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楽土  作者: 加藤無理
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出所

 私は出所した。薄暗い刑務所から虹色の空が見える常春の外に出られた。


 ここは楽土。いわゆるこの世とあの世、彼岸と此岸の間にある広大な空間だ。


「本当に刑期が無事に終わって良かった」

 みどりに労われると私は、

「今まで本当にありがとうございました」

 と、礼を言って頭を下げた。翠は死んだ私をこちらまで連れて行った後、半世紀近くかけて更生してくれた恩人だ。


 私と翠は手を振って別れた。翠は笑っている。私も笑顔だったと思う。


 私は教官に案内されて教導隊の宿舎に向かった。


 こちらは現世とは違う物理法則で成り立っている。願う力が強ければ強いほど目的地に速く到達できる。基本は徒歩であるが、不便ではない。私は教官の後ろに黙って付いて行く。教官は少し急いでいるようだった。周りの景色を楽しむ余裕はなかった。


 あっという間に到着。人2人分ほどの高さがある灰色の壁の両側が地平線まで続いている。教導隊の基地だけでも十分に広い。


 教官は衛兵二人に敬礼すると衛兵は門を開けた。私も衛兵に会釈すると教官に続いた。


 敷地内は広かったが、私達はあっという間に赤レンガの棟に到着した。中に入ると女性達三人が出てきて私に着替や武器や楽器を渡して持たせた。教官は敬礼すると外へ出て行った。棟の中は女性三人が案内する。私は荷物を持ちながら、奥の個室に連れて行かれた。


 個室は一人暮らしができるほどの広さだった。入り口の反対側には大きな窓があり、向かって右側には畳まれた布団、左側には机と椅子があった。


 三人のうち、小柄な女性が、

「ここがあなたの部屋。荷物を下ろして」私は言われた通りに窓の前に荷物を置いた。


 三人は自己紹介の後に説明をした。


 小柄な女性は渦葉うずは。彼女は教導隊に入ったばかりの初年兵を指導する分隊長だ。中柄な女性は依子よりこ。まだ教導隊の訓練兵だけれども、来年か再来年に卒業する。太めの女性は真波まなみ。去年に入隊したばかりの新兵。私は三人と同じ分隊に所属する。本来は同じ分隊で同じ部屋を共有するのが普通らしいが、私は刑期を終えたばかりなので他の隊員に悪影響を与えない為に個室になった。三人は隣の部屋を使う。


「⋯⋯貴方はどこまでここについて知らされているの?」

 分隊長の渦葉に尋ねられて私は、

「現世で迷っている死霊をこちらまで案内して成仏の手伝いをする仕事ですよね。こちらはその為の訓練施設ですね」

 依子は気まずそうに、

「貴方を否定的に捉える者が沢山いると思うけれど、耐えられる?」

 心配するので私は、

「お気遣いありがとうございます。頑張りますよ」

 真波は微笑んで、

「貴方の説明を聴いて本当は怖かったけれど、少し安心した」


 三人は教官達から私の経歴について詳しく聴いているのだろう。そうでなくても私と直に接すれば私が何も言わなくても霊視である程度は分かる。


 こちらは彼岸と此岸の間の世界。現世で死亡した人達が一度はこちらに来る通過地点。時代によって様々だが、現在は楽土と呼ばれている。




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