蝉の声が止まない
蝉の声が聞こえてくる
あのずっと聞こえていたのに突然今気が付いたような夏の感覚
気にすると煩いと感じるあの感覚
しかし、分かっている。
今は夏ではないし、昼でも無い
これは幻聴なんだ
蝉の声ではない
そんな風に聞こえる耳鳴りなんだ
遠くから子供の声がする
校庭で騒ぐ子供たちの声のような
笑い声が混じって何人もいる
これもそうだ
分かっている。
子供はいない
声はしない
今は夜で、部屋は無音だ
全ては幻覚だ
分かっている。
俺は正常
分かっているから。
分かっているって、、何を?
何を分かっている?
幻覚だと分かっている?幻覚って何なんだ?
確かに今感じているこの幻覚を、幻覚だと認識している事が正しい現実なのか?
幻覚なのに?
幻覚であるならば正しくない。
この現実は正しくない
正しい現実に帰らなければいけない
今は夜で部屋は無音だ。
正しく認識できる本当の現実に帰らないといけない
しかし、蝉の声は止まない。
それならば、蝉の声がするこれが正しい現実なのか?
正しい現実とは幻覚を肯定する事なのか?
幻覚は嘘じゃない。幻覚である事は分かっている。
これは俺を混乱させている。
それも分かっている。
でも、どうすれば正しいはずの現実に戻れるのかが分からない。
カーテンの外は夜で暗い
遠くに街灯が見える。
ぼんやりとした灯りがやけに大きくて、まるで目の前で光っているかのように感じる。
大丈夫、街灯は遠くにある。
近くに感じているだけだ。あれは遠い。それは分かっている。俺はちゃんとしている。
今は夜で部屋は無音だ。
「今は夜で部屋は無音だ」
「いや、蝉の鳴く夏の昼だ」
誰かが俺の声に答える。
これも幻覚か?
いや、俺が答えたのか?どっちかに違いない。
俺は正常だ。ここには誰もいない。
声がしたなら俺の声だ。
いや、音はしていないかもしれない。そう感じただけなのかも。
俺は正常だが、少し狂っている事が分かる。
変な声がするし、幻覚が続いている。
それでも、これが幻覚だと分かっている内は大丈夫だ。
水でも飲んで落ち着く事にしよう
そう思って俺はキッチンで水を出す。
水を両手ですくうと顔を洗ってから口に含んだ。
砂のような味がする。
いや、これも気のせいに違いない。
俺は砂を食べた事なんてないしな。
何だか、口の中がじゃりじゃりとする。
いや、そんなはずはない。水を飲んだんだ。幻覚だ。
これは砂ではない。
鏡に俺が映る。
これが俺だと分かっている
知っている。そんな気がする
こんな顔だったんだな。あまり見る事も無いので言われてみればと言った感じだ。
これは誰だったろうな?それはそこまで大切な事じゃない
今は、、何が大切なんだっけか
俺は何をしようとしていたんだっけ
なんだか、大切な事を考えていたような気がするが、、
蝉の声がする
そして、遠くから子供の声が聞こえる
蝉の声じゃない、、何かが、流れる音、、水?
目の前を見ると水が流れている
出しっぱなしにしていたのか?何故だ?
水が流れるのを止める。
音が、、、、止まった。
そうか、蝉の声なんて無かった。
この音を聞いていたのか
水を出しっぱなしにしていたのが幻覚の原因?
「今は夜で部屋は無音だ」
俺の独り言は確かに闇に響いた
今度は誰も何も言ってこない
幻覚は消えた
さっき誰かに見られた気がする
こんなところを見られたら狂ったやつだと思われちまう
俺は正常だ
狂っていると思われるかもしれない
こんな事を狂ってるやつは考えない
「今は夜で部屋は無音だ」
「さっきからずっと何を言っているの?」
今度は独り言じゃなかった
誰かの声がする。
やっぱり幻覚は続いている
「どうして俺の事を見張っているんだ」
「一体何を言っているの?」
何かが俺の事を見ている
暗い部屋の中一人でいるのは確かなのに、、
壁?壁の向こうに誰かいるのか?
