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殺し屋少女と食人鬼  作者: 十三番目


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第四十食 嫌な予感がする


 猫のようにしなやかな動きで、サヤは軽々と山岳地帯を越えていく。

 大規模な転移魔法により消耗が激しいオラクルは、今にも死にそうな顔で後ろを登っていた。


「……おえ、吐きそう……。アルヴィスは疲れてないん……?」


「別に」


「うそぉ……」


 息を乱すことなく急斜面を上がっていくアルヴィスに、オラクルがか細い声を漏らす。

 最初から、そのままフォルレンシストへと転移させていれば──。


 後悔先に立たずとはこのことだ。

 本来であれば魔法で難なく越えられていた場所が、今は地獄のように思えてくる。


「アルヴィス、疲れてないですか?」


 距離が空いたことに気づいたサヤが、元来た道を下りてきた。


「大変なら、手を繋いで登りましょうか?」


 引きながら登れば、少しは楽になるはずだ。

 心配そうに提案するサヤだが、オラクルはともかく、アルヴィスに疲れた様子は微塵もない。


 そもそも、サヤが早すぎるだけで、アルヴィスたちは着実に前へと進んでいた。

 杖を支えにしていたオラクルが、どうせなら自分を助けてほしかったと口にしかけた時だった。


「……ちょっと疲れたかも」


「嘘やん!」


 アルヴィスの言葉に、オラクルが盛大な突っ込みを入れている。

 サヤと手を繋いだアルヴィスは、嬉しそうな空気を漂わせていた。


「……時の神よ、どうか時間を巻き戻してください……」

 

 仲睦まじく登っていくサヤとアルヴィスを見上げながら、オラクルは哀愁の滲む声で呟いていた。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 フォルレンシストは「エルフの国」と呼ばれているが、森の中は国というよりも、自然と調和した集落に近かった。

 長寿であるエルフは、同じく長寿である森と寄り添いながら生活している。


 オラクルの案内もあり、迷うことなく到着したサヤたちは、珍しいものを見る視線を浴びながら、エルフの(おさ)がいる場所へと向かっていた。


「遅かったじゃねえか、オラクル!」


「まあ……色々あってねぇ」


「なんか、すっげえ疲れた顔してんな」


 木から飛び降りてきた青年が、オラクルの背中をバシバシと叩いている。

 長い耳と整った容貌は、エルフという種族に与えられた特徴であり、美男美女ばかりが暮らすエルフの国は、どこを見ても眩しいほどに輝いていた。


 人間が訪れることはほとんどないが、一度でも訪れた者は、誰かしらの虜になってしまうとも言われている。

 ちらりと視線を向けたオラクルだったが、サヤに変わった様子は見られない。


 サヤの隣を歩くアルヴィスに視線を移したオラクルは、それもそうかと納得した表情を浮かべた。

 エルフさえも超える美貌が傍にいながら、目移りするはずがないのだ。


 長のいる場所に着いたオラクルは、サヤたちを屋敷の中へと案内している。

 神殿のように厳かで広々とした空間だが、木で造られた内装にサヤは懐かしさを覚えていた。


「この度ははるばるお越しいただき、感謝申し上げる」


 長のエルフは老人のような見た目ながら、自然と背筋が伸びるような気品を纏っていた。

 オラクルは壁側に控えると、サヤたちを長の向かいに座るよう促している。


「死の神が、私との会話を望んでいると聞きました」


「まさしく。祭司が知恵の神より神託を授かったため、急ぎリュミエに文を飛ばしたのだ。四日後には、水晶の儀が執り行われる。予定よりも遅かったが、間に合ったようで何よりだ」


 長の言葉に、オラクルが視線を泳がせている。


「水晶の儀?」


「年に数回、我らから知恵の神へと呼びかけるのだ。水晶の力が強まる満月の夜であれば、五大神との交信にも耐えられるようになる。死の神とも、話せるようになるはずだ。それまでは、我らの里でゆっくり休まれるといい」


「ありがとうございます」


 優しく微笑んだ長が、オラクルの方を見た。

 嫌な予感に硬直するオラクルに向かって、「お主が世話をするように」と伝えた長は、サヤたちを連れて行くよう目で指示をしている。


「あのぉ、長。べつに俺じゃなくても……」


「今回の件で、随分と勝手をしたようだな。そこから話した方が良いなら──」


「俺に任せてください!」


 勢いよく遮ったオラクルは、「行きましょう!」とサヤたちに声をかけている。

 屋敷を出たサヤたちは、入口で同じ年頃の見た目をしたエルフの少女と遭遇した。


「あれ? リリウム様」


「オラクル。戻ったのですね」


 リリウムは、エルフの長の一人娘だ。

 オラクルを労ったリリウムが、サヤたちへ挨拶をしようと顔を上げた。


 息を呑むような音が鳴る。

 アルヴィスを映したリリウムの目が、大きく見開かれていく。

 赤く染まる頬と、口元に当てられた手。


 オラクルの背中を、冷たい汗が流れた。


 アルヴィスを見つめたまま動かなくなるリリウムの姿は、恋に落ちた乙女そのものだった。


 

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