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フリ素@存在証明 ~フリ素オレ、異世界で人気大爆発しているようです~  作者: 烏合衆国
第三章 フリ素オレ、泣く子と銃には勝てないようです
27/49

3-4 弓


 ここまでの話し合いを整理すると、テロリストの件について、


①コーラスさん=団長さんが、シャードに怒られている。

②シュロウさんはもう反省している。

③シャードさんに賛成している人がいる。

④シャードさんの主張は、とりあえず正しい。


 という感じである。確かにあの場面で、ハルさんを気にして王を呼んで、それで王が撃たれたなんてことになれば、国全体が揺らぐ。ハルさんが撃たれても仕方ないと割り切って、犯人を取り押さえるべきだったろう。それをすぐに決断できなかったのは、シャードの言う通り、


 同僚であったり、


 義孫(まご)であったり、


 幼馴染であったり、


 感情が、理性を抑え込んでいたからだ。オレがその決断をできるとは言わないが──国全体のことを考えるならば、やはり、ハルさんが犠牲になるのは()むを得ないことだったという論理は、論理じたいは理解できる。



「失礼します。ハルキ様を連れてきました」



 そこで、誰かが入室してくる。聞き覚えのある声だった。確か──一昨日、オレがバルコニーから落とされた時に受け止めてくれた、グィーテさんのパートナー。そう、ファイリースさんだ。コーラス団長の娘だという。ハルキという人は、誰だか分からなかった。


 と、ガタッと椅子を引く音。オレがさっきまでいた場所から聞こえた──つまり、シャードが、席を立ったのだ。


 カツカツと、靴の音。訪問者の元へ歩いていっているらしい。一体、何をしようというのか──




「申し訳ありません。先生の娘さんを傷つけるような事態となってしまいました。現在、抱えの医師に治療に当たらせています」




 ……え?


 シャードさんが──丁寧な言葉遣いを?


「痛み入ります、しかしどうか顔をお上げください」低音(アルト)の女声が、そうシャードに言う。「シャード様は、正しい選択をされた。ハルレアも、かようにするしかなかったことは理解しているはずです」


 ハルさんの、義理の親にして、シュロウさんの、義理の娘。


 ()()とは、一体どういうことなのか──しかし、あのシャードが敬語を使うとは、かなりレアケースな気がする。


「皆々様、ハルレアが大変なご迷惑をおかけいたしました。わたくしはシャード様と同じ考えですが──ミスエル卿、並びに義父(ちち)上への処罰は、どうか寛容にお頼み申し上げます。事件の根本的原因をなくさない限り、事態は好転いたしません」


 ハルキさんは、すらすらと言う。一同は、静かに聞いていた。


「して、その原因とは?」


 長男が、そう問うた。




「──我が国における、()()()の遅れです」




 そうして、更なる議論が始まる。




     ○




「恐れながら、リオフランの銃隊は今どちらへいるのでしょうか、ミスエル卿」


 ハルキさんは、団長に問う。


「い、今はグーヴとの合同訓練で、第一師団全員が国外にいます。各隊の正確な位置は、把握できていませんが」ミスエル卿とは、団長さんのことらしい。団長が答えると、



「まだ分かってねえのか、コーラス。今までの話の流れで」元の粗雑な口調に戻ったシャードが、そう言う。席に戻ってきているようだ。「正確な位置などに興味はねえ。貴様は今、『()()()()()()()()』という先生の質問の主語を、『()()()()』にすり替えた──リオフラン陸軍において、銃隊が第一師団にしかねえからな」



 そういう──話か。


 武器の進化に、軍の形態のアップデートが間に合っていないのだ。そして今回のような事態が起きる。銃は手元で撃つことができ、間合いは殺す必要がなければ剣や槍より断然遠い。暴漢を囲ったのが槍隊ではなく銃隊だったら、すぐ相手は投降しただろう。今後の銃の発達を考えれば、対応策の考案は喫緊の課題である。


「その通りです、シャード様、しかし娘の前で父親に恥をかかせるのではありませんよ」


 ハルキさんは穏やかに言い。


「次にこのようなことがいつ起きるかは分かりません。できるだけ早く、対応してくださいますよう進言いたします」そう、締めくくった。



「ちょっとちょっと」そこで──誰かが、割り込んでくる。「結構なお言葉ですねえ。まるでこのエーエル家をないものとして扱っているようだ」



 エーエル家?


