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フリ素@存在証明 ~フリ素オレ、異世界で人気大爆発しているようです~  作者: 烏合衆国
第二章 フリ素オレ、できることとできないことがあるようです
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2-4 フリ素@潜入捜査


 アリアの結婚の話は、実は一年以上前から持ち上がっていたらしい。相手は、隣国の第一王子。早い話が、政略結婚である。正式に結婚となるのは、年が明けてからだそうだが──明後日、その王子が、この国を訪れるという。



「姉上はずっと決定を先延ばしさせておられたのだけれど、一昨日、ザンダンがどこかへ行ってしまって、姉上にそれをお伝えしたら──姉上は、父上のところへ行かれて。その場で、承諾されたって」



「アリアのところに行く」


「駄目だよ、ザンダン!」エマはすぐに言った。


「でも、助けてって」「結婚を、やめてほしいわけではないの」エマはオレを掴む。「ただ、半年間ずっと拒否していたのに、突然受け入れた、そんな心情の変化には、多分、裏がある」


「うん」


「嫌なことは、嫌と言ってほしい。姉上は、自分の感情を殺し過ぎるきらいがあるから──わたしにできない部分のことを、ザンダンに、助けてほしいの。姉上を、護ってあげて。姉上の、拠りどころになってあげて」



 それは──アリアの独り言と、同じ言葉で。


 あの時から、彼女は決めていたのだろうか。


 オレは二人に頼られて──どちらにも、応えられそうにない。元の世界で、幼馴染一人のことすら分からなかったのに。その期待は大きく、その希望は重く。この雁字がらめから抜け出すためには、一人ひとりと、正面切って向かい合うところから、始めなければならない。



「エマも──言えよ」



「え?」


「嫌なら──嫌って言えよ。アリアの結婚のこと。嬉しい気持ちも、寂しい気持ちも、隠してたら分からないし、見通しが立てられない。エマはどうしてほしいのか──それで、オレは行動するから」


「──ザンダン」


「まあ、そんなことわざわざ頼むってことは嫌なんだろ」


「──うぅ、うううぅいい、え、ええ」


 オレは、エマを結局泣かせてしまう。


「す、好きな人と、け、結婚するのがあ、いちばん幸せ、だなんてえ、思っていないけれど」エマは泣きじゃくりながら、言葉を紡ぐ。「お、大人の都合でえ、あ、姉上が、道具扱いをされるのが嫌なの。向こうの国で、ど、どんなことになるか分からないし」


「うん」


「こ、後悔のない選択を、してほしいの。結局、いずれは受け入れるしかないのは、わ、分かっている。だからこそ──これからの猶予期間を経て、え、笑顔で、嫁いでほしいからあ──」


「分かったよ」オレは答える。


「ザンダン──」


「早速、その王子とやらを、迎え撃つ準備をしよう」


「うん──え? え!?」




     ○




 リオフラン王国の東側に隣接する、グーヴ王国。


 そこの第一王子、アーストール・エークホーン。


 迎え撃つというのは勿論、比喩表現だ。エマの頼みで、アリアの元には行かない、行ったとしても会話しないことを守り、まず情報収集から始める。エマが知っている情報は、ハルさんの提供するものだけ。流石にべらべら片っ端から喋らないようには教育されているのか、はたまた単に彼女も知らないだけか、ほとんど教えてくれないらしい。そこでオレは、作戦を考える。




 ある『ザンダン』の中に入っている時、オレの声は、限られた者にしか聞こえない。しかし、周囲の様子は見ることができるし、周囲の音をオレが聞く分には、問題ない。


 メラビアンの法則。対人コミュニケーションにおいて、人間は視覚55%、聴覚38%、言語7%の比率で情報を得てそれらを統合する。オレが人形に入っていてもエマたちとよくコミュニケーションが取れるのはそのお蔭だ。逆に、彼女たちの顔が、声が、聞こえるために、ここまで感情移入をしているのだともいえる。反対に、表情の変わらないオレと意思疎通をしようというのは、エマたちからすれば難しいことかも知れない。


 それで、作戦というのは、ハルさんに、オレを運んでもらうことだ。ハルさんが、どこから情報を得られるのかは分からないが、彼女について回れば、というか懐に忍んでいれば、情報は集まるだろう。


