第八食 そういうとこ好き
「鬼を否定するつもりはないのよ。決まりさえ守ってくれれば、どんな種族でも歓迎するわ」
リズの言う通り、職を持つのに種族は関係ない。
実際、裏ギルドでは獣人やドワーフなどが働いている。
「ただその……私の知っている鬼は、こんなに整った容姿ではなかったものだから。念のため聞きたいのだけど、先祖に鬼がいたとかではないのよね……?」
鬼は醜い姿で生まれることが多い。
力の強い個体が、成長するほど巨大で化け物じみた姿になっていくのに対し、弱い個体は人間に近い姿のままで一生を終える。
どちらにせよ、美しい容姿を持つ鬼は皆無だと言われていた。
祖先に鬼がいた場合であれば、ロザリーのように比較的綺麗な容姿で生まれることもある。
しかし、その場合の種族は人間だ。
アルヴィスは純粋な鬼でありながら、絶世の美貌を持っている。
リズが疑うのも、無理のない話だった。
「鬼で合ってるそうです」
何も言わないアルヴィスだが、サヤは少し見ただけで正誤を理解している。
まるで、何年も組んでいたかのような二人の姿に、リズが感心した様子で息をついた。
「分かったわ。年齢は不明のままで、既存の職業はなしね。カードは身分証として使えるから、外見年齢と適当な職業を入れておくようにするわ」
差し出されたカードを受け取ったサヤが、アルヴィスに手渡している。
失くさないようにと話すサヤに、アルヴィスは「分かった」と口にした。
「──専属契約についてはこれで完了ね。あとは報酬の件だけど……」
その後の手続きは順調に進んだ。
サヤは契約書に書かれたサインを見て、目をキラキラと輝かせている。
ついに、念願の死体処理係を手に入れた。
死体の処理に悩まされていた日々と、これでようやくおさらばできるのだ。
スキップでもしそうなサヤの前に、リズが8の字型のリングを差し出してきた。
「はいこれ。報酬の五つ星パスよ。お金の方はこれまで通り、口座に振り込んでおいたわ」
「いっ、五つ星パスだ〜!」
星型の宝石が装飾されたリングには、通行許可証や優待権利など、便利な機能が内包されている。
「パスの恩恵を受けられる同伴者は二人までよ。サヤさんのように相方がいる場合は、パスを分割して渡せるようになってるの。ただし、それぞれのパスに同伴者が一名までだから注意してね」
パスに触れていると、かちりという音と共にリングが分裂した。
無限マークのようだったパスは、二つの指輪になっている。
「私も五つ星のパスは初めて見たわ。さすが我らのトップランカー様ね」
リズの言葉に、サヤはえへへと照れ笑いを浮かべている。
これでやっと、世界中を旅するという夢を叶えられるのだ。
片方の指輪をアルヴィスへ渡そうとしたサヤだが、勢いよく駆け込んできた女性の姿を見て、指輪をそっとしまっている。
「リズ大変!」
受付嬢の制服を着ている女性は、リズの同僚に当たるのだろう。
ただならぬ空気に、リズが椅子から立ち上がった。
「対応中の部屋には、入らない決まりのはずよ。いったい何事なの?」
「その……例の男が来てるの。今は他のお客さんと会ってるからって、共有スペースに案内したんだけど……」
厳しい声で話すリズだったが、同僚の事情を聞くなり、言葉を失っている。
「サヤさん、ごめんなさい。少し席を外します……!」
血相を変えて走っていくリズの背中を見送りながら、サヤはアルヴィスに小声で話しかけていた。
「私たちも行ってみませんか?」
「サヤのそういうとこ、けっこう好きかも」
無気力だったアルヴィスの目に、楽しげな光が宿った。