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殺し屋少女と食人鬼  作者: 十三番目


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第二十七食 末長く爆発してくれ


 楽しそうに話すサヤとエージスの姿を眺めながら、ライラはどうしたものかとため息をついていた。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですって。ディスタリアの人間は一途だって言うし、サヤの特別はアルヴィスさんだけですよ」


 サヤがゴルイドを発つ前に、二人で話をさせてほしい。

 たまたま地下ギルドを訪れていたライラは、エージスに頼まれたこともあり、アルヴィスと同じテーブルに腰掛けていた。


 不機嫌そうな様子のアルヴィスを、ライラはそれとなく宥めている。

 ライラの話に気になる箇所があったのか、アルヴィスがちらりと視線を移した。


「それ、どういう意味」


「どういうって……アルヴィスさんは、サヤと付き合ってるんですよね?」


 付き合うという言葉に首を傾げるアルヴィスを見て、ライラの表情がかたまった。


「え、うそ。恋人同士じゃなかったの……!?」


 サヤとアルヴィスの距離感は、ただのビジネスパートナーとは思えないほど近い。

 衝撃を受けるライラを、アルヴィスは心底不思議そうに見ていた。


「恋人に何の意味があるの? 呼び方を変えたところで、一緒にいる事実は変わらないでしょ」


 アルヴィスにとって重要なのは、サヤが傍にいることだ。

 そこにどんな名前が付こうと、大した違いはないと考えているのだろう。


 意図を察したライラが、何やら難しい顔で唸っている。

 長らくゴルイドにいたことで忘れかけていたが、人間とその他の種族では、常識が異なる部分も多い。


 アルヴィスは人間ではなく、鬼だ。

 人間に関する知識はあるようだが、理解はまだ浅いのかもしれない。


「いいですか、アルヴィスさん。人間という種族は、関係性を重視する傾向にあります。家族、友人、恋人など、呼び方を変えることで、他と区別しているんです」


 熱く語り出したライラに、アルヴィスもひとまず話を聞いてみることにしたようだ。

 やや前のめりになりながら、ライラははっきりした口調で続きを語っていく。


「特に恋人は、伴侶に変わることもあり、生涯を共にする大切なパートナーとして扱われます。つまり、その人間の唯一の相手として、特別扱いを受けられる存在のことを言うんです」


 唯一の相手。

 特別扱い。

 そんな言葉に、アルヴィスの心は揺れ動いていた。

 

「今のサヤとアルヴィスさんは、仕事のために契約したビジネスパートナーです。もしサヤのことが好きなら、サヤ自身のパートナーになりたいって伝えないと駄目ですよ。誰かに取られてからじゃ、遅いんですからね」


 ──サヤの隣に、自分以外の誰かがいる。

 想像しただけでどす黒い感情が湧き上がってきて、アルヴィスは思わず椅子から立ち上がっていた。


「分かった」


 それだけ言うと、アルヴィスは別のテーブルにいるサヤの方へと歩いていく。


「サヤ」


「アルヴィス? どうしまし──」


「俺のパートナーになって」


 エージスの口から、噴水のようにコーヒーが吹き出した。

 手にカップを持ったまま、エージスは口の端からだらだらとコーヒーを垂れ流している。


「その、パートナーっていうのは……仕事についてじゃなくてですか……?」


「わー! まってまって、いったん待ってー!」


 他のテーブルに身体をぶつけながら、ライラが慌てた様子で駆け寄ってきた。


「色々言いたいことはあるけど、なんで今!?」


「取られないうちにと思って」


「あれはたとえ話で、取られるってそんな……」


 ライラの視線が、エージスの方を向く。


「俺はなんもしてねぇからな!?」


 疑いを含んだ眼差しに、血相を変えたエージスが必死に否定している。

 長いため息をついたライラは、いったん話を整理しようと周りを見回した。


「まあとにかく、アルヴィスさんは、サヤのことが恋愛的に好きってことでいいんだよね?」


「……たぶん?」


「自覚ないのかよ!」


 反射的に叫んだエージスが、頭を抱えながらテーブルに突っ伏した。

 絶句するライラと、行動不能になったエージスに対し、サヤは落ち着いた様子で考え込んでいる。


 アルヴィスを見上げたサヤが、何かを言おうと口を開きかけた時だった。


「サヤさん、少しお時間よろしいでしょうか」


 金糸のような髪と、森を彷彿とさせる緑色の瞳。

 柔らかな雰囲気で声をかけてきたリュミエは、サヤに会うため食事処までやって来たようだった。

 

「私、ですか?」


「はい。どうしても、お伝えしておきたいことがあるのです」


 戸惑いつつも了承したサヤは、アルヴィスに向けて手を差し出している。

 

「行きましょう、アルヴィス」


 当然のようにアルヴィスを連れて行ったサヤの背を見送りながら、ライラがぽつりと呟いた。


「なんかあの二人、めちゃくちゃお似合いな気がしてきた」


「……だな」


 ライラがお酒を飲み始める。

 やけに甘く感じる口内を打ち消そうと、エージスはもう一杯コーヒーを頼んでいた。


 

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