「よく分からないけど了解です! エマ様」


 エマの頼みを、ハルさんは素直に承った。まあ召使としては当然だろう。




 使用人棟は、城の敷地内にある、召使たちのための建物だ。多くの者がここで寝泊まりをしている。王の子供たちの専属召使といっても、同僚とほとんど地位に差はないらしい。廊下ですれ違う人は皆、ハルさんに親しげに話しかけていた。年下だから、というのもあるかも知れないが(ガルイスさんと同い年と聞いた)。


 彼女はオレをエプロンのポケットに入れ、使用人棟の中の、ある部屋まで連れていった。顔だけポケットから出ているため、周りの様子はよく分かる。広めの部屋の真ん中に大きな机があり、その周りに計三人が座っていた。全員男性だ。


「おじーちゃん、見てこれ!」


 ハルさんはその中の、一番お年を召されていそうな真ん中の男性にポケットから出したオレを見せる。その人(おじーちゃん?)は、オレをぎろりと()めつけると、


「座れ、ハルレア」と嗄れた声で言った。


 ハルさんはそのご老人の正面のあまっていた椅子に座り、自分の視線と同じ向きにオレを置く。三人の男性の顔がよく見えた。そして、ハルさんの左の男性が──アリアの召使、ハロルバロルさんだと気づく。一体、この部屋で何が行われようとしているのか。



「──では、始めよう。ハルレアから」



 ご老人がハルさんを指名した。というか、ハルさんの本名がハルレアだと、ここで初めて知った。


「ハイ。えー、本日は朝に廊下で揉めごとがありまして、花瓶が一つ割れました。エマ様の部屋の前でした」


「聞き及んでいるよ、ハル」右隣の男性が言う。結構若い。長男より数個上という感じだ。──そしてこの声、どこかで聞いたことがあるような。「喧嘩したのは誰だったんだ?」


「アーフュとヘイドです」


「またか──」右隣の男性は、手元の紙束を見る。「もう三度目ですね。どうされますか、お二人」


「ジセはアリア様に被害がなければ何でもよいだろう」ご老人はハロルバロルさんを一瞥して言い。「三度目なら、両人解雇とする。儂は執事に話を──なんだ、ハルレア」


 ハルさんの顔は、オレには見ることができなかったが──彼女は、喋り出す。「いやー、人的被害が出てないのに厳しすぎないかと思っただけですよう。たかだか皿一枚と花瓶一つで」


「弁償させないだけ優しいとは思わないか?」


「規則上、そもそも使用人に弁償義務は生じないはずです」


「それは弁償能力がないからだろう」


「違いますね。弁償能力があったとしても『使用人』という肩書を使えば払わずに済みます」


「正しい」アリアの召使、ハロルバロルさんは突然それだけ言った。ご老人は──顔を顰め。


「分かった、が、次はないぞ」そう言い、「カムエ。次だ」と話を進めた。ちなみに、そのカムエと呼ばれた若い男性が誰だったか、オレはもう思い出していた。


 長男、ガルイスさん専属の召使。グィーテさんがペース殿と呼んでいた人だ。


 そしてペースさんが長男の、ハロルバロルさんがアリアの、ハルさんがエマの召使ということは、消去法で、ご老人が次男の召使なのだろう。バランスが良いんだか悪いんだか。


 その後ペースさん、ハロルバロルさんの順に何やら報告をしていく。そういう時間なのだろう。最後に、ご老人の番になる。



「まず。明後日の手筈はどうだ、ジセ」



 ()()()とは──王子の、訪問日。


 ようやく、聞きたかったことだ。


「昼食の献立は決定しました。見学順路は先程名の挙がったアーフュが計画しました」


「ああ──そうだったな」


 ご老人は言う。


 よく分からないが──喧嘩を起こした人の片方は、重要な役職に就いていたらしい。ハルさんはそれを知っていて処分を先送りにしたのかも知れない。彼女が意外と仕事のできる人間だとは、驚いた──普段は、エマに合わせていたということだろうか。いや、あっちはあっちで、彼女の素が出ていたような気がするが。


