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フリ素@存在証明 ~フリ素オレ、異世界で人気大爆発しているようです~  作者: 烏合衆国
第三章 フリ素オレ、泣く子と銃には勝てないようです
33/49

3-10 歓喜


 オレはずっと、ナナさんに持たれて議論の様子を見守っていたが、解散とのことで、エマに回収される。



「おつかれ、エマ」


「――うん。はは……緊張したあ」エマは笑う。「うまく、できたよね? 練習した通り」


「ええ。よかったよ、エマ」アリアが後ろから声を掛ける。「ザンダン、ありがとう、いろいろと」


「いや、大したことは――」って、エマの人形だから、声は聞こえないか。彼女もそれを、分かった上で喋っている。「アリアも、おつかれさま」


「姉上、ザンダンが『おつかれさま』だそうです!」


 エマが報告した。アリアは微笑んで、「ありがとう」と言ってハロルバロルさんの元へ行った。




「そうだ、ハルのお見舞に行かなければ。行きましょう、ナナ」「はい!」二人がそう言っているところへ、


「エマ様、私もご一緒してよろしいですか?」ハルキさんがやって来る。彼女はハルさんの義理の母親。昨日も様子を見に行っていたようだが、エマと同じで、気になっているのだ。エマは、「勿論です!」と返した。



 ――その時。



 大広間の扉が、勢いよく開く。一同は、入口に注目した。なんだ、また何か、事件が――




()()! です!」




 ハルさんだ。


 治療をし、安静と言われているはずの彼女は、肩で息をしながらも、笑顔でそこに立っていた。ここは最上階で、一回にある医務室からは何段も昇る必要がある。それなのにわざわざ、ここまで上がってきたのは。


「ハル――」




()()()()()!」




 エマが飛び出すより早く、大きな影――ガルイスさんが、ハルさんに駆け寄り、その体躯を抱き締めた。ハルさんは一瞬驚いたようだったが、彼を受け容れるように、手を彼の背中に回す。


「よかった。よかった――ハルレア。よくがんばった」


「えへへ……」ハルさんは、満更でもない笑顔を浮かべる――「痛ッ! あたたたたた……」そう悶えながら身体をくの字に曲げる。長男はようやく回していた腕を離す。「す、すまない」「いやいや、全然――」




「ハルッ!」




 今度こそ、再びオレをナナさんに預け、エマが駆ける。ハルさんは再び笑みを形成して、それに応じた。


「うう、うぁいい、ふ、ふふう」


「はい。ありがとうございます」


 ハルさんは、やはり笑っている。




 その後。結局、ハルさんは医務室に連れ戻され、しばらくナナさんが続投することになった。元々のアリアの召使の仕事はどうするのかと思ったら――アーストールさんの一行が来た際、一人、事前準備等のために置いていかれたらしい。朝にゾースシールさんを起こそうとがんばっていた、ジェラさん、だったか。ハルさんやナナさんくらいの若い女性で、その人がナナさんに代わり世話をしているという。




 こうして、暴漢による専属召使(ハルさん)の傷害事件から始まった一連の議論は、終了した。これが王家のため、この国のため、()いてはこの世界のためになればいいと思った。




     ○




 アリアの言によれば、『ザンダン』の禁止を提言したのは、()()()()()()()()()()()()()()という。最終的な投票の際に、多く質問した上、賛成票を投じなかったことを思い出す。その理由は――ハルさんに対する態度を振り返れば、分かる気がした。見舞に来て、せっせといろいろしてあげるガルイスさん。昔のことを、楽しそうに話すハルさん。復活した(していないが)ハルさんを誰よりも先に抱き締めたガルイスさん。それを嬉しそうに受け止めるハルさん。畢竟――彼は、優しすぎる人間なのだ。オレたちの代案、それは市民の100%の安全を保障できるものには、残念ながらなっていない。安全か、安全でないかという基準ならば、一般人の銃所持を禁止する案のほうが上だ(『ザンダン』禁止が理に適っているかは判断できないが)。そして何より、今回の被害者が、ハルさんだったこと。彼は次また同じような事件を起こしてはならないと、そう考えたのだろう。



 ただ――決断は、既に国民に委ねられた。国民が是という政治を執り行うのが治世である。ガルイスさんも、最終決定には従うつもりではいるはずだ。



 しかし彼の態度には、重なる人がいる。優稀(ユウキ)だ。オレが生き返ることができるのか分からない状況で、オレの延命を望んでくれた。それはきっと、オレのことを想ってのことで、大きな借りとなってしまった。この恩を、しっかり利息をつけて返そうとは思っているのだが、逆にどんどん、新たに借りを作ってしまっている現状。



 同じく、受け取る側のハルさんのことを考えるが、彼女も結局、与える側なのだろう。だからガルイスさんとハルさんの二人は、バランスの取れたいいコンビなのだ。オレが彼女に与えられるものは、一体――



()()()!』



 ――――?


 なぜ今、そんなことを――今、一瞬脳内に映像が流れた気がした。小さな手が持っている人形。オレは笑顔で――ダメだ、分からない。


 これは実際の記憶なのか、それともいつか見た夢なのか――何も思い出せず、オレは嘆息する。



第三章、読んで頂きありがとうございます!


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