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殺し屋少女と食人鬼  作者: 十三番目


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19/46

第十九食 誰が決めたんだろう


 死の神は、悪人の魂が好物だ。

 そして、エージスの目の前にいる少女は、そんな神に選ばれた使徒である。


 サヤなら、両親をこの世から()()()葬り去ってくれるかもしれない。

 殺し屋が殺し屋に依頼するというのも不思議な話だが、サヤはエージスより遥かに格上の存在だ。


 実際に対峙したことで、エージスは力量の差を嫌というほど思い知っていた。


「一つ、条件がある」


「何ですか?」


「依頼が終わるまで、俺も同行させてくれ」


 両親の終わりを、直接目に焼き付けたい。

 自らの手では殺せないからこそ、エージスはせめて、死の瞬間に立ち合わせて欲しいと口にした。


「場所によっては、けっこうな長旅になりますよ?」


「テメェらの邪魔はしねぇ。……だから、頼む」


 心の整理をつけるためにも、必要なことなのだろう。

 背後を振り返ったサヤは、確認するようにアルヴィスを見ている。


 不機嫌そうに眉を寄せていたアルヴィスだが、サヤの眼差しに、仕方がないと言わんばかりの態度で応えていた。


「ひとまず、居場所を探すところから始めないとですね。それと、私の名前はサヤです。後ろにいるのは、アルヴィス」


 テメェではなく、名前で呼ぶように。

 サヤの声からは、そんな圧が感じられる。


「それって本名か?」


「そうですよ。ギルドで説明を受けませんでしたか?」


「受けたような……気もする」


 普段の殺し屋は、本名のまま過ごしている者がほとんどだ。

 仮名が使われるのは仕事に関する時くらいであり、たとえ同業者が本名を知っていようと、口外することは法で禁じられていた。


 そもそもこの世界の人間は、殺されることを防ごうとはしても、殺された後にまで関心を持つことは少ない。

 リスクを減らすために殺し屋を狙うことはあっても、報復や仕返しのために襲ってくる可能性は低いということだ。


 殺し屋が仕事として成立している部分には、こういった理由もあるのだろう。


「朝になったら、ゴルイドのギルドへ行きます。もう少し身体を休めててください」


 エージスが気を失ってから、だいぶ時間が経っていたらしい。

 窓の外には暗闇が広がっており、しんとした空気が漂っている。


 アルヴィスと共に部屋を出ようとしたサヤを、エージスが呼び止めた。


「て……サヤさんは、同じディスタリアの殺し屋だって言ってたよな。コードネームは何なんだ?」


 法律等の説明は、右から左に聞き流していたエージスだったが、ランキングについてはそこそこ記憶していた。

 エージスがランカーを目指すことに決めたのも、上位になるほど報酬が増し、有力者との人脈を作りやすくなるからだ。


 どこか複雑そうな顔をしたサヤが、「あまり良い名前ではないんですけど……」と呟いた。

 コードネームは自分で決められないため、サヤにとっては微妙なものだったのだろう。


「アンデッド、です」


 そう口にしたサヤは、足早に部屋から去っていった。


「……アンデッド」


 聞き覚えがあるどころではない。


 殺し屋たちが憧れる最高峰。

 ランカーのさらに上を行く、唯一の頂点には──アンデッドという文字がくっきりと刻まれていた。


「は……はああああああ!?」


 エージスの絶叫は、宿中の客が目を覚ますほどに響き渡っていた。


 

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