「それから、近衛師団と第二・第三師団に通達しました。第二・三両師団は明日から巡回強化するそうです」


「よろしい。マーシュリー様は明日の朝に来られるのだな?」


 その言葉に、ペースさんが、「はい。そのまま、明日は泊まられるそうですので、部屋を一つお願いします」と言う。


「執事に頼んでおこう。先方は少なくない数を引き連れてくるだろうがな」ご老人は、そしてオレを──いや、ハルさんを見る。「王太子殿下の他は、王家からはいらっしゃらないのだったな?」


「──あ、ええと」ハルさんは、今思い出したというように、「きょうだいの方がいらっしゃると、報告がありませんでしたか?」


「……聞いていないぞ」「生憎ですが、私も」「…………」


 三人のうち誰も知らないようだった。ハルさんはへへ……と笑っているが、きっとそんな場合では──




「──おい、ハルッ!」




 ハロルバロルさんが、机を拳で思い切りバン! と叩いて立ち上がる。



「いつその報告があった、誰がその報告をした、この遅れがアリア様にどれほどのご迷惑となり得ることかッ!」



「ジセ。落ち着け」


「王太子との婚約がいかに重要であるか、お前は片時でも考えたのかッ! そしてアリア様のご決心もッ!」


「落ち着け、ジセ・ハロルバロル」ご老人は静かに言う。ハロルバロルさんは、流石に引き下がった。「ハルレア。執事には話が通っているのか」ご老人は静かに、ハルさんに問うた。


「分かりません、すみません」


「すぐ行って確認してこい。マーシュリー様の部屋の確保もだ」言ってハロルバロルさんはようやく腰を下ろす。


「了解しました」ハルさんは、オレを掴み──ペースさんに、渡した。「エマ様に、届けておいてください」そう言って、彼女は部屋を出ていく。


 その後、三人は──いや、ハロルバロルさんは頷くことしかしなかったため、二人は、しばらく話し合って、解散した。ペースさんに運ばれ、エマの部屋に──と思いきや、違うところへ向かっているようだ。




 着いたのは──恐らく、長兄の部屋だ。まだ寝るには早い時間だから(エマは寝ているかも知れないが)、一度持ち場に戻ってきたのだろう。彼は扉をノックする。「入れ」部屋の中から声が聞こえた。ペースさんは扉を開ける。



「──チッ、ったくよぉ」



 ガルイスさんは、この間グィーテさんに連れられ来た時と同様に、椅子に座っているのが見えたが、入るなり舌打ちが聞こえた。まさか彼がしたのではないだろうと思って、部屋の中を視線を巡らせ探していると、窓辺に誰かが座っているのが見える。


 シャード第二王子だ。


「ん? カムエ、そりゃあれか。エマがこの間、食堂に持ってきてたやつか」彼はオレに気づくと、いた場所から降りて、こちらへ近づいてくる。「はい。ハルレアに、エマ様へ届けるよう頼まれまして」ペースさんは答えた。


「ふん」シャードさんは極めて興味がなさそうに、「では兄上、俺は退室つかまつる」そう言って、部屋から出て行ってしまった。


「シャード様と部屋にてご歓談とは、珍しいですね」


 ペースさんが言うと、


「あれは歓談とは呼ばない。向こうが一方的に、溜息を吐きに来ただけだ」長男はそう返す。ペースさんは、「左様ですか。失礼いたしました」と言い、


「それでは、シャード様には申し上げましたが、この人形をエマ様に届けてまいります」


 そう言って退室した。ガルイスさんは、なぜだかずっとオレを見ていたようだったが、気のせいだろうか。




「あ……ありがとう」


「はい、確かにお渡ししましたよ。ハルはまだしばらく戻らないと思いますが、急ぎの用がございましたら、わたくしにお申しつけください」


「あ……大丈夫、です」


「分かりました。それでは失礼します」


 オレはエマの手に渡って、ペースさんはガルイスさんのところへ帰っていった。部屋にはオレとエマの二人。


「──人見知り?」


 オレはエマのペースさんに対する態度があまりに面白くて、笑いを噛み殺しながら訊く。


「し、仕方ないじゃない。あの人、昔から苦手なの」


「いい人じゃん」


「いい人なのは分かるのだけれど……」


 まあ、そういうことは、ままあるだろうということで、雑談を切り上げ。




「聴いてきたよ。いろいろと」


「──ええ。早速話して頂戴」



読んで頂きありがとうございます!


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