俺は部屋の壁を隅々まで調べる
穴は無いか、隠れるスペースは無いのか
誰かが俺を監視する事が可能なのかどうか
部屋中を調べていく
真っ暗で良く見えないが何もない
杞憂か
それならさっきの声は幻覚なのか、幻聴か、
どうかしているのかもしれない
目の前のキッチンで手を洗う
顔を洗ってしゃっきりとしよう
水をすくって顔を洗う
蝉の声が聞こえる
それは水の音だ
水を止めれば音も消える
鏡の俺と目が合う
誰だあれは、あれはきっと俺だ
シンクに水の注がれたグラスがある
これは俺が置いたのか?水を飲もうと思って?
喉は乾いていない
何故水を注いだのだろう
カーテンの奥が明るい
窓に近づいてカーテンをそっとよけてみる
遠くに街灯が見える
やけに明るい
すぐ目の前で光っているように感じる
蝉の声が聞こえる
子供の声も遠くから聞こえる
さっきから幻聴が聞こえている
それは分かっている
これは幻覚なんだ
今は夜で部屋は無音だ
それでも蝉の声が聞こえる
そうだ水を止めるんだ
蝉の声は水の音だから
水を止めれば蝉の声は止まるんだ
キッチンに向かい水を止める
いや、水は出ていない
水は出ていない?蝉の声は何故聞こえる?
いや、蝉の声はしない
部屋は無音だ
これは幻覚か?
どれが幻覚なんだ?
鏡の中の男がこっちを向いている
何か言っている?
「、、もう、、、寝た方が良い」
分かっている事だ
そんな事は
夜なんだ、いつまでも起きていても良い事は無い
そうだ、寝た方が良い
でもどうやって寝るんだ?
寝る方法が分からない
眠れないんじゃない、眠る方法が分からないんだ
しかし、何か大切な事を忘れている
そんな気がする
それが何だったのかは分からない
カーテンを背後に奥にキッチン、手前に部屋今ここにいる
キッチンとの間に扉は無く、奥はバスルームに続く
寝室?そんなものはない
何故だ
バスルーム、キッチン、今いる部屋
他には何もない
バスルームへのドアの奥は玄関か?
ここはワンルームの小さな部屋
寝具は見当たらない
部屋には何もない
小さなクローゼットがあるだけ
クローゼットには白いシャツがかかっている
これは俺の物か?
来てみるとサイズは合っている
部屋の隅に小さなソファーがある
そこにはデニムパンツがかけられている
履いてみるとサイズは合っているようだ
玄関には靴が脱ぎ捨てられている
これも俺のものなのか?
足を突っ込むとサイズは合っているように感じる
玄関の姿見に自分自身が映る。
見覚えがあるような気がするが、、、
何だか分からない
俺は本当にくるってしまったのだろうか
玄関の扉に手をかける
この先はどうなってる?思い出せない
扉を押してみるとドアが開く
真っ暗な通路が左右に続き、外の空気を感じる
電灯一つない集合住宅の廊下と言った感じだ
扉を閉めて部屋に戻った。
ここはどこだっただろうか?
俺の家なのか?
部屋に生活感は感じられない
いや、何か思い出せそうだ
ここは、、ここには来たことがある
今は、、何時なんだろう
時間の分かるものは何もない
暗いと言うこと以外分からない
夜中の2時頃だろうか
改めて部屋を見回す
少し冷静さを取り戻してきた気がする
蝉の声はしない
子供の声も聞こえない
部屋の電気を探す
スイッチをつけるとオレンジ色の小さなパイロットランプが部屋でついた
トイレのドアを開けてそこの電気を探してみる
スイッチを見つけたが、同じく小さなパイロットランプがつくだけだった
生活感の無い部屋だな
ここに暮らしていたのか?いや、暮らせるのかこれで、、
キッチンの脇に冷蔵庫がある
扉を開けてみた
冷蔵庫の薄暗い灯りが部屋にこぼれる
中にはペットボトルの飲料が2本入っていた
それから水槽?
水槽が入っている
なんだこれは
水槽には水が張ってある
中に何かいる
黒い何かが動いている
これは、、亀か?
