奥の手
天木の表情を見て、一倉と二宮は近づくのを止め代わりに銃口を向ける。御園生も「篝猫」と呟き、怪獣化した。
はたから見れば完全に詰みの状況。にもかかわらず天木は上げた手を下し、愉快そうに拍手を始めた。
「正解正解大正解だ。凄いね君たち。僕のうっかりで犯行に失敗してばれる可能性は考えてたけど、まさかうまくいった上でばれるとは思わなかったよ」
「お褒めの言葉どうも。んで、大人しく捕まって――」
「でも一点だけ足りてないところがあってね。戦艦亀をより強くさせるために、怪獣人間を食べさせる。これはその通り。でも、そもそも怪獣人間はおまけなんだ」
「おまけ?」
嫌な予感を覚え、宗吾は少しばかり刹亜に近寄る。
天木は研究成果を褒めてもらいたいとばかりに、高らかと言った。
「もともと僕はさ、怪獣が怪獣化する方法を探してたんだよ。怪獣の血と血は反発する。それが基本原則。でもどこかに反発しない血があるんじゃないか。僕はずっとそれを探し続けていた。そして――見つけたんだよ!」
天木はそう叫ぶと、急激に体を変貌させ始める。それと同時に「撃て!」という一倉の号令が飛び、銃弾と火の玉が一斉に天木に襲い掛かった。しかしそれらが着弾するよりも早く、まるで沼に沈み込むかのようにして天木の体が床の中に潜ってしまう。
各隊員が全方位に警戒を向ける中、部屋中を響き渡るように天木の声が聞こえてくる。
「人の体に怪獣の血を混ぜる。それだけで脆弱な人間がそこらの怪獣よりも遥かに強い力を得ることができた! じゃあこの強化――いや進化を、ただでさえ上位の大怪獣が手にしたらどうなるか! それはもう、世界最強の怪獣の爆誕だ!」
突如として部屋内に激しい突風が吹き荒れる。激しい風音が耳を塞ぐ中、時折誰かの悲鳴が混じって聞こえる。
ようやく風がやみ、刹亜と宗吾が目を開けた時、周りには倒れてピクリとも動かない隊員と、一体の怪獣だけになっていた。
「こ、金剛鶴……」
つい数秒前までは天木だった者。今その姿は、金剛鶴と呼ばれる怪獣に変化していた。
見た目は三メートル近い体躯の鶴。ただその体は全身ダイヤモンドでできており、くちばしは本来の鶴より長く鋭くなっている。
ダイヤモンド性の体はありとあらゆる攻撃で傷がつかないだけでなく俊敏性も高く、当然のように空も飛ぶ。金剛鶴の羽ばたきは暴風を起こし、くちばしでの一撃は戦車すら貫通すると言われる。
予想もしていなかった天木の怪獣化に呆気にとられる刹亜と宗吾。そんな彼らを見て、天木は愉快そうに嗤い出した。
「いやあ、本当に君たちの慧眼には感服したよ。でも、僕の本当の目的に気づけなかったのは致命的だったね」
刹亜が頬を引くつかせながら言い返す。
「……そんな力あんなら、こんなまどろっこしいことしてないでさっさと全滅させればよかっただろ」
「僕は慎重な人間だからね。篝猫の特殊な炎や、牙狼の牙はこの体にも傷をつけられるポテンシャルがある。だから確実に殺していこうと思ってね。それに一撃で仕留められなかった場合、負けなくても母体が傷つけられる可能性があるじゃない。だからいざって言う時まで隠しておいたんだ」
「成る程な。てか、金剛鶴って血なんてあんのか? 何もかもダイヤモンドでできてんのかと思ってたわ」
「これが意外とあるんだよ。まあ赤い血じゃなくて透明な血なんだけど。というか多くの一見血を持たないように見える怪獣にも血と呼べるようなものがあって――」
「講義してくれるのは有難いですが、できればあの世でお願いしてもいいですか」
倒れた隊員を心配そうに見まわしながら宗吾が言う。
不思議なことに、その声色に恐れや不安の色はない。
この期に及んでなお冷静な宗吾の姿に天木は首を傾げるも、すぐに邪悪な笑みを浮かべた。




