ママにナイショの冒険談
「おやすみなさい」
ママがドアの横の電気のスイッチをパチリと押し、静かにドアが閉められる。
部屋が暗闇と静寂に包まれた。
ぼくは毛布を自分の鼻まで引き上げ、必死に寝たふりをする。
ママは知らない。
ぼくのこのベッドは異世界への入り口なのだ。
夜な夜なぼくは異世界で冒険を繰り広げる。
今日はどんな冒険がぼくを待っているのか。
ワクワクしながら、そっと毛布から顔を出しママの気配を探る。
物音はしない。
ぼくは毛布を引き上げ、頭のてっぺんまでスッポリと毛布にくるまり、目を閉じるとヒミツの呪文を唱えた。
「ゆめのかみさま ゆめのかみさま ぼくをゆめのせかいへつれていって すぺーむ ぺるふぃきおー」
あっと言う間に体がふわふわと浮かぶ感覚におそわれ、目の前が真っ暗になり目を閉じた。
ざぁーと言う音が聞こえてきたと思ったら、頬に風を感じ潮の匂いに包まれ、ぼくはそっと目を開けた。
ぼくは巨大な帆船の上にいた。
真っ白な帆が風に大きく膨らんだ上の見張り台の上で、ぼくは望遠鏡を片手に辺りを見回す。
目指すはドラゴンがいる宝島。
「島が見えたぞぉ!」
さっそく島に船を付け上陸だ。
ジャングルを抜け、谷を渡り、そびえ立つ崖をよじ登り、ドラゴンが住む洞窟へと足を踏み入れる。
『お前も我の宝を狙ってきたのか。それとも我の命が狙いか』
大きな空洞の洞窟に低くおどろおどろしい声が響き渡り、目の前に恐ろしい顔をしたドラゴンが今にもぼくに飛び掛からんとぼくを睨み付けた。
ぼくは両手を大きく広げ、ドラゴンに語りかける。
「ぼくはキミの命も宝も奪う気はないよ。ぼくはキミと友達になりに来たんだ」
『友達だと?なぜお前は我と友達になりたいのだ?』
「ぼくはキミと一緒に旅をして色んな冒険をしたいんだ。さぁ、ぼくと一緒に行こう!」
ドラゴンに手を差し出すぼくを見て、ドラゴンが面白そうに笑い声を立てた。
『わはははは 面白いことを言う。我も長い間生きて来たが、そんなことを言われたのは始めてだ。いいだろう、我はお前と友達になろう。....そうだ、これを受け取るがよい。我と友達になった証である。』
ドラゴンはぼくに真っ赤な宝石を差し出した。
ぼくはその宝石を受け取り握りしめた。
さぁ、これからどんな冒険がぼくとドラゴンを待っているのか。
ワクワクとドラゴンを見ると、ドラゴンは身をかがめ、ぼくに背を差し出した。
『さぁ、乗るが良い。冒険に出発だ!』
ぼくがドラゴンの背によじ登ると、ドラゴンはその羽を強く羽ばたき、空へ高く舞い上がる。
その勢いに思わず目を閉じた。
目を開くと、ぼくはベッドの上だった。
カーテンの隙間から差し込む日の光が眩しい。
朝だ。
ぼくは起き上がると両手を上に上げ、大きく伸びをした。
ふと握りしめていた拳を開くと、そこにはドラゴンにもらった真っ赤な宝石が朝日に反射してキラキラと眩い光を発していた。