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楽土  作者: 加藤無理
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土木隊

 私が現世で死亡してから六十年弱の時が過ぎていた。今回は仕事として、そちらに戻るのだ。


 私は吉郎よしろう分隊長の元で、現世にある病院や老人ホームから楽土に続く道を造設したり修理したりする。


 私達霊体は現世に存在する物質とは違うので、生体や無機物や有機物と衝突しないですり抜ける。必要とあれば重力と関係なく、空高く浮かぶし、地中深くまで潜る。霊視で物質や生体の後ろにいる霊体を感知することも出来る。


 私達がどんなに動いても大声を出しても生体や物質に干渉することはない。そうなるように訓練を教導隊で受けてきたし、多くの生体の霊感は鈍い。たまに霊感が鋭い生体もいるが、私達はそれを想定して更に霊圧を制御したり自分達に膜を張ったりしている。


 霊圧というのは霊体から出る圧力。霊力が大きいほど霊圧も高くなるが、調整出来る。霊圧が高いままだと霊力の低い霊体が萎縮したり弱まってしまう。霊感は霊視の他にも、霊体を感じる力である。気配を感じて鳥肌が立ったり、不調を感じたり快感不快感を覚えたりする。


 私達が歌ったり踊ったり演奏したりすると、新たな道や空間や壁や結界が出来たりする。これらは現世に干渉することは滅多にない。霊感の鋭い生体が稀に認識することがあるが、すぐに私達は認識されないように調整する。


 出来た物を丈夫にするために私達はそれらを補修する。道を舗装したり空間を照らしたり壁や結界を強化したりする。音楽で整備することもあれば現世での土木工事と似た様な作業もする。


 土木隊は生前の現世で土木建築業界にいた者達が多くいる。学生の時に死んだ私には馴染みがなかったが、吉郎分隊長が手際良く指示を出すので一所懸命にやった。


 戦争や災害が起きなければ死因は相対的に病死の割合が多くなる。病院や老人ホームから道を造って楽土に案内する方法は効率が良い。


 案内隊が病院内で天寿を全うしたばかりの死霊を落ち着かせて説明して私達の道を勧める。多くは反発せずに従う。稀に悪行を繰り返したり、恨みや不満を残して死亡した者が暴れるが、他の死霊に危害を加える前に戦闘隊の隊員が捕まえて楽土の刑務隊に連行する。


 昨今では温暖化で自然災害が増えたり、地震も活発化しているし、貧困も問題になっている。大事故や災害が起きれば急いで現場に駆けつけて死霊達を導く道を造らなければならない。案内隊も戦闘隊も同行する。楽土にいる観測隊が事前に災害や事故を予測して指示を出す時もある。


 病院や老人ホームでは遺族達は死期をある程度は想定しているが、事故や災害や事件は違う。亡くなった本人も納得いかずに呆然としている。荒ぶる者もいる。案内隊は彼ら彼女達をなだめて楽土へ案内する。


 苦痛で断末魔を上げる者や嘆き悲しみ泣く者や、損壊している遺体や霊体を見ると正直、滅入ってしまうが仕事を休むわけにはいかない。遺体だけでなく霊体も大怪我している場合には医療隊も現場に駆け付ける。


 私は少しずつだが他人の死ぬ瞬間に慣れていった。


 災害に便乗して強盗や詐欺、酷い時には殺人を犯す卑劣漢も時々いるが、私達は現世に干渉してはいけなかった。高齢者の認知能力低下につけ込む犯罪者も絶えないがそれでも何も出来なかった。私達は現世の警察の能力向上を願うか、犯罪者達をこっそりと呪うことしか出来なかった。霊体が生体を殺傷してはならないと厳しく定められている。


 私達は迷い苦しむ死霊を楽土に送るのが仕事だ。

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