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殺し屋少女と食人鬼  作者: 十三番目


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第二十一食 必ず守ってね


 ギルドの周辺が賑わっていたのに対し、サヤたちが今いる場所は閑散としている。

 いくら殺し屋が仕事として認められているとはいえ、通常のギルドと同じという訳にはいかない。


 身分証には仮の職業が記載されているが、ギルドでのみ本来の職業が分かるようになっていた。

 受付嬢から位置を教えてもらい、海辺沿いを進む。


 岩が積み重なっている箇所を見つけ、隙間に手を差し込んだサヤは、レバーのようなものを引いた。

 歯車が回る音と共に、地下へ続く階段が現れる。


 階段を下ったサヤは、目に飛び込んできた光景に、思わず声を上げていた。


「わあ……!」


 そこには、真っ青な空間が広がっていた。

 施設内は透明な壁で囲まれており、海で泳ぐ魚たちの姿を直に見ることができる。


 前世で行ったことのある水族館のように、一面を囲む鮮やかな光景が、サヤの心を和ませてくれた。


「……ゴルイドの地下ギルドって、こんな感じなんだな」


「ディスタリアは、隠れ家みたいな感じでしたからね」


 驚くエージスに、サヤも違いを思い浮かべ頷いている。


 人通りは少ないものの、街中に位置するディスタリアの裏ギルドは、外観が周りに馴染むよう工夫されていた。

 表向きはただの雑貨店だが、隠し扉の向こうにギルドとしてのスペースが用意されているのだ。


 内装はギルド長の趣味で、サヤの前世でいう“西洋のアンティーク”のような装飾で纏められていた。

 ゴルイドの地下ギルドも、おそらくギルド長の趣味が反映されているのだろう。


「綺麗ですね、アルヴィス」


 海を見つめるサヤの瞳が、水面(みなも)のように輝いている。

 楽しそうなサヤを見て、アルヴィスが小さく笑んだ。


 景色を楽しむサヤとは反対に、アルヴィスの視線はサヤだけに注がれていた。




 ◆ ◇ ◇ ◇




「情報屋?」


「はい。エージスさんの両親の居場所を探るには、情報屋に聞くのが手っ取り早いので。受付の方にお願いして、ゴルイドの情報屋を紹介してもらったんです」


 ディスタリアにいた際、サヤは裏ギルド経由で情報屋を紹介してもらったことがあった。

 そのため、ゴルイドの地下ギルドでも、同じことが可能なのではと考えていたのだ。


「待ち合わせ場所は、ここに併設されている食事処です。到着は夜になるそうなので、私たちはその間にいくつか依頼をこなしてきます。エージスさんはどうしますか?」


「俺は、ここらで適当に時間でも潰しとく」


「分かりました。それなら、現地で集合にしましょう」


 いったんエージスと別れ、サヤはアルヴィスの食事を済ませるため依頼へと向かった。

 そして現在──夕日が差し込む海沿いで、サヤはぐっと身体を伸ばしている。


 アルヴィスと専属契約を結んでから、死体の処理どころか、痕跡の除去もほとんど必要なくなった。

 おまけに、アルヴィスは自分で身を守れるため、何処かに待機させておく必要もない。


「アルヴィスがパートナーになってくれて、本当に良かったです」


 嬉しそうなサヤが、アルヴィスにきらきらした眼差しを向けている。

 正面から視線を受け止めたアルヴィスが、唇の端をゆるりと持ち上げた。


「ふーん。なら、一生面倒見てね」


「ご飯担当なら任せてください!」


 分かっているのか、いないのか。

 意気込むサヤに、アルヴィスはただ笑みを浮かべている。


「もし破ったら──」


 アルヴィスの呟いた言葉が、サヤに届くことはなかった。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 裏ギルドのバーのように、地下ギルドでも特殊な職業の者たちに向けてスペースが提供されている。

 薄暗い室内は、魔術燈(まじゅつとう)の仄かな光によって照らされており、夜でも海の中を覗けるようになっていた。


 食事処に繋がる扉を開いたサヤは、随分と騒がしい室内に目をしばたたかせている。

 濃厚なアルコールのにおいと、(はや)し立てる人々の声。


 テーブルを囲うように集まった人々の中心には、エージスの姿があった。


「ギャハハハハ! 情けねぇやつらだなァ。もう終わりか?」


 対面に座る男たちを煽ったエージスに、野次馬が「いいぞ兄ちゃん!」と声を上げている。


「オラ、もっと酒をよこしやがれェ!」


「ちょっ、もう止めといたほうが……!」


 テーブルの横にはまだ十歳かそこらの少女が立っており、心配そうな顔でエージスを止めている。

 少女の静止を無視して、エージスが酒を一気に飲み干した。


 直後、ぷつりと糸が切れたように、エージスがテーブルへと突っ伏す。


「おい、大丈夫か兄ちゃん」


「大変……。誰か救護班を呼んできて!」


 周りが慌てる中、ふらふらと起き上がったエージスは、なぜか風の異能を指先に集めている。


「……まだまだ夜は、これからだろォがー!」


 放たれた風の弾丸が、天井に穴を空け、透明な壁へと向かっていく。

 その内の一つが中央にめり込み、嫌な音を立てた。


 弾丸を中心に入ったひびが、一瞬で蜘蛛の巣のように広がっている。


「に……逃げろおおお!」


 誰かが叫んだのを皮切りに、室内の人々が我先にと出口へ走り始めた。


 顔面を蒼白にした少女がエージスに何かを言うよりも早く、崩壊した壁から大量の海水が流れ込んできた。


 

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