバルたちをたくさん見てきた。
20を過ぎた頃、自分もその中の一人だと分かった。
簡単に1番が獲れるからってできる技を見せずに一生やらない? そんな、数多のライバルたちに申し訳なさすぎる。
そして絶望のあまり一晩泣き明かした『あの時の私』は絶対に納得しない。
(貴族の慣習に文化の違い‥ 確かに壁は高いか)
しかし、と思いなおす。
前世でオリンピックに挑戦したことを思い出すと、そこには山のような障壁を感じた。
乗りこえられず何度絶望したことか。
あの時に比べたら今の問題はなんてことないのでは?
貴族の慣習に文化? しみついた無意識バイアス?
努力もせず、こえられない壁だってあきらめる?
大体さ、それって本当に難しいのかな。オリンピックの金メダルよりも?
(やってみなくちゃ解らないよね!)
あきらめるのは全力を出した後で十分じゃん。
私は覚悟を決める。
まずはバレエから改革だ。
「先生、わたくしが考案したポーズを見て下さいませ」
片足で立ちもう一方の足を後ろに高く上げる。
バレエ講師にアラベスクを披露だ。
「す、すばらしい。足を広げているのに優雅だなんて」
ピルエットも3回転くらいで大好評。
メイドに無理して作らせたロングチュチュをひるがえす。
「これでしたら王族の目に留まるやもしれません」
よし、お墨付きはもらった。
先生に親の説得を頼み、お茶会で披露することに成功。
私は初めてのお茶会で大喝采をあびる。
スライダー伯爵家に妖精現る、と貴族の間で話題が沸騰。
上位貴族の館に次々と呼ばれるようになった。
私は踊る時には必ずスケートの宣伝もする。権力者にパトロンをやってもらうためにね。
そしてとうとう王城に招待された。
王家の方々にバレエを披露する。
「君が伯爵家の妖精か」
みな様、目を丸くなされていた。
「もしお許しいただけるのなら、これらの舞いをスケートでも披露いたします。スケートはまだ他家にお見せしていないのですが」
「ほう、それは見てみたい」
思ったよりすぐ許可が下りた。
特権階級は自分だけ特別が大好きらしい。
許可をもらって王宮の中庭にある池を氷漬けにさせてもらった。
氷魔法で。
そうこの世界には魔法がある。
教わり始めてから私は魔法に対してはひたすら氷魔法を極めていた。
理由は単純。
素早く美しくアイスリンクを張るため!
攻撃魔法? なにそれスケートの役に立つの?
美しく均一に凍った氷床へ私は滑り出す。
スケートの刃は薄く軽やかに作らせたから、ジャンプも2回転まで飛べるようになった。
トゥーループとサルコウを披露。
スパイラルも決めた。アラベスクポーズはバレエで急速に広まっている最中だし。
ビールマンポジションのスピンでフィニッシュ!
生演奏の音楽と宮殿をバックに背負った演技だ。それはそれは幻想的に仕上がったと自負している。
「アイリス・スライダー嬢、ぜひボクと結婚してください」
ほっぺたを真っ赤にした少年王子にプロポーズもされちゃった♪
返事は迷ったけれど、お父様がまだ早すぎるとかなんとか言って断ってくれる。
それからの展開は怒涛だった。
私の考案した? ポーズが次々とバレエ界で採用される。
国交の場にはドンドン呼ばれスケートを披露しまくった。
そのせいで貴族界でスケートが大人気になる。
それまでは優雅に円を描くだけだった貴族界スケートが一気に変貌した。
バレエダンサーたちが続々とスケートに参入し、全体のレベルが向上する。
たった1年で、フィギュアスケートの文化が爆誕したのだ!
そして10年がたつ。
私はフィギュア界の頂点に立ち続けた。
成長期は伸びる体にバランスが崩されそうになり成長痛に苦しまされたけど。
冬至祭に合わせて大会も開催できた。
今のところ私は無敗女王である。
ただ‥ ステップやスピンで私にかなう人間はいなかったが、ジャンプだけは負けた。
風魔法使いの男爵令嬢が、私より先にトリプルアクセルを決めたのだ。浮遊魔法の応用だとか。
(風魔法にそんな使い方があったなんて。盲点だったわ)
くそ悔しかったけど、魔法がある世界なら新しい技も生まれるのだろう。
私も研究したくなる。
文化ってこうやって発展するんだね。
18になった私は前世で手に入らなかった理想の体を手に入れた。
日本人ではありえない長い手足。
繊細に動かせば、とんでもなく優雅な舞いが可能になるのよ。
筋肉がしっかりあるからジャンプも高いし軸もぶれない。
ここからが選手人生の本番よ♪
なのに‥ 婚約のお誘いが後を絶たない。
「アイリス、そろそろ決めてもいいんじゃなかな」
父親もあせり出したようだ。
だが断る。
「フィギュアスケートができなくなるんだったら結婚なんてしないわ」
誰かの妻になったらスケートを禁止される恐れが大きい。
そんなリスクは避けるに限る!
私は人生をフィギュアスケートに捧げるのだから。
「伯爵家には養子を取って下さいな」
「あなたの気持ちは分かるの。でも素敵な殿方と結ばれる幸せもあるのよ」
母親にも説得された。
それも分かるんだけどさ‥ 社交界にデビューし夜会で若い男に囲まれて思ったのよ。
この人ステキだけど羽〇選手ほどじゃないし、あの人カッコいいけどチェ〇選手ほどじゃなし、可愛い系のそっちの子もマリニ〇選手ほどじゃないし‥
氷上の貴公子を生で愛でてきた記憶のせいで、同年代の男の子がみんなお子様にしか見えない!
あ、本当に結婚できないんじゃないかな。
別にスケートがあるからいいけどさ。ブツブツ‥
「やあアイリス」
今日は第5王子が花束を持って我が家を訪れた。
時々王宮ではお目にかかるけど個別で訪問されるのは珍しいわね。
22歳になった彼はまあ、ハンサム。見た目はトリノ五輪時のプルシェン〇選手に近いかもしれない。
「昔、僕がプロポーズをしたの覚えてる?」
一緒にお茶を飲んでいたら昔話をしてくる。
ほほ笑みながらうなずいた。
子供の時のかわいらしい思い出よ。
「あの時は早すぎるって断られたけどさ、そろそろ受けてくれないかなぁ?」
「え?」
どうやら、王子にとってはただの思い出じゃなかったらしい。
初めて会った時からあきらめていなかったですと?
「僕は側妃の子だから王位継承権は低いんだよね。伯爵家の婿入りに問題点もないし」
「わたくし、スケートをあきらめる気はありませんの。一生」
子供は欲しいけど、後4年くらいは今の生活を変える気がないことをしっかり伝えた。
「ん~ 僕ならそれくらい待てるし、伯爵家の仕事も大体はやってあげられるけど」
えっと私は息を飲んだ。何その好条件。
「結婚してもスケートは一切制限しないことを誓うよ、だからお嫁さんになって欲しいのだけど」
とんでもない殺し文句に、私の心はクラクラしてくる。
「どうかなぁ?」
気がついた時にはうなずいていた。
フィギュアはそこまでくわしくありません。ファン歴が長いだけです。
ジャンルが分かりません。ヒューマンドラマ? アクション?
とりあえずコメディータッチのスポ根ってことで!
ポイント入れてくれた方、ありがとうございます°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°