水槽には亀が泳いでいた
何故冷蔵庫に?
水槽を冷蔵庫から出すとキッチンに置いた
意味が分からないな
その時亀が喋った
何をと言うのは分からない
何かを喋った
そんなはずはない
これも幻覚か、、
暗い部屋だが、パイロットランプのオレンジに照らされてさっきよりは部屋の様子がわかる
小さなソファーが隅に置かれただけの部屋
窓にはカーテン、あとクローゼットの他何もない
何だか頭がぼんやりとする
何もない部屋で何も思い出せない
記憶喪失?いや、そういう事じゃない
これも幻覚なのか?
パンツのポケットに何か入っている
後ろのポケットをまさぐると錠剤の入ったシートが出てきた
何だこれ
8錠入りで2つ空いている
何の薬だ?
これは俺のものなのか?
この幻覚はこれのせいか?
他に所持品が無いか探してみたが、他には何もなかった
キッチンにあった水の入ったグラスは俺が準備したものなのかもしれない
それはこれを飲むために
2つ空いている事から飲んだのだろう
その結果俺は幻覚を見ているのか?
これは何か、ドラッグみたいなものなのか?
俺は錠剤をシートから取り出してみた
円筒状の白い小さな薬は特に危ないものには見えない
風邪薬のようには見えないが、こういう形状の錠剤があっても不思議さはない
俺はグラスの水が飲もうとしていたのか、飲んだ後なのか分からなかったが、錠剤を口にしてみた
グラスの水で一息に飲み込む
もしかしたらこれで幻覚に変化が起こるかもしれない。
全く何もヒントの無い今、物は試しと言うものだろう
飲んだ感想は何もない
苦くも無ければ、不快感も変化も感じない
まぁ、そんなものなのかもしれない
俺はわずかに開いていたカーテンを閉じると窓のカギを確認した
あの亀はなんなのだろう、キッチンの亀を再び見てみる
俗にいうミドリガメって奴だろうか、、
俺が飼っていたのか?しかし、冷蔵庫に入れていたのはなんでだ?
気が付くと俺は鏡を見つめていた
俺らしき人が俺を見ている。
いつからこうしていた?
鏡の中の俺は驚いたような表情でこちらを見ている。
何だか暑い。
苦しいな、、
俺はシャツを脱ぎ捨てパンツも脱ぎ捨てた
バスルームに戻り顔を洗う
手で顔をぬぐうと鏡を見つめた。
これは、、オレカ
「違う」
誰だ?
今の声は俺ではない
「違う、それはお前ではない」
声はキッチンから聞こえる
まさか、この亀か?
亀が喋っている。
「お前喋れるのか?」
「喋れるさ当たり前だろ」
水の中にいるのにどうして聞こえるんだ?
亀ってのはこんな流暢にしゃべるものなのか?
「お前は一体何なんだ?」
「お前が一体何なんだ?」
「俺は、、分からない」
「教えてやろうか?お前が亀なんだよ、ギャハハハ」
亀は急に笑い始めた
俺はいよいよ狂ってしまったらしい
落ち着こう
この声は幻覚だ
幻覚なんだ
俺は亀の水槽を冷蔵庫にいれた
そしてグラスに水を注ぐ
落ち着こう
蝉の声が聞こえてくる
ずっと聞こえていたのか?
それにまるで今気が付いたかのような
子供の声が遠くから聞こえる
窓の外だろうか、カーテンの間から外を覗く
勿論子供の姿は無い
部屋に落ちているシャツを拾い上げハンガーにかけた
クローゼットに収めるとパンツも同様にした
オレンジ色のパイロットランプが眩しい
電気を消す、トイレからも灯りが漏れる
部屋中を暗くする
蝉の声がまだ聞こえる
鏡に映る男がこちらを見ている
額にしわを寄せた老人のような男が映っている
あれは誰だ?
子供達の声にエコーがかかる
水だ
水が出ているんだ
水を止めた
それでも蝉の声が止まらない
カーテンでふさがれた窓から光が漏れている
落ち着け
今は夜で、部屋は無音だ
大丈夫だ
分かっている
これは幻覚だ
幻覚なんだ
いや、さっきの亀
あれが本当に俺だったら?
