表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺し屋少女と食人鬼  作者: 十三番目


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/46

第十八食 殺し屋ですから


「意識はしっかりしてますか? 試しに、名前とコードネームをどうぞ!」


「……名前は、エージス。コードネームは……ボマー」


 コードネームとは、殺し屋が本名の代わりに使う暗号名のことだ。

 苦々しげに答えるエージスだが、いまだに状況が理解できていない。


「たしか、一週間くらい前にランカー入りしてましたよね」


「なんで知ってんだ」


「掲示板に載ってたので」


 依頼の内容によっては、依頼主側から暗殺者の指定が入ることもある。

 ランキングはギルドの掲示板に載っているため、誰にでも閲覧できるようになっていた。


「……俺は首を切られたはずだよな」


「そうですね」


「なら、どうして今も生きてんだ」


 エージスは間違いなく、サヤに首を切られていた。

 普通なら、あの傷で生きていられる訳がない。

 ベッド脇の椅子に腰掛けたサヤは、訝しむエージスの目を真っ直ぐに見つめた。


「エージスさんのお姉さんから、頼まれたんです」


「……ふざけんなよ。姉ちゃんはとっくに死んでんだ。嘘も大概に──」


 荒げた声が、ぴたりと止まった。

 サヤが差し出したブローチを見て、エージスは驚愕した顔で固まっている。


 黄緑色の石が装飾されたブローチは、姉の誕生日にエージスがプレゼントした物だ。

 大した物ではなかったが、それ以降、姉は常にこのブローチを身に着けるようになった。


 石から仄かに漏れている光は、姉が治癒をする際に浮かべていた光と同じで──。

 震える手で受け取ったエージスに、サヤは事のあらましを語り出した。


「エージスさんが死んだら、アルヴィスに食べてもらおうかと思ってたんですが、急にこのブローチが落ちてきたんです」


 横たわるエージスの上に落ちてきたブローチは、首の傷をあっという間に治してしまった。


「ブローチを手に取ると、声が聞こえてきました。『輪廻の神の慈悲により、此度は見逃すように』と」


 輪廻の神は、五大神の中でも死の神との繋がりが深い。

 そんな神が決めたのなら、死の神も反対することはないだろう。


「なんで輪廻の神が……」


 エージスなんかのために、輪廻の神が慈悲を与えるとは思えない。

 予想外の話に不審がるエージスだったが、姉から頼まれたというサヤの言葉を思い出し、途中で口を噤んでいる。


 早世した者や、強制的に命を奪われた者は、輪廻の神の慈悲を得られる。

 エージスの姉は、死んだ後も弟のことが気がかりで、転生を拒んでいたようだ。


 しかし、弟の危機を知って、遂に神の慈悲を乞うことに決めたらしい。


『これまで辛い思いをしてきた分、残りの人生は幸せに生きてほしい』


 何もしてあげられなかった後悔と、大切な弟への切なる願い。

 柔らかな声には、海のように深い愛情が込められていた。


「それと、『また会えた時は、笑顔を見せてほしい』だそうです」


 仏頂面ばかりだったエージスだが、幼い頃は姉に抱きつき、満面の笑みを浮かべていた。


 この世界の人間は、輪廻の神の手によって生まれ変わり続ける。

 いつか再び出会えた時は、もう一度あの笑顔を見せてほしい。


 そうしたら、たとえ覚えていなくても──またあなたを大切に思うだろうから。


 姉がそう言っている気がして、エージスは俯き拳を握りしめた。

 最後まで、エージスのことばかりだった。


 幸せに生きる方法なんて、エージスには分からない。

 それでも、姉の心からの願いを、無下にできるはずもなかった。


「……けど、どうしても許せねぇんだ。両親(あいつら)は今も、何処かでのうのうと生きてやがる……!」


 エージスが殺し屋になったのは、両親の居場所を探すためでもあった。

 両親が生きている限り、エージスの心は癒えることなく、憎しみの炎は燃え続けていく。


 復讐が何も生まないなんて嘘だ。

 少なくとも、エージスが幸せへの一歩を踏み出すためには、両親をこの世から消さなければならない。


「それなら、依頼しますか?」


 顔を上げたエージスが、意図を問うようにサヤを見つめる。


「私に、エージスさんの両親を殺すよう依頼すればいいんですよ」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