 それは──どことなく、ミスエル家と名前が似ているが。


「それとも、我が家の断絶がご希望なのか? 三家の一つを、このように突然に?」


「バイアス。身勝手な発言は慎むように」


 言葉を。途中で打ち切らせたのは──執事の、声だった。


「ただハルキ。その言は正しくはあるが、エーエル家は長らく国防に尽力してくれた。踏むべき手順、為すべき議論は余さず経るものとする、というのが王のご意向だ」


「はい。全ては我が王と、この国のためでありますゆえ」


 そうして──話し合いは、終わったようだった。




 その後、シャードの部屋で。


「頭のお固えおっさんだ、エーエル卿ってのは」


 シャードがそう愚痴る。オレはまだシャードの人形の中で、アリアに持たれそれを聞いている。


()()が勝てるわけねえんだよ。在野だからって諮問機関ぶりやがって」


「エーエル家ってのは何なの?」オレはアリアに問うた。


「──リオフラン武術、それを継承する代表的な三家が、(つるぎ)のミスエル家、槍のサムエル家、弓のエーエル家。ミスエル家の現当主は、ザンダンも知っていると思うけれど、近衛師団の団長。サムエル家の当主は、王立士官学校の校長。エーエルの当主は、兄上の仰るとおり官職には就いていないけれど──他の二家と合わせて、主に国の軍備において強い発言力を持っている。ハルキ先生の言う軍の再編成などという大がかりなことは、三家と関係なくやってしまうということはできないの」


「……ちなみに、そのハルキ先生っていうのは、誰?」オレは続けて尋ねる。「シャードがあんなに丁寧な物腰になるなんて、相当だと思うけど」


「オイ、どーいう意味だそりゃあ」


 シャードが割り込んでくる。


「事実ではないですか、兄上。──なんとなく、話を聞いていて分かったかも知れないけれど、アヴの養子で、ハルの養母。そして私たちの、グーヴ語の教師をされているの」


 グーヴ語の──先生?


 グーヴとは、隣国の、アリアの嫁ぎ先、グーヴ王国か。


「あれ、でも王子が話してた言葉は──」


「アーストール様は、こちらではずっとフラン語を話されていたよ。訪問客が、訪問先の言語を使うというのは、別段おかしな話ではないでしょう」そもそもそれほど、異なる言語ではないのだけれど、とアリアはつけ足した。言語として区別はしているから、文法は似通っていてるとか、単語は一応違うがルーツが同じものが多いとか、そういうことだろう。日本語と、韓国語みたいなもの──少し違うか?


「元々捨て子だったのを、アヴに助けてもらって──彼の養子として、城の中で、育てられて。幼い頃から優秀だったらしく、順応は早かったそうだよ。その後、グーヴに留学して、グーヴの言語や文化、いろいろなものを学んで帰ってきて、今は私たちの先生というわけ」


「ハルレアが進んだかも知れねえ道だな」


 シャードはいつもの通り意地の悪いことを言う。


「兄上。──ええと、それより疑問なのですけれど、銃と弓、について、たとえば毒矢はどうですか?」


「却下だな。そもそも、銃弾と矢とじゃあ威力が段違いだ。今後の銃の進化に伴い鎧の進化も求められるだろうが、そうなると、とうとう弓の出番はなくなる。それに、弓の連射速度はエーエル家が披露するもので限界だろうが、銃はこれからどんどん速くなるからな。弓矢を一本放つ間に銃弾を五発も十発も撃てりゃ、勝ち目なんてねえ」


 それは──その通りだと、思った。


「エーエル卿が、いつまで意地を張るのか見届けようぜ。そもそも――弓隊を廃止し、銃隊を新たに作り出すってのは、先生は明言されてねえ。それは実際、意欲的に取り組むことに利点ばかりがあるわけではねえからだな。むしろ、戦争の用意をしていると思われる可能性だってある。あくまで内憂への対策であることを、前面に出しておきたいはずだ。するとまずは法整備と外交だな──」シャードはそのまま独りでぶつぶつと喋り始める。こんなに真面目な次男を見るのは、初めてかも知れない。


「そういえば──ハルは大丈夫なのでしょうか」


 アリアが思いついたように言った。シャードはぶつぶつを一旦やめ、


「国一番の医者だ。これで無理なら無理、諦める他はねえ」


 そう言い放った。アリアは少しショックを受けたように、オレを掴む手に力を込める。


「そんな言い方──」


 コンコン、とノックがあり。


「失礼いたします──アリア様、シャード様」


 ハロルバロルさんがドアを開けた。ここはシャードの部屋だが、本来の召使であるシュロウさんは謹慎中と言っていたので、アリアの召使である彼が来たのだろう。彼は一拍置いて、



「ハルレアの処置が、終わったそうです。命に別状はない、と」



 そうオレたちに伝えた。



読んで頂きありがとうございます!


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