episode.2
私に勝つ算段はあった。
というのも、私の特徴は“ハイテンションレポート”。
2番目にレポートを披露したのがマッスルバイティングという大男だったのだが、彼のスタイルは私に近い。
ガツガツと食らいつき、野太い声と逞しい筋肉を使って美味さを表現する。
勢いが彼の一番の武器だった。
「ナンダァ!? これはァ!? ゴリゴリした食感! ムキムキとパンプアップされる食欲ゥ!!」
これは角砂糖工場でのグルメレポートだ。
きっと皆さんは下手なレポートだと思うだろう。
しかしそれは決して違う。断じて違う。
彼のレポートはテレビ越しでは伝わらない。
彼の熱気、汗、声による空気の振動、一所懸命な姿…
その全てが五感を通して私たち感じている者の脳天を突き抜ける。
味覚だけではない。五感で味わうことができるのが彼のレポートのすごいところだ。
美味子さんが“静”のレポーターだとするならば、マッスルバイティングは“動”。
そんな“動”系統のレポートは今回のコンテストで皆高得点叩き出している。
そして私も“動”系統。
これは勝機があるかもしれない。
マッスルバイティングは91点。美味子さんには敵わなかったものの、かなり健闘している。
本来の実力差は10点以上離れていてもおかしくないはずだが、今回その差は1点。
審査員は動的なレポートの方が好みなのだろう。
不公平、と言われればその通り。
ただ、それは私達とて今まで被ってきたものだ。
それをも覆すのが実力。
今の美味子さんがそれを体現している。
先ほど舞台袖でマッスルバイティングとすれ違った。
彼とは面識こそあれど話したことはない。
しかし彼は小声で言った。
「頼んだ」
おそらく彼も私のことを同じ系統として認めてくれているのだ。
誇らしさと同時に、気の引き締まる思いだった。
そうして私はスポットライトの降り注ぐ舞台へと歩みを進めていった。