表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/13

第8話 “恋愛補完計画”なんて、聞いてないから!!

 ぽかん、としたまま、私は紅茶のカップを持った手を半分宙に浮かせていた。


 異世界。

 サバイバル。

 死にかけ。

 ツナマヨ。


 そして――ラブコメの神。


 順番どうなってんの!?


「……あの」


 ようやく声が出た。


「あなた……神様なんですよね? その、ラブコメの?」


「うむ!」


 ラブコメ神・なぐもんは、なぜか腰に手を当てて胸を張る。

 背後で“どこから出してるのか不明なSE”が流れ、**キラーン!**と効果音が鳴った。


「君の孤独な日々にこそ、今こそ“ラブ”が必要なのだよ! 苦しみの中でこそ芽生える想い、擦れ違い、涙、そして感動のキス! それが我の導きし《ラブコメ補完計画》!」


「……補完される前に心が崩壊しそうなんですけど?」


 いや、なんでここに来たのよ。

 助けに来た神様、第一声が「青春が足りない」って。


 わたしの何を見てたの!?



「さあ、選ぶがよい!」


 なぐもんは、分厚い本――“初恋の書”とやらを高く掲げた。

 中には、なぜか三択のルート分岐が載っていた。


「異世界ラブコメの道は、己の選択から始まるッ!

 ここに示す三つの選択肢から――運命の一歩を踏み出せ!!」


 ……ノリが完全に某・恋愛シミュレーションゲーム。


 ページには、キラキラのピンクインクでこう書かれていた。



【選択肢】

1.「森で出会った不思議な少女が、実は精霊の姫だった!?」

2.「無口な狩人ラザンとの距離が、急にゼロ距離に!?」

3.「目覚めたら、なぜかラブコメ神と婚姻届が提出されていた(書類は既に提出済)」



 いやいやいや。


「この中に、“普通に生きる”って選択肢ありませんか!?」


「残念だが、既に君の物語は恋愛ジャンルに突入しているッ!」


 ぐっ、と親指を立ててウインクしてくるなぐもん。


 勝手にジャンル変更すんなーー!!



「では、我が加護を授けよう!」


 なぐもんは羽をばさっと広げると、どこからともなくピンク色の魔法陣を展開させた。

 魔法陣の中央には、なぜかハートマークが回転している。


 その中心から、ひときわまぶしい光が溢れ出す。


「“告白イベント自動発生スキル”! “好感度上昇バフ”! “文化祭ルート開放”! 選りすぐりの神技を君に!」


「いらないからあああああ!!」


 ――そして。


 ピンク色の光が、わたしの額にぽすっと小さく当たった瞬間だった。


 ぱあああっと、視界が明るくなり――


 ラザンが、私の方を振り向いた。


「……? どうした?」


 なんか、妙に照れてるように見える。


 ……え、これ、まさか。


 発動した!?


(ちょっと、冗談でしょ……!?)


「わたしは、ラザンのこと……」


 なんか勝手に口が動くんですけど!?


「っ!? 待って、やめ――!」


「ちょっとまてい!!」


 ようやく、なぐもんが止めに入った。

 ピンクの光を振り払うと、私の口もぴたりと止まる。


「おっと危ない! チュートリアル演出がフルオートになっておった! ふむ、調整が必要だな!」


「いや、何チュートリアルでフラグ建てようとしてんのよ!!」


「よろしい、では我は一旦姿を隠す。しばし君のラブを見守るとしよう!」


「まって、帰らな――」


 ふわりと舞い上がったラブコメの神は、ハート型の煙と共にどこかへと消えていった。


 静寂が戻る。


 ラザンが、ほんのわずかに眉をひそめた。


「……いまのは、何だった?」


「説明できたら、こっちが聞きたいわ……!」


 私は、冷え切った紅茶をぐいっと飲み干した。


 後味は――なぜか、ほんのり甘くなっていた。




そして、その夜。


 再び訪れる夜闇のなかで、焚き火の灯りが揺れていた。


 ラザンは黙って弓の手入れを続けている。

 私は、その隣で紅茶のカップを両手で抱きながら、ぼんやりと空を見上げていた。


(……なんだったんだろう、あの神様)


 非現実すぎて、夢だったのかもしれないと思い始めていた。

 けれど――


「……さっきから、顔が赤いぞ。風邪か?」


 ラザンのその言葉に、私はびくっとした。


(うそ、バフまだ残ってる!?)


 この世界、どうやら本当に油断ならない。


 “死”だけじゃなく、“ラブ”の不意打ちまであるなんて――


 思わず、苦笑がこぼれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なぐもんさんの暴走が止まらず、終始笑いが止まりませんでした。久々にweb小説で大笑いし、今まで溜まっていたストレスがようやく解放されました。 秀逸なエピソードのご提供、ありがとうございます。
なぐもんさん…… 選択肢3「目覚めたら、なぜかラブコメ神と婚姻届が提出されていた(書類は既に提出済)」って、 それはやばいですよ(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