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フリ素@存在証明 ~フリ素オレ、異世界で人気大爆発しているようです~  作者: 烏合衆国
第一章 フリ素オレ、異世界に転移したようです
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1-1 甘い匂い


 高二の春。四月十八日。月曜日。新しいクラスでも相変わらず『しゅーちゃん』呼び。すっかり慣れたものなので適当にあしらい、部活に行き、家に帰る。風呂に入り、夕飯を食べ、ゲームと勉強とSNSを経て歯を磨く。明日も、明後日も同じようにからかわれるのだ。まあ、肉体的な暴力はないし精神的にもあまり受けてはいない、ぐだぐだ絡んではこないからだ。中学生までは、オレも周りも幼く、ややキツいこともあったが。


 午前0時。オレはベッドに入った。オレは眠りにつく時、世界平和について考えるようにしている。我が国は長らく平和主義を掲げているが、世界ではオレと同じくらいの年齢で兵役を課される若者がいる。オレは偶然、この国に生まれただけだ。オレが戦場に立った時には、はたして何ができるだろう、やはり残弾を数えることか──という辺りで大抵意識が落ちていき。




 ──甘い匂いで、目が覚めた。




 ()()()()? オレは部屋に何か置いていただろうか、香水のような匂い。オレは目を開ける。


 眼前に、女の子の顔。




「────ッ!?」




 オレは驚いて起き上がろうとするが、身動きが取れなかった。女の子に身体を掴まれているからだろうか。少し観察すると──外国の子なのだろうか、綺麗な金髪で、肌がすべすべだ。まだ幼く、恐らく小学生。朝起きたら部屋に知らない女の子が! というのはフィクションではよくある展開な気がするが、実際に我が身に起こるとまず混乱、次に恐怖。とりあえず、この女の子に事情を聞くしかない。オレは彼女を起こすため手を伸ばす──あれ?


 ()()()()()。手も、脚も。そもそもまぶた以外の感覚がない。いや、先程匂いを嗅いだから嗅覚はあるようだ。五感を確認する。嗅覚視覚触覚聴覚味覚。嗅覚と視覚(まぶたの開閉含めて)は確認された。聴覚はどうだろうか。耳を澄ませてみる──遠くの部屋で物音がしている気もするが、よく分からない。触覚は──目の前の女の子に掴まれているはずだが、それを感じていない。長時間掴まれて感覚が麻痺している? 手も足も、動かそうと思っても動かなかった。金縛り? 味覚──は、この状態ではどうにもならないため省略。


 というかずっと、目の前に女の子。完全に膠着状態だ。親が来たらどう思われるだろう。息子が見知らぬ少女を部屋に連れ込んでいる図。まっさきに警察を呼ばれるかも知れない。そしてオレとしても、割と呼んでほしい状況。大丈夫、潔白は証明できる。


 その時、ドアが開く。よかった、父親か母親か、どちらでも──




「エマ様、朝でございますよー」




 知らない女性の声。


 ()()()


 オレの名前は修一郎(シュウイチロウ)である。エマとは一体……まさか。目の前の女の子が目をうっすら開ける。そしてオレに顔を近づけ──


「ちょ、ちょ、ちょっと!?」


 オレは慌てて叫ぶ。おっと、声は出せたようである。オレの声に驚いたのか、彼女は目をぱっちりと開ける。綺麗な眼だ。瞳孔は澄んだ翠玉色(エメラルドグリーン)──とオレが観察をしているのに構わず彼女は起き上がり、オレを持ち上げる──()()()()()


 身体が浮く感覚。本当に持ち上げられている。「え? え?」オレはろくな言葉を紡げない。一方の女の子は、目をきらっきらに輝かせ。




「あなた、喋ることができるの!? ザンダン!」




 ……()()




     ○




 とりあえず、現在判明している事実。


 オレは今、いつもの兜井(トイ)修一郎ではなく。


 いつの間にか、家ではないところにいて。


 目の前の女の子の名前は、エマだそうだ。


 オレのところに彼女がやって来たのではなく、彼女のところにオレが行ってしまったようである。


 以上、ちなみに先程エマ(ちゃん? さん?)を起こしに来た人は、彼女の召使らしい。声だけかけていなくなったようだ。召使って貴族か何かかよとオレが軽口を叩くと、


「ザンダンは何も知らないねえ。わたしは貴族どころか()()なのだけれど?」


 との返答。


 ……王女?


「そう。このリオフラン王国の第二王女、エマだよ」


 ……エマ様?


「エマでいいよ。話し方も畏まらなくていい。それよりもっとお話を──」


「エマ様、すぐ参りますので、服選んでいてくださいー」


 ドアが開き、また例の召使さんが声をかける。今度は、顔を見ることができた。童顔で(オレが言えた義理ではないが)、背も大きくはない。センター分けの長髪が、多少は大人びた印象を与える。服装だけは召使(それ)っぽいが、エマの、年の近い姉といわれても疑わなかっただろう。センター分けの髪が、何とか彼女を大人の階段に繋ぎ止めている。エマはオレをベッドの上に座らせてから降りて、「はーい」と言い、洋服箪笥を開けた。たくさんのドレス。彼女はそれを一着ずつ吟味し始めた。王女と名乗ってはいたが、その姿はふつうの女の子、という感じだ。服を選び終え、そして──


「え、エマ!?」


 オレは慌てて目を瞑る。彼女は手を止め、「なに? どうかした?」と尋ねる。


「…………あの、オレ、一応男なんだけど」


 エマは──一瞬の内に顔を真っ赤にすると、クローゼットを勢いよく閉め、問答無用でオレに布団をバサリとかける。


「す、すぐに着替えるから!」


 エマは思った以上にふつうの女の子であり、オレは思った通りふつうの男の子である。



読んで頂きありがとうございます!


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