鏡に映る知らない男
俺はあっちか?あっちなのか?
だから、何も分からないのか?
何故いるのかも、何者なのかも、本当に俺が亀だから?
あの亀に聞けば分かるのか?
俺は冷蔵庫を開けて亀に聞く
俺は本当に亀なのか?
黒い塊は何も答えない
「クソッ」
違う落ち着け
これは幻覚なんだ
だから、正常になれば大丈夫なんだ
一時的な記憶障害に過ぎないんだ
大丈夫なんだ、問題無いんだ
カーテンの外が明るい
眩しくて見る事が出来ない
そんな馬鹿な
今は夜で、部屋は無音だ
窓の外から音が聞こえてくる
雑多な音楽が、飛行機のジェット音のような轟音が
金切声のような声も聞こえてくる
遠くでは子供たちが騒いでいる
煩い
凄く煩い
蝉の声も聞こえてきた
いや、ずっとなっていたのかもしれない
一体何故?
いつから聞こえていたんだ?
今は夜で、部屋は無音だ
全ては幻覚だ
分かっている。
俺は正常
分かっているから。
分かっているって、、何を?
何を分かっている?
幻覚だと分かっている?幻覚って何なんだ?
確かに今感じているこの幻覚を、幻覚だと認識している事が正しい現実なのか?
幻覚なのに?
幻覚であるならば正しくない。
この現実は正しくない
正しい現実に帰らなければいけない
今は夜で部屋は無音だ
正しく認識できる本当の現実に帰らないといけない
しかし、蝉の声は止まない。
誰かこの音を止めてくれ、、、、、
カーテンの外は夜で暗い
遠くに街灯が見える。
ぼんやりとした灯りがやけに大きくてまるで目の前で光っているかのように感じる。
蝉の声が聞こえてくる
あのずっと聞こえていたのに突然今気が付いたような夏の感覚
気にすると煩いと感じるあの感覚
しかし、分かっている
これは幻聴なんだ
蝉の声ではない
遠くから子供の声がする
校庭で騒ぐ子供たちの声のような
笑い声が混じって何人もいる
これもそうだ
分かっている。
子供はいない
声はしない
今は夜で、部屋は無音だ
全ては幻覚だ
分かっている。
俺は正常
分かっているから。
分かっているって、、何を?
何を分かっている?
幻覚なのに?
正しい現実に帰らなければいけない
今は夜で部屋は無音だ
しかし、蝉の声は止まない。
カーテンの外は夜で暗い
遠くに街灯が見える。
今は夜で部屋は無音だ。
「今は夜で部屋は無音だ」
鏡に俺が映る。
これが俺だと分かっている
知っている。そんな気がする
今は、、何が大切なんだっけか
俺は何をしようとしていたんだっけ
蝉の声がする
そして、遠くから子供の声が聞こえる
蝉の声じゃない、、何かが、流れる音、、水?
キッチンにいき水が流れるのを止める。
音が、、、、止まった。
そうか、蝉の声なんて無かった。
この音を聞いていたのか
水を出しっぱなしにしていたのが幻覚の原因?
「今は夜で部屋は無音だ」
俺の独り言は確かに闇に響いた
今度は誰も何も言ってこない
幻覚は消えた
さっき誰かに見られた気がする
俺は正常だ
狂っていると思われるかもしれない
こんな事を狂ってるやつは考えない
「今は夜で部屋は無音だ」
「どうして俺の事を見張っているんだ」
何かが俺の事を見ている
暗い部屋の中一人でいるのは確かなのに、、
壁?壁の向こうに誰かいるのか?
俺は部屋の壁を隅々まで調べる
何もない
それならさっきの声は幻覚なのか、幻聴か、
蝉の声が聞こえる
それは水の音だ
水を止めれば音も消える
鏡の俺と目が合う
誰だあれは、あれはきっと俺だ
シンクに水の注がれたグラスがある
これは俺が置いたのか?水を飲もうと思って?
