第七食 お腹空いたかも
「天井?」
「はい。側仕えが何処から来たのか分からなかったので、他に入口がないか探してたんです」
ロザリーはアルヴィスに遭うことなく、サヤの頭上から奇襲を仕掛けることができた。
つまり、別の経路からやってきたということだ。
「よいしょっと」
壊れたベッドを足場に、サヤは天井を調べている。
目ぼしい箇所を見つけると、サヤは天井の一部を押し上げ、外れたパネルを横へとずらした。
「行きましょう、アルヴィス!」
サヤの予想通り、天井の上には隠し通路があった。
軽々と登ったサヤは、アルヴィスに向けて手を差し伸べている。
「うん」
人を殺した直後だというのに、そんな気配を微塵も感じさせないサヤを、アルヴィスは興味深く思った。
躊躇なく引き上げる腕は、どこにそんな力が宿っているのか分からないほど細く滑らかだ。
サヤの白い肌を見て、アルヴィスは自分の中に、食欲とは違う何かが芽吹いていくのを感じていた。
◆ ◆ ◇ ◇
翌日、サヤはアルヴィスを連れて裏ギルドに来ていた。
「あらサヤさん。相変わらず忙しそうね」
「こんにちは。今日の受付は、リズさんだったんですね」
波打つ金髪と、はっきりした目鼻立ち。
裏ギルドの受付嬢であるリズは、美人でスタイルのいい女性として男性から人気が高かった。
「出勤日を交代したの。最近、常連の男がしつこくてね。私が出勤する日を覚えてて、毎回用もないのにやってくるのよ」
「うわぁ……大変ですね」
裏ギルドは秘匿性を保つため、個室かつ個別対応になっている。
仕事とはいえ、苦手な相手に絡まれるのは苦痛でしかないだろう。
同情するサヤに、リズは「愚痴を言ってごめんなさいね」と謝っている。
「サヤさんは、今回も報酬の受け取りということで良かったかしら?」
「それもあるんですけど、実は専属契約を結びたい相手が出来たんです。私の死体処理係として、彼の登録もお願いできますか?」
サヤの背後に目を向けたリズは、そこに立つ青年を見てぽかんと口を開けた。
「……白昼夢かしら」
「リズさん?」
アルヴィスの美貌に固まるリズの前で、サヤは「大丈夫ですか?」と手を振っている。
「え、ええ……。ごめんなさい。サヤさんとの専属契約だったわよね。職業の登録はもう済んでいるの?」
「いえ、まだです」
ちらりとアルヴィスを見たサヤは、リズに向き直ると首を横に振っている。
先に登録を済ませるため、リズは少し距離のあるアルヴィスへ声をかけた。
「名前と年齢を教えてもらえるかしら。あとは、他に既存の職業がないかも聞いておきたいわね」
「……」
「あら?」
リズの方を見てはいるものの、アルヴィスが質問に答える様子はない。
沈黙が流れたことで、サヤが申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめんなさい。お腹が空いてて、あまり気が乗らないみたいです。代わりに私が答えてもいいですか?」
基本的なことであれば、サヤがすでに知っていた。
サインさえ本人なら問題ない。
そう話すリズに、サヤはほっとした表情で質問に答えていく。
「名前はアルヴィスです。年齢は不明で、他に仕事はしていません」
「年齢が不明?」
「鬼なので、正確な年齢は分からないそうです」
「鬼!?」
思った以上に大きな声が出たことで、恥ずかしくなったらしい。
顔を赤らめたリズは、気を取り直すように咳払いをしている。