『想い』
例えば自分の全てを捨ててでも
君の傍に寄り添うことを
君からの手紙を読んで
真夜中の寝台特急に飛び乗る勇気
結局、自分を捨てきれずに
星ひとつ無い夜空を見上げる
月さえも見えない
君の表裏の無い言葉に触れることの無かった感情が揺れる
寝台特急が走り出す
このレールが君へと続くことをなぜか恐れる
自分は、何をしようとしているのか?
真夜中の雷鳴
月も星も隠した夜空に暗闇が広がる
時折、走る稲妻に
僕の手が震える
車窓のまばらだった水滴が
やがて問い詰めるようにぶつかる
それは君の心なんだろうか
ひとつの水滴が、いくつもの水滴と重なり合うように
ただ足もとのヒーターの温もり感じて、窓の外を見つめる自分
決してここから飛び降りる勇気など持ち合わせてもいないのに
情けない自分の顔が真夜中の車窓に映る
泣いているのは僕なのか
窓ガラスに遮られた二人の距離
夜の嵐が今にも突き破ろうとしている
山の土砂を押し流し
線路さえも遮られた
それでも、僕は、列車を飛び降りて君へと会いに行けるだろうか
せめて体力の尽き果てるまで
命尽き果てるまで
そんなことは、出来っこないはずなのに
川が氾濫して線路が寸断されている
ここから先へと進むには
命さえも捨てなくては行けないのだろう
もしも、渡れるなら
君は許してくれるのだろうか
なんの覚悟も無かった僕を
いつかの月のように
君を哀れみ……見下ろしていたのだろうか
僕は、何がしたかったのだろう
君に──
言葉が夜空に消える星さえも無い暗闇
無責任な優しさは
君を苦しめた
雷鳴が轟く稲光が光る
列車が僕をのせたまま運行を停止する
歩み出せないままに──夜を明かす
結局、僕も同じなのか──窓辺に映る顔
車内の電源が落ちて暗闇になる
──遠い
今すぐに走り出さなければ、君へと届かないのに
君は嵐
世界を知っている
けれども多くの人たちは晴れ渡る空に君を忘れる
いつだって、風は世界をめぐっているのに
空が割れる
稲妻が落ちる
雷鳴が轟く
君の身体を深く抉る傷のように
けれども君は
好きだった煙草に火を灯して
風に揺らぐ煙が消えてゆくのを
ただ黙って見つめているだけだった
僕は、ちゃんと、君の背中に刺しこまれた絵も深い傷も
見つめることが出来なかった
いや、触れることも
どれだけ君が痛くてつらかったのかを
知ろうともしないで……
泣いて謝り続けても
それは無意味だろう……
自己満足に過ぎない
枯れ葉のようにただ風に舞うだけ
あの日みた秋の夕焼けに染まる山紅葉が幻のように虚しい
車窓に降り注ぐ大粒の雨粒
今は真夜中
君が嵐の中にいる
君の生きた現実は僕の知らない時間
誰にも教えられることなく
君は地下室の鍵を閉めた
君へと届かない時間も距離も押し黙ったままの夜
嵐が過ぎ去る
氾濫した川の音が聞こえる
電気の消えた車内に取り残されることを選んだ僕が震える
外に飛び出る勇気の無い自分
もしも覚悟を決めたのなら
君に会えるかも知れないのに──
自分でつけた自分の首輪を見て嘆く自分
首輪を拒んだ時に出来た君の首の傷
まだ赤くて
ただ、やっぱり、行き着けるとこまでは、なんとか君のもとへとたどり着こうとして
君のくれたお守りを握りしめる
君が描いてくれた勇気を
僕にくれた勇気を
君に書いた手紙
ずぶ濡れになって読めないけど
無くさないように
濡れた胸のポケットへとしまう
胸に突き刺さる痛みも冷たさも
無くさないように