第二十三食 何を見せられてんだ
テーブルいっぱいに運ばれてきた料理を食べながら、ライラはジョッキに注がれたビールを堪能している。
傍から見れば、幼女にも思える容姿の少女が、お酒を豪快に飲んでいるのだ。
時折ちらちらと視線が向けられるも、ライラに気にした様子はない。
「あたし、小人族とエルフの混血なんだよね。見た目はこんなだけど、けっこう歳いってるから心配しなくていいよ」
ライラの言葉に驚いたエージスが、隣を凝視している。
小人族もエルフも珍しい種族で、混血など滅多に会えるものではない。
エルフは歳を取るのが非常に遅いため、そこに小人族の体型や童顔が合わされば、見た目は幼女だが年齢は三桁超え──などということも起こり得てしまう。
法治国家には、アルコールの年齢制限が設けられている。
人間の統治する国において、ライラのような存在が誤解を受けやすいのは、ある意味仕方のないことだった。
「お酒って美味しいんですか?」
「美味しいというより、癖になる感じに近いかも。サヤはもう飲める年齢だったよね。試してみる?」
今までお酒を飲んだことのないサヤだったが、ライラの飲みっぷりに好奇心が湧いたようだ。
店員からジョッキを受け取ったライラが、そのままサヤに手渡してくる。
「……にがい」
ビールを口に含んだサヤが、形容し難い表情を浮かべた。
「あらま、駄目だったか」
「甘い酒ならいけんじゃねぇの?」
「ここ、甘いお酒ないんだよねー」
一口ですでに辛そうなサヤを見て、ライラとエージスが言葉を交わしている。
前世の影響で、サヤは食べ物を残すのが苦手だった。
無理に飲もうとするサヤを止めたアルヴィスは、サヤの手からジョッキを抜き取っていく。
「アルヴィスは、お酒が好きなんですか?」
「普通かな」
飲み干したジョッキを置いたアルヴィスに、ライラが感心した声を上げている。
「アルヴィスさんって、種族は鬼だったよね。全く鬼っぽくないからびっくりしてたんだけど、お酒も平気だったんだ」
「鬼だとお酒が駄目なんですか?」
「駄目っていうか、制限がかかるんだよ。鬼の強靭な肉体と精神力に、一時的な弱体化が起こる感じ。魔法で使われる“デバフ”と似たような効果、って言えば分かるかな」
鬼は心身ともに頑丈な種族だ。
しかし、お酒を飲むと精神が緩み、身体から力が抜けてしまう。
エルフが生肉を食べると毒の効果を受けるのと同じで、アルコールが鬼の身体に何らかの異常を引き起こすと言われていた。
「アルヴィス、身体は大丈夫なんですか……!?」
「何ともないよ」
心配そうに見つめるサヤの瞳を、アルヴィスが見つめ返している。
そんな二人を前に、死んだ魚のような目をしていたエージスは、ライラに腕をつつかれ隣を向いた。
「サヤとアルヴィスさんって、付き合ってるの?」
「あれで付き合ってねぇ方がおかしいだろ」
「確かに」
納得した顔で頷くライラだったが、反面、エージスは眉間に皺を寄せている。
「てか、何であいつはさん付けなんだよ」
「歳上に対して敬意を払うのが、エルフの習わしだからね。リュミエさんにもそうしてるよ」
ライラは混血ではあるものの、育ちはエルフの統治する森林地帯だった。
サヤとエージスの年齢はもちろん、アルヴィスの種族も事前に把握していたライラは、先ほど目にした能力の強さから、アルヴィスを歳上だと判断したのだ。
優秀な情報屋と名高いライラだが、さすがにサヤとアルヴィスの関係までは掴むことが出来なかったらしい。
「それで、居場所は分かったのかよ」
空気を変えようと咳払いをしたエージスは、本題についてライラに問いかけている。
「そうそう。その件についてなんだけど──」
全員の視線が、ライラの方へと向けられた。
「エージスの両親、今はゴルイドにいるみたいだよ」




