序章
手足は痺れ、聞こえる音はかすかな呼吸音の機械的なノイズと己の鼓動のみだ。
顔はパンパンに腫れあがっている感覚で、いつか破裂するんじゃないかとすら錯覚し、眼球は飛び出てしまいそうだ。
青年が願うのはこの不快感からの迅速な解放ただ一つ。
だが、その願い空しくその青年をたっぷり時間をかけて嬲るように蝕んでいくのが罰という名の死である。
実際には、青年が味わっているのは体感時間の話で、実のところは十数秒といったところだろう。しかし、青年にはその十数秒というのは何時間、何十時間にも感じられた。
やがてだんだんと視界が暗くなり、その時はやってくる。
あぁ、やっと解放される。
青年の心は死を目の前にしてようやく、少しの光を得た。
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どこまでも続く深い闇を漂う中で青年の意識が徐々に覚醒していく。
「なんだ、ここ」
青年は手足を動かそうとするが叶わない。
それはそうだ、そこにあるのは青年の意識だけ。
青年の本体ともいえる身体は存在しない。
「動けない・・・そもそも俺は死んだはずだよな・・・」
大体ここはどこなんだ何故俺はこんなところに。と答えの出ない思考を巡らせるが、もうどうでもいいか、と思考を切り捨てると遠くから淡い光が見える。
あれはなんだと、青年が意識を向けると不思議とそちらへゆっくりと向かっていく。
・・・・・・
「さっさと行ってくれないもんかね」
ーーーシュっ!
あまりのじれったさに、青年が愚痴をこぼすような思考を巡らせた途端に急速に、光へ吸い込まれていく。
「うおっ!?」
吸い込まれたその先にあったのは純白のデスクとイス、そしてそこに座る黒いスーツを身にまとった若い男。スーツに皺等は無く、清潔感があり男の表情からは柔らかな雰囲気が伝わってくる。
男は「やぁ」と気軽な様子で親しみやすい笑みを浮かべながら青年に声をかける。
「えーっと君はー・・・お、あったあった、八重 悠斗君だね!」
デスクの上で綺麗に整頓されていた資料の山の中から一枚の紙を取り出し名前を言い当て、悠斗と呼ばれた青年は投げやりに「あぁ」と答えた。
「あー、なるほど、君は⦅そっち側⦆か」
悠斗をそっち側と表現し、一人納得したように首を縦に振ると、「まぁいいや」と話題を切り捨てた。
「んじゃ、いろいろと説明するね、僕は神で君は死者、ここまでオーケー?」
「あぁ」
悠斗は神という単語にも特に反応を示さずに再度、投げやりにYESという意思表示をする。
その反応をみて神はほくそ笑みながら言葉を続ける。
「で、死者は皆、別の世界へ転生することになってるんだ、どの世界に転生するかは生前にどれだけ良い行いをしたか、神々の間では【徳功】なんて呼ばれていて、それとは逆に【悪功】なんてものもあるんだけど、その【徳功】が平均を逸脱して高ければ高位世界、同じように悪功が高ければ低位世界への転生になる。因みに君が元々居た世界は中位世界なんだけど、それは今となってはどうでもいいことだったかな?」
悠斗への投げかけを無視された神だが、想定済みだと言わんばかりに次の説明に移行する。
「そして、君が次に転生するのは低位世界、最低最悪の世界さ」
俺が、低位世界・・・?最低最悪の世界?そんな悪功とやらが高くなるような人生だったか?
少しの動揺と共に思考を巡らし、すぐに結論付けた。
ーーあぁ、**したからか。
一人納得して神と名乗る男の言葉に耳を傾ける。
「でも安心していいよ、君は特例措置条件を満たしてる、だから君をここに呼んだんだ。特例措置っていうのは分かりやすく言えば敗者復活戦のようなものかな?低位世界への転生が決まってしまった人に一度だけチャンスを上げるんだ、それもまぁ、条件を満たしている人だけなんだけどね。で、それがどんなものかっていうと」
ーーーーみんな大好きな
ーーーー楽しい楽しい
ーーーー【GAME】だよっ!
そう告げると、神はニヤリと嫌な笑みを浮かべた。