第11話 近すぎる距離、ラブコメ神の思うツボ。
ラザンがむせていた。
「……いきなり煙が……。何が、起きた?」
落ち着いたはずの焚き火は、なぜかハート型の火花を散らして燃え盛っている。
しかも、背景がピンクになってる。ありえない。誰の演出?
(いや、明らかにアレの仕業だけど!)
私は、こっそりラザンの背後をチラ見する。
なぐもんはというと、例によって見えない振りを決め込んで、ぴよぴよ浮かんでいた。バレバレだし。
(あれで“バレてないと思ってる”のがほんと神だよ……ラブコメ神だけど)
視線を戻すと、ラザンが訝しげに周囲を見回していた。
「……何かが、近くにいるのか?」
「え、あ、いや、その……焚き火の具合が、ね? ちょっとおかしいかな~ってだけで!」
誤魔化すのがやっとだった。
だって説明できるわけない。ピンクの羽根の神様が恋愛イベントぶっ込んできました、なんて。
(ああもう、なんでこの世界でまでラブコメさせられなきゃならないのよ……)
それなのに。
「……今夜は、なんか妙だな」
ラザンがぽつりと呟いた。
「妙って……?」
「結月の、雰囲気が……少し、違って見える」
「~~~~っ!!?」
やめて!? そういうの今一番ダメなやつだから!!
わたしは目をそらしながら、意味不明な草をちぎって指先で揉む。全力で挙動不審。
なのに、ラザンは真剣な顔で言ってきた。
「……顔が、赤い」
「赤くないっ!! 赤くなんかないよっ!? たぶん! いや絶対に! なんなら冷え性だし!」
謎の言い訳を口走っていた。
(やばい、やばい……これはもう完全にバフの影響だ。すれ違いとか誤解とか以前に、わたしのHPがゼロになりそう……)
視界の端で、なぐもんがドヤ顔でサムズアップしてる。
やめろその顔。煽り性能高すぎるから。
ラザンが少しだけ、困ったように眉を下げる。
「……何か、言いにくいことでもあったか?」
「な、なんで?」
「いや、さっきから、ずっと目を合わせてくれないから」
「~~~~~っっっ!!!」
言わなきゃ気づかれなかったのにッ!
「ち、ちがっ……! そうじゃなくて……あの、なんていうか……虫とかいたから!」
「……虫?」
「そう、虫! なんか飛んでて! で、気になってそっち見てたの!」
自分でも意味わからない言い訳になってきた。ていうか虫って何。
そんな私を見て、ラザンはふっと息を漏らした。
「……無理に話さなくてもいい。何かあったのなら、言えるときでいい」
「えっ」
その言葉に、一瞬だけ、胸が締めつけられた。
優しい。
だからこそ、こっちの気持ちが追いつかない。
(ほんと、ずるい……)
そんな風に思ってしまう自分が、また嫌で。
私は火の揺らぎを見つめながら、小さく呟いた。
「……もう、少しだけ……そばにいても、いい?」
それは、思わずこぼれた本音。
でも、聞こえてしまったらしく、ラザンが目を見開く。
やばい、今のは絶対“本心逆転効果”とかのせいだってば!!
慌てて取り繕おうとしたその時。
「おう、そう言ってもらえるなら……焚き火くらい、いくらでも囲んでやる」
ラザンは、照れたような声でそう言った。
……もう、ダメだ。
このままだと、バフとかじゃなくて――
本当に、気持ちが、傾いちゃいそうで。




