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フリ素@存在証明 ~フリ素オレ、異世界で人気大爆発しているようです~  作者: 烏合衆国
第三章 フリ素オレ、泣く子と銃には勝てないようです
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3-5 櫛の歯


「姉上……」



 エマは先に病室に来ていた。『ザンダン』が彼女の膝の上に乗せられている。シャードは来ないそうなので、オレはアリアの『ザンダン』に移って彼女に連れて来てもらった。


「ハルは、大丈夫なのだってね」


 アリアは言って、エマの隣の椅子に座る。エマは、曖昧に頷いた。


 そのまま、しばらくオレたちは並んで、時を過ごす。




「──わたしの、せいです」




 エマは、口を開いた。オレたちはそちらを見る。


「わたしが、街に行くよう頼んだから。そうでなかったら、このようなことには──」


「エマ」


 アリアは、妹の手を優しく上から握る。


「誰のせいかなんて、あの犯人の男のせいに決まっているでしょう。だからあの男は、これから裁かれ、その罪を償うの。エマは、それよりハルの隣にいてあげて。これは、エマにしか、できないことだよ」


 ねえザンダンと、彼女はオレに言う。オレもその言葉には賛成だ。結局悪いのは、自分の要求を通せず、ただ捕まってしまった上に、撃ってしまった人質が王女の専属召使だったため余計な罪を負った、あの間抜けな男だ。エマは何も悪くない。


「ザンダン? ──ザンダン、お願い、こちらへ来て」


 アリアの言葉に反応して、エマは言った。「……いい?」オレが訊くと、アリアは掌をエマの方へ差し出す。オレはそちらへ移った。


 エマは──オレを、ぎゅうと後ろから抱き締め。




「ザン、ダン──」




 そうだった。今日の夜には、戻ってくると約束していたのだ。無事戻ってこられたが──少々、遠回りだったな。


「ただいま、エマ」


 そんなオレたちを、アリアは腕を回して包み込んだ。この体では、感じないはずの温かみ。




 夜が更ける。アリアはもう一度シャードのところへ行くと言って病室から出ていった。エマはいつの間にか寝てしまっていて、オレはベッドとエマの間で潰されそうである。


 そこに、アリアの召使の一人、ナナさんが入ってくる。アリアに訊いたところ、彼女にはハロルバロルさんとナナさん、二人の専属召使がいるそうだ。彼女は布団を持っていて、オレを救出しベッド脇の机に置いてから、エマにそれをかける。ハルさんの布団を少し直して、彼女は出ていった。




 オレは、これから先のことを考える。


 エーエル家、だったか。弓とは──確かに、前時代的だとは思う。オレの世界では、スポーツや儀礼に残っているくらいだろう。昔はメジャーだったであろう狩猟にも、今や銃が使われている。


 銃がこのまま改良されていったら、弓の出番は必ずなくなる。それはエーエルさんも、分かっているはずだ。とはいえ、彼は一族を負っている存在。もう要らないと言われ、はいそうですかと家族を路頭に迷わすわけにはいかない。


 では、エーエル家が弓から銃へ、シフトするというのはどうだろうか。銃と弓、どちらが使いやすいかは分からないが、それならエーエル家は今後もその立場を保ち続けられる。ただ──エーエルさんは賛成しそうにないし、国の側としても、そう簡単に扱えることではないかも知れない。


 銃──といえば、オレは手に持っている自分の銃を思い出す。オレは当然、銃なんて使ったことがない。しかし『残弾を数えるしゅーちゃん』及び『ザンダン』はいつも、銃を手にしている。この『ザンダン』が流行っているということは、銃に対する規制は、されているのかとなんとなく思っていたが──そうでもなかったことが、今回分かった。今後、銃を一般人には完全禁止する方向か、一般人にも護身用として普及させる方向か、どちらに行くかは分からない。(ユウ)に頼んだことで、明日戻れるかも知れないオレの世界で、諸々の法律に目を通してみようか。


 と──ノックがあり、ドアが開く。またナナさんか、それともアリアか──と思っていたら、




 顔を覗かせたのは、ガルイス第一王子だった。




 長男が、どうしてここに──いや、ハルさんが、幼馴染だと言っていたような気がしなくもない。彼は、先程までアリアが座っていた椅子に座り、早くもズレているエマの布団を直すと、ベッドで寝ているハルさんに向き直る。



「──ハルレア」



 彼は呟いた。


 その顔は、いつものように冷たいものではなく──多分に、温かみのあるもので。


 彼は、懐から取り出した木櫛を、少し絡まっているハルさんの髪に通す。丁寧に整えた後、ハンカチで額と鼻の汗を拭く。そして──部屋を、出ていってしまった。




 ハルさんが、むずむず動いていると思ったら、ぱっちりと目を覚ます。「…………?」彼女は、少し身体を起こして周囲をきょろきょろし、ベッドに突っ伏しているエマと、枕元のオレに気づく。オレを掴むと、ハルさんはまたベッドに寝転んだ。