喉は乾いていない
何故水を注いだのだろう
カーテンの奥が明るい
窓に近づいてカーテンをそっとよけてみる
遠くに街灯が見える
やけに明るい
すぐ目の前で光っているように感じる
蝉の声が聞こえる
子供の声も遠くから聞こえる
さっきから幻聴が聞こえている
それは分かっている
これは幻覚なんだ
今は夜で部屋は無音だ
それでも蝉の声が聞こえる
そうだ水を止めるんだ
蝉の声は水の音だから
水を止めれば蝉の声は止まるんだ
台所に向かい水を止める
いや、水は出ていない
水は出ていない?蝉の声は何故聞こえる?
いや、蝉の声はしない
部屋は無音だ
これは幻覚か?
どれが幻覚なんだ?
鏡の中の男がこっちを向いている
しかし、何か大切な事を忘れている
そんな気がする
それが何だったのかは分からない
クローゼットには白いシャツがかかっている
これは俺の物か?
来てみるとサイズは合っている
部屋の隅に小さなソファーがある
そこにはデニムパンツがかけられている
履いてみるとサイズは合っているようだ
玄関には靴が脱ぎ捨てられている
これも俺のものなのか?
足を突っ込むとサイズは合っているように感じる
玄関の姿見に自分自身が映る。
見覚えがあるような気がするが、、、
何だか分からない
俺は本当にくるってしまったのだろうか
玄関の扉に手をかける
この先はどうなってる?思い出せない
扉を押してみるとドアが開く
真っ暗な通路が左右に続き、外の空気を感じる
電灯一つない集合住宅の廊下と言った感じだ
扉を閉めて部屋に戻った。
ここはどこだっただろうか?
俺の家なのか?
部屋に生活感は感じられない
いや、何か思い出せそうだ
ここは、、ここには来たことがある
今は、、何時なんだろう
時間の分かるものは何もない
暗いと言うこと以外分からない
夜中の2時頃だろうか
蝉の声はしない
子供の声も聞こえない
部屋の電気を探す
スイッチをつけるとオレンジ色の小さなパイロットランプが部屋でついた
トイレのドアを開けてそこの電気を探してみる
スイッチを見つけたが、同じく小さなパイロットランプがつくだけだった
キッチンの脇に冷蔵庫がある
扉を開けてみた
冷蔵庫の薄暗い灯りが部屋にこぼれる
中にはペットボトルの飲料が2本入っていた
それから水槽?
水槽が入っている
なんだこれは
水槽には水が張ってある
中に何かいる
黒い何かが動いている
水槽には亀が泳いでいた
何故冷蔵庫に?
水槽を冷蔵庫から出すとキッチンに置いた
意味が分からないな
その時亀が喋った
何をと言うのは分からない
何かを喋った
そんなはずはない
これも幻覚か、、
暗い部屋だが、パイロットランプのオレンジに照らされてさっきよりは部屋の様子がわかる
小さなソファーが隅に置かれただけの部屋
窓にはカーテン、あとクローゼットの他何もない
何だか頭がぼんやりとする
何もない部屋で何も思い出せない
記憶喪失?いや、そういう事じゃない
これも幻覚なのか?
パンツのポケットに何か入っている
後ろのポケットをまさぐると錠剤の入ったシートが出てきた
何だこれ
8錠入りで3つ空いている
何の薬だ?
これは俺のものなのか?
この幻覚はこれのせいか?
他に所持品が無いか探してみたが、他には何もなかった
キッチンにあった水の入ったグラスは俺が準備したものなのかもしれない
それはこれを飲むために
3つ空いている事から飲んだのだろう
その結果俺は幻覚を見ているのか?
これは何か、ドラッグみたいなものなのか?
俺は錠剤をシートから取り出してみた
円筒状の白い小さな薬は特に危ないものには見えない
風邪薬のようには見えないが、こういう形状の錠剤があっても不思議さはない
俺はグラスの水が飲もうとしていたのか、飲んだ後なのか分からなかったが、錠剤を口にしてみた
グラスの水で一息に飲み込む
もしかしたらこれで幻覚に変化が起こるかもしれない。
全く何もヒントの無い今、物は試しと言うものだろう
飲んだ感想は何もない
苦くも無ければ、不快感も変化も感じない
まぁ、そんなものなのかもしれない
俺はわずかに開いていたカーテンを閉じると窓のカギを確認した
あの亀はなんなのだろう、キッチンの亀を再び見てみる
俗にいうミドリガメって奴だろうか、、
俺が飼っていたのか?しかし、冷蔵庫に入れていたのはなんでだ?
