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5 焦りと不安

(そいうことか……親父のあれは)


木の上から降りると翔洋がこちらに向かってくるのが見えた。


「急に走り始めてどうしたんだよ。今戦況が悪化し始めてて、少しでも加勢しないとまずい状況なんだぞ」


怪訝そうな顔をして言う翔洋


「親父の……。いや、今はいい。上から見て今里全体がどうなってるのか分かった」


「あ?」


「今言ってた通り前線の状況は悪化し始めてる。でもこの戦況、覆せるかもしれない」


突然の物言いに動揺する翔洋


「……どうやって」


「この戦い、実は前と後ろ二つの箇所で行われてるんだ」


「はっ!?」


「こっち側の狩猟隊、そして奥で戦ってる里の皆。今敵側は、二つの戦線に挟み込まれている事になる」


「まだ里の皆が戦ってるのか……?」


「そうだ」


「お前それ早く言えよなっ!」


「そんなことはどうでもいい。急がないといけないんだ」


そんなことって、と小声で言う翔洋。でも状況が状況なので突っ込めない。


「奥の戦況もいい状況とは言えない様子だった。でも残った里の皆が完璧な陣形を組んで対抗していた。敵軍が里の奥に到達するまでの時間を使って最終防衛ラインを作ったんだと思う。そしてその間に加勢に入った狩猟隊の影響があって敵軍は完全に攻め込めないんだ。狩猟隊の押し込みで戦力が分散して時間を取られるから、多分さっきのタイミングで狩猟隊を先に潰す事にしたんだと思う。だから狩猟隊の戦況が悪化したタイミングで、奥の戦域が急に静かになった。里側は守る事に専念してるから、攻め込まない限り争いは起きない。つまり今の狩猟隊は敵全軍を相手にしてるのと同じなんだ。だから俺らがその裏を突く」


「里側から攻め込むってことか?」


「そういう事だ」


「でもその作戦じゃあ俺らがこの前線の奥にないといけないことになる。この戦域を潜るなんて不可能だろ」


「だからこっから作戦を話す」


 ――――おい、これが作戦か……?


服をちぎった布を顔に巻く二人。


「よし、行くぞ」


「行くぞじゃねーっ!」


突然声を荒げた翔洋に怪訝な顔をする理人。


「なんなんだよこれ?!」


「ん? 煙を吸わないための布だ」


「そんなの知ってるよ!! 俺が聞いてるのは作戦の方だ!」


「さっきも説明しただろ。里全体を覆っている木々を渡ってあっち側に行くんだよ」


「ああ、それは百歩譲って分かったよ。でもそれは、火がない所を渡っていく話だっただろ。上見ろよほとんど全部の木に火が燃え移ってるじゃないか」


「ああ、そうだな。だからこそ急ぐしかないんだ。火が全域に燃え移る前に」


お前正気か?

翔洋は心の中で思った。それはそうだ。ほとんどに火が燃え移りこれを渡るなんて誰が見ても正気の沙汰じゃない。


「確かにこの作戦は、無謀すぎて作戦とは言えないかもしれない。でもやらなきゃダメなんだ。誰かがこのことを伝えなきゃ……多分親父たちは――」


「…………わかった。わかったよ。行けばいいんだろ。行くんだったら早く行くぞ、急いで行くぞっ」


(悪い、迷惑をかける……)


「――じゃあ、行くか」


理鶯りおうがいる前線からかなり離れた木に登り始める二人。50メートルを超えるその木々たちはまるで里を守るように林立していた。


「あちっ! おいここ燃えてねえか」


不安なのか、かなり気が立っている様子の翔洋

それと対比するように、理人は平静を保っていた。


「気のせいだよ」


ある程度の高さまで登ると、数メートル置きに林立していた木々の枝が交差し始める。


(よし、まだ道があるな)


手が無事か確認している翔洋に向けて言う


「木走りは俺の方が得意だったよな」


不満そうな顔を浮かべて返す翔洋


「ほんのちょっとな」


「じゃあ俺が先導する。どうなっても恨みっこなしで行くぞっ」


「ぜってえ恨む。てかさっきから頭が――っておい! お前って奴は……話を聞け」


話している間に木々の上を走り出した理人。

翔洋はあきれ顔をし、理人の後ろを追いかけた。


二人は火の移る前の木や枝に飛び移り、陣を敷く里の者の元へ急いだ。


狩猟隊と王国の騎士の戦線上を通過した時にそれは起こった。


ガタッ


翔洋が飛び移った木の枝から足を踏み外したのだ。

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