「……おはよう、ハルさん」


「おはよう。──えっと、何があったんだっけ?」


 少し記憶が曖昧になっているようだ。オレは事件のあらましを説明して、エマが、ハルさんをここでずっと見護っていたことを伝える。「エマは、ハルさんがこうなったのは、自分のせいだって言ってた。アリアは違うと返したし、オレも違うと思ってる。ハルさんも──エマにそう伝えてやって」


「うん、それは絶対に。──そういえば、夢の話をしてもいい?」


「夢?」




「さっきまで、見てたんだけど。あのね、ガルイス様が、わたしの髪の毛を梳かして、汗を拭いてくれたっていうね、単純な夢なんだけど」




「…………」


 その、夢というのは。


「わたし、とっても嬉しかった。昔はね、お互いに髪を梳かし合ってたんだ、二人とも髪が長いから。その時のこと、思い出しちゃったな……」


 ハルさんは、本当に幸せそうに言う。


 それが現実だったなんて、わざわざ言うのは野暮というものだ。これほどまで深く繋がりのあるなら、人質に彼女が取られた時、ガルイスさんといえど、対処を躊躇してしまうだろう。そんな一面が、彼にもあることが少し嬉しい。そして当然──オレは、自分の幼馴染のことを考える。



 優稀(ユウキ)との思い出は、たくさんある。親同士の仲がよくて、十と六年だか七年だかを共に過ごした仲だ。それだけに、近頃のオレたちの間の微妙な雰囲気が、どうにも不快に感じる。



 ガルイスさんとハルさんは、身分の差こそあれ、根っこで深く繋がっている感がある。オレたちの場合、それを見失っているのだ。何かが覆って隠しているのかも知れないし、ちぎれてしまったのかも知れない。最悪の事態を迎える前に、修復を図らなければならないだろう。


「で、どうしよう。私がずっと寝ていたら誰がエマ様の相手をするの?」


「さっきはナナさんが来てたけど」オレは言う。「というか今は、しっかり休んで傷を治した方がいい。それが仕事だ」


「ナナちゃんなら安心! ──そうだね、ザンダン」


 おやすみ、とハルさんは呟く。しばらくして、部屋にエマとハルさん、二人の寝息が静かに響いた。オレも目を瞑る。明日も大変な一日になりそうだ。




     ○




 朝が来て、オレはエマを起こす。彼女はナナさんに連れられて自室に戻り、着替えをしてダイニングルームへ向かった。オレは、病室でハルさんが目覚めるのを待つ。ナナさんはエマに、「ハルちゃんはまだ寝かせておきましょう」と言っていたので、それでいいのだろう──と、ハルさんがぱっちり目を開き。



「エ、エマ様すみません寝坊を──痛う、ぅう!」



 身体を起こしたと思ったら、傷のある右胸を押さえ、縮こまる。


「だから、ナナさんがやってくれてるって」


「痛ーい……そうでした」ハルさんは言う。「じゃあもうひと眠りしよう」


「それは寝過ぎじゃ……」オレが言い終わる前に、彼女は寝息を立て始めた。エマとハルさん。マイペースなところがよく似ている。




 エマが朝食から戻ってきても、ハルさんは寝ていた。その後、ナナさんがハルさんの代わりに今日の勉強を担当すると、エマはオレに言い残して出ていく。



「ハルをよろしくね、ザンダン」



 ──さて、再び病室に二人きりになる。とはいえ話し相手がいないため、オレは昨日のことを思い返す。事件のこと。お偉いさんたちの議論のこと。シャードとアリアの議論のこと。ガルイスさんとハルさんの関係のこと。そうだ、それで思い出した。今日の昼過ぎ、恐らくオレは元の世界に帰ることになる。それなのにエマに、ハルさんをよろしく頼まれてしまった。オレはどうも、エマとの約束を破りがちだ。今回は、先んじてアリアにでも言伝てなければならないだろう。最悪、シャードでもいいが。


 と──例の、強い力を感じた。まずい、いろいろなことを考えすぎた。自分から約束を破りにいっている。誰のの元へ行くか分からないが、エマが名を呼んでくれない限りもうこちらには戻ってこられないため、ハルさんのことは、行った先の人に頼むしかない。オレは引っ張られ、別の『ザンダン』へ──




「──では決を採ります。まず、賛成の方。──ガルイス様、三家の方々、ハルキ様。では、反対の方──よろしいのですね、シャード様、アリア様。では──賛成多数により、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 ──え?



「ごめんなさい、ザンダン──」



 アリアのか細い声が聞こえた。()()()()()()──しかし、一体何が。


「それでは、解散といたしましょう」


 執事の声が、そう告げる。



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