第五食 噛んじゃった
扉越しに声が聞こえる。
会話を交わす使用人たちの中には、ルイスの側仕えであるロザリーのものも混じっていた。
「──ます。新しい──の補充──」
「──に使──けの募集を──です」
どうやら、使用人の数が足りないため、新しく募集をかけるという話らしい。
遠ざかっていく足音に、サヤがほっと息をつく。
アルヴィスの口元から手を離そうとしたサヤは、指を噛まれたことで思わず声を上げた。
「ひゃっ!」
人差し指に、犬歯が当たっている。
鋭く尖った先端は、少しでも力を込めれば皮膚を突き破ってしまいそうだ。
「あ、あのー。アルヴィス?」
何度か甘噛みしたあと、アルヴィスはサヤの指を解放した。
指が無事なのを確認したサヤが、手を握ったり開いたりしている。
「もしかして、お腹が空いてますか?」
「……そうなのかも?」
「やっぱり。早く向かいましょう!」
思案顔のアルヴィスが、こくりと頷く。
速攻で依頼を終わらせ、アルヴィスに食事を与えなければ。
意気込んだサヤが、ドアの隙間から顔を覗かせた。
廊下に人影はない。
ルイスの部屋まで易々と辿り着いたサヤは、扉に耳を当て、中の様子を探ろうとしている。
妙に静かな室内に違和感を覚えるも、サヤはアルヴィスを連れ、正面から静かに足を踏み入れた。
サヤは仕事柄、気配を消して歩くのに慣れている。
アルヴィスには入口付近で見張りを頼み、サヤはルイスのいる奥側の部屋へと向かった。
寝室のベッドに腰掛けるルイスを見つけ、一瞬で背後を取る。
取り出した毒針を、サヤはルイスの首元めがけて打ち込もうとした。
頭上から降ってくる攻撃を、ひらりと躱す。
素早く距離を取ったサヤの背後では、ベッドの一部がごっそりと抉れていた。
拳一つで頑丈なベッドを破壊したロザリーは、サヤを爛々とした目で睨んでいる。
「ロザリーの祖先には鬼がいてな。わずかだが、鬼の血を引き継いでいるんだ」
「それでこんなに力が強いんですね」
得意げな顔で語るルイスに、サヤは落ち着いた様子で答えている。
ロザリーの身体はがっしりとしており、人間の女性にしては筋肉も多い。
「鬼は力の強い個体ほど、化け物のような姿をしている。ロザリーの血は薄いが、人間に近い方が護衛には役立つからな。おまえのような暗殺者から身を守るには、ちょうど良かったという訳だ」
鼻で笑うルイスは、すでに勝利を確信しているようだ。
護衛はロザリーだけのようで、他に人の気配は感じられない。
ロザリーが何処から入ってきたのかは不明だが、アルヴィスは無事だろうか。
この状況でよそ見をするサヤに、ルイスの機嫌が急降下していく。
不愉快そうにサヤを見たルイスは、ロザリーに「殺せ」と命令した。