6 光の束
ダダダンッ!!
雷が落ちたかのような音が、空に浮かぶ火の海で鳴り響いた。
――――よう! ――うよう!
誰かが必死に叫んでいる……。
何があったんだ……?
ガンッ…ガンッ…ガンッ
頭が割れる……!
……ガンッ ガンッ ガンッ
――ろ! ――っきろ!
うるせえな誰だよ。頭に響く、叫ぶな!
「起きろ翔洋!!!」
誰が……
誰かがぶら下がっているのかと、疑いたくなる程に重たい眉を必死に開けようとする。
――――爛々と眩しく燃える炎、力強く握りしめる右手、そして青緑色の瞳をした少年。
「大丈夫か翔洋!?」
――うっ、体が……
「…………手、離せ」
「ん、何か言ったか? 後で聞くから今は踏ん張ってくれ」
「――俺を落とせ」
「は? 突然何言ってんだよ、、、そんな事できるわけねえだろ……!」
(くっ、手に力が……)
理人の手から翔洋の脱力した右手が少しずつ下へとずれ始める。
「元はと言えば俺のミスだ。それに――お前も同じ症状が出てんだろ?」
「そんなの理由にならねえよ……」
「このままじゃ俺もお前も落ちちまうんだぞ!」
理人は全身に力を入れ翔洋を持ち上げようとする。
しかし、うまく体が動かない。
もう手が痺れて持ちあげられねえんだろ? ……お前の事なら何でもわかるんだよ。
お前なら里の皆を助けられる事もな。
「お前が行けばこの里は助かるっ!」
――だから
バチッ!
翔洋の投げ出された左手が理人の右手を跳ねのける。
(翔洋っ!)
「いっけえええぇぇぇ!!!」
その声は、喧騒の中に溶けるように消えていった
くっ、、くぁ、くっ、、、
呼吸ができない…… 息が、、、苦しい、、
段々と意識が遠のく――
――――お前が行けばこの里は助かるっ!
……翔洋、お前がいなきゃ俺は。
すぅぅぅーー、、ふぅぅ、、。
落ち着け、ゆっくりとだ。ゆっくり呼吸を戻せ。
俺が、いや俺達が里を助けるんだ――。
喧騒塗れる戦いの中、一つの知らせが入る。
「里長ーー!!」
止血のため、少しの間戦線離脱している理鶯の元に伝令役の戦士が駆けつけた。
「時間は取れない。簡潔に申せ」
「はっ! 先程天蓋で少年が――」
急げ、急ぐんだ……!。
一刻も早く皆の元に。
バァン!
ここにも火が、もう進める道が……
ゴホッッ ゴホッ ゴホッ
もう呼吸もまともにできない。頭痛もひどい。肺も焼けるように苦しい。
正直立つことだってもう限界だ。
――でも俺が、言って伝えなくちゃいけないんだ。
前へ、前へ、走れ!
ダンダンダン!
慌てた様子で走る少女。
大人たちに囲まれる戦線のリーダーらしき女性を見つけ足を速めた。
「大変です!」
女性は少女の顔を見るなりただ事ではない雰囲気を察知した。
「どうしたの?」
「り、りりり…」
急いで走ってきたせいか、それとも内容のせいか2文字目が出てこない。
そんな様子を見かねて優しく少女に言葉をかける。
「こんな状況じゃ仕方がないけど落ち着いて、ゆっくりと話してごらん」
少女は、うん、と頷き深呼吸をして息を整える。
「すいません取り乱してしまいました。あの、驚かないで聞いてください」
「もうこんな状況だから何を聞いても大丈夫。教えて頂戴」
「はい、あの理人君が天蓋を渡ってこちらに……」
目も大きくする女性。
「煙中毒が重症化してて息するのも苦しそうだった。癒者もどうやってここまで来たのか不思議なくらいだって」
「……ありがとう教えに来てくれて。私があの子のお母さんだから急いで言いに来てくれたんでしょ?」
「うん、そうだけど、倒れてる理人君を見つけた時に、お母さんに向けて伝言を頼まれてたの」
「え?! 理人はなんて……!」
「うん、えっとね。敵は狩猟隊を先に倒すつもりでいるから、こっちの戦線の敵は少なくなってて、敵の意表をつくのは今しかないって。それに今動かなっかったら狩猟隊が数の差で負けて、最終的に里の者も敵の全勢力に攻め込まれるって」
「理人――。そのためにあんな火の中の天蓋を渡って……」
敵の攻撃が止まって、正面の敵が少しずつ少なくなっていた事は気づいてた。
おそらく狩猟隊の方に戦力を投入しているという事も。
でも敵の包囲で裏門から逃げることができない今、正面から襲ってくる敵から皆を守るという事は変わらなかった。それが原因で私たちを救おうと戦っている狩猟隊の皆を、危険にさらしても。
ここには大勢の子供たちがいる。絶対に守り抜かなきゃいけない。
でも守るだけでは狩猟隊の皆も貴方も、そしてここにいる大切な子供たちも守れないというのなら――!
「各防衛ラインについている指令役に伝言を頼みたい」
「はいっ!」
反撃に出る。