気が付くと俺は鏡を見つめていた
俺らしき人が俺を見ている。
いつからこうしていた?
鏡の中の俺は驚いたような表情でこちらを見ている。
何だか暑い。
苦しいな、、
俺はシャツを脱ぎ捨てパンツも脱ぎ捨てた
バスルームに戻り顔を洗う
手で顔をぬぐうと鏡を見つめた。
これは、、オレカ
「そうだ」
誰だ?
今の声は俺ではない
「お前だ」
声はキッチンから聞こえる
まさか、この亀か?
亀が喋っている。
「お前喋れるのか?」
「何度聞くんだ同じことを」
水の中にいるのにどうして聞こえるんだ?
亀ってのはこんな流暢にしゃべるものなのか?
「お前は一体何なんだ?」
「お前が一体何なんだ?」
「俺は、、分からない」
「何度でも何度でもお前はお前になれないんだなギャハハハ」
亀は急に笑い始めた
俺は亀の水槽を冷蔵庫にいれた
そしてグラスに水を注ぐ
落ち着こう
蝉の声が聞こえてくる
ずっと聞こえていたのか?
それにまるで今気が付いたかのような
子供の声が遠くから聞こえる
窓の外だろうか、カーテンの間から外を覗く
勿論子供の姿は無い
部屋に落ちているシャツを拾い上げハンガーにかけた
クローゼットに収めるとパンツも同様にした
オレンジ色のパイロットランプが眩しい
電気を消す、トイレからも灯りが漏れる
部屋中を暗くする
蝉の声がまだ聞こえる
鏡に映る男がこちらを見ている
額にしわを寄せた老人のような男が映っている
あれは誰だ?
子供達の声にエコーがかかる
水だ
水が出ているんだ
水を止めた
それでも蝉の声が止まらない
カーテンでふさがれた窓から光が漏れている
落ち着け
今は夜で、部屋は無音だ
大丈夫だ
分かっている
これは幻覚だ
幻覚なんだ
いや、さっきの亀
あれが本当に俺だったら?
鏡に映る知らない男
俺はあっちか?あっちなのか?
だから、何も分からないのか?
何故いるのかも、何者なのかも、本当に俺が亀だから?
あの亀に聞けば分かるのか?
俺は冷蔵庫を開けて亀に聞く
俺は本当に亀なのか?
黒い塊は何も答えない
「、、、。」
違う落ち着け
これは幻覚なんだ
だから、正常になれば大丈夫なんだ
一時的な記憶障害に過ぎないんだ
大丈夫なんだ、問題無いんだ
カーテンの外が明るい
眩しくて見る事が出来ない
そんな馬鹿な
今は夜で、部屋は無音だ
窓の外から音が聞こえてくる
雑多な音楽が、飛行機のジェット音のような轟音が
金切声のような声も聞こえてくる
遠くでは子供たちが騒いでいる
煩い
凄く煩い
蝉の声も聞こえてきた
いや、ずっとなっていたのかもしれない
一体何故?
いつから聞こえていたんだ?
今は夜で、部屋は無音だ
全ては幻覚だ
分かっている。
俺は正常
分かっているから。
分かっているって、、何を?
何を分かっている?
幻覚だと分かっている?幻覚って何なんだ?
確かに今感じているこの幻覚を、幻覚だと認識している事が正しい現実なのか?
幻覚なのに?
幻覚であるならば正しくない。
この現実は正しくない
正しい現実に帰らなければいけない
今は夜で部屋は無音だ
正しく認識できる本当の現実に帰らないといけない
しかし、蝉の声は止まない。
誰かこの音を止めてくれ、、、、、
カーテンの外は夜で暗い
遠くに街灯が見える。
ぼんやりとした灯りがやけに大きくてまるで目の前で光っているかのように感じる。