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【5章完結】ネコかぶり末っ子王子の戦争回避譚 ~乳兄弟が転生者でスキル持ちになったので全力で利用させていただきます~【6章準備中】  作者: 夕藤さわな
第5章 夜ふかしするときの……。

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第69話 次に会ったら作ってやるよ。

『おじさんは熱中症で七月十三日に、おばさんはがれきの下敷きになって……死亡が確認されたのは八月二十一日』


 メモ帳を手に淡々と話す大地のおばさんは仕事をしているときの顔、看護師の顔をしていた。おばさんの声は耳に届いているのだろうか。母さんは黙ってうつむいている。


『おじさんは西公園の第二合同墓地、おばさんは南公園の第四合同墓地に埋葬されてる』


 ショックだった。

 おじいちゃんとおばあちゃんが死んだということもだけど、それが一ヶ月も二ヶ月も前だということも。僕や母さんたちが知らないうちに埋葬されていることもだけど、合同墓地だということも。その合同墓地が少なくとも四つはあるということも。


『感染症予防のために死亡が確認されたら数日のうちに埋葬することになってるんだ。おじさんたちみたいに家族に連絡できないまま埋葬された人も……身元がわからないまま埋葬された人もいる』


 身元がわかって、あとからでも死んだことが家族に伝わる人はマシな方なのだろう。おばさんの言葉に僕は唇を噛んだ。

 と――。


「ありがと、そらちゃん。私の代わりにお父さんとお母さんを見送ってくれて」


 母さんはそう言ってぎこちないながらも微笑んだ。母さんの微笑みを見た瞬間、おばさんは顔をくしゃりと悔し気に歪ませた。看護師じゃなくておばさんの顔に戻った。


『おじさんは助けられた。いつもなら助けられた。クーラーが使えて、点滴できて……たった、それだけで……』


 困ったように微笑んで母さんはゆるゆると首を横に振る。仕方がない。そらちゃんが気に病むことじゃない。そんな意味だろう。


「ねえ、そらちゃん。今、どこにいるの?」


 そして、話題を変えるようにそんなことを尋ねた。薄暗くてわかりにくいけど、そういえば画面の背景が大地とおばさんの家じゃない気がする。


『スーパーのタナカに避難してるんだ。うちのアパート、住めなくなっちゃってさ』


 そう答えたのは大地だった。おばさんからスマホを奪い取った大地がぐるりとまわってまわりのようすを映す。日本は今、夜の二十時過ぎのはずだ。暗い中にロウソクやキャンプで使うランタンのあかりがぽつりぽつりと置かれている。

 見覚えのある商品棚と商品棚のあいだにはマットレスや寝袋が敷かれ、その上に荷物がパンパンに詰まっているようすのリュックや紙袋が置かれている。


 大地とおばさん以外にも避難してきている人たちがいるらしい。見覚えのある顔が映り、首をかしげた。


『佑樹とおばさんだよ』


『あらー、佑樹くんに柚樹ちゃん!? 元気ー!?』


 大声で話しかけられて思わず首をすくめて、それで気が付いた。スーパーのタナカのレジのおばちゃんだ。バンダナもエプロンもしていないから一瞬、誰だかわからなかった。

 会釈をしているあいだに画面が動いて今度は見覚えのある茶色い大型犬が映し出された。


『テディもいっしょなんだ』


「テディ!」


 大地が頭をなでまわすと犬も――テディもふっさふっさとうれしそうにしっぽを振る。引っ越す前は怖くてなでられなかったし、今も目の前に現れたら固まる自信がある。でも、なつかしい顔に思わずうれしくなって思わず笑顔になった。

 だから――。


「それじゃあさ、そこに佐藤のおばちゃんもいるの?」


 不用意に聞いてしまったのだ。スマホの小さな画面に映る大地に。

 ようやくゆるんだ大地の表情が固まった。でも、それも一瞬のこと。


『アスパラ豚肉巻きフライの作り方、佐藤のおばちゃんから教わったんだ。次に会ったら作ってやるよ、佐藤のおばちゃん直伝の俺お手製アスパラ豚肉巻きフライ』


 兄担当みたいな顔をしてにやりと笑ってみせた。

 きっと、おじいちゃんやおばあちゃんと同じように佐藤のおばちゃんも夏のあいだに死んでしまったのだ。もしかしたら、テディの飼い主だった横田のおばちゃんも。大地の胸に頭を押し付けてふっさふっさとうれしそうにしっぽを振っているテディを見ているうちにため息がもれそうになって、あわてて飲み込んだ。

 大地やおばさんの前で、僕が――日本から遠く離れた安全な場所にいる僕がため息をついたり、暗い顔をするわけにはいかない。


「楽しみにしてる」


 にやりと笑う大地ににやりと笑い返してみせる。


『おう』


 短く答えて大地はおばさんにスマホを返した。


『それじゃあ、また連絡するね。柚樹』


「うん、待ってるよ。……待ってるからね、そらちゃん」


 〝地獄の夏〟が終わり、日本に短い秋がやってくる。だけど、少しも安心した気持ちにはならなかった。

 だって、大地がぐるりと映して見せてくれたスーパーのタナカの商品棚はガラガラだったから。引っ越す前、夜ふかしするために大地と買いに行ったときには棚いっぱいに並んでいたチョコもクッキーも、ポテチだって一袋もなかったから。


 この日が僕が大地と話した最後の日になった。

 

日本から引っ越して二年弱。

 佐藤のおばちゃんお手製アスパラ豚肉巻きフライも、佐藤のおばちゃん直伝の大地お手製アスパラ豚肉巻きフライも、僕は結局、二度と食べることができなかった。

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