その一 ある年の五月の連休
デパートのよくある高級そうなお菓子コーナーを回っていた。祝日なので人でごった返している。
「本当はもっとあんみつを味わっていたかったんだけどなぁ」
さっき急かされて味わえなかったことを愚痴にする。
自分の独り言は雑踏にかき消された。祖母は和菓子コーナーで栗羊羹か水羊羹か迷っていた。どっちにしろ羊羹推しらしい。もう5月で、少しずつ暑くなってきたので水ようかんはいいかもなと思った。
「水ようかんがいいんじゃない?涼しい感じするし」
祖母「季節感が重要だからね」
水ようかんセット2個、それと自分の家用に葛切りを購入した。デパートを出ると、時間はまだ昼下がり。日差しは強く、カラッとした空気を吸う。ジメっとした夏よりは、こういう気候のほうが好きだ。
地下鉄の駅に降りる。ICカードに千円をチャージし、改札を通る。
この時間はまだそこまで混雑していなかった。人々が帰る時間はもう少し後だろう。ほっとして端の座席に座る。窓が少し空いていて、そこから入る風が妙に心地いい。気づけば船を漕いでいた。
祖母に揺り起こされる。まもなく北千住とのことだ。電車を降り、階段を上る。
祖母「今度は夏休みかね。元気で過ごしてちょうだい」
「そっちも気を付けて過ごして。それじゃあ」
祖母の家と自分の家は別なので、それぞれの路線に乗り換えるためここで解散。別に休みの日ならいつでも会えるけど、忙しいことを案じて夏休みというワードが出たのだろうか。部活は帰宅部、成績は中の下である自分はそこまで忙しくない。ただ、今の距離感が最も適切なのだろうと思った。
家に着き、ソファに腰掛ける。
水ようかんと葛切りは冷蔵庫に。TVをつけるとまだあの事件のことを報道していた。久々に見た彼らの画像。忌まわしき記憶が呼び起こされ少し気持ち悪くなるが、ニュースは次の話題に移っていた。
少し冷えた葛切りをすする。自分の属性は”火”らしく、冷たいものや涼しいものを取り込むと気分がよくなる。
カレンダーを見る。特に予定のない自分。まだ終わらぬ連休をどう堪能しようか。残り2日はそんなことを考えて物思いにふけるのもいいかもしれない。
徒然なるままに、ただ時間の流れに身を任せて。