奇っ怪【気分を害する恐れがあります。】【忠告はしましたよ?】
奇っ怪。
まさに奇っ怪な文章であった。
おおよそまともな人間が描いたとは思えぬほどの奇っ怪さであった。
そのような書き出しからその文章は始まった。
読むほどに頭がおかしくなってしまうような奇っ怪さであった。
書の装丁からしてすでに奇っ怪であった。
奇妙な文様の書かれた表紙と、わけのわからない文字列で埋め尽くされた一頁目。
その上、さしたる頁数でもないというのに、嫌に派手な装飾がなされている。
最大の奇っ怪な点は、著者名のないところである。
「著:」という字列の下には、名前がなく、ただ空白のあるのみであった。
しかしながら、中身はより一層奇っ怪であった。
読むのをやめたいと思いながら、同時に続きが知りたいとも願ってしまうのである。
引き込まれる。それでいて先を読みたくないと思わされるのである。
実に奇っ怪な文章であった。
気が狂いそうになるのに耐えながら、その文章を読み続けた。
文章は「その後しばらく捜索を続けたが、いまだに見つかっていない。」という一文で終わった。
気味が悪いと思いながら、息をつくように顔を上げ、装丁を閉じた。
深呼吸をし、目をゆっくりと開いた。
周囲の世界は色を失っていた。
どうしたことだろうと辺りを見渡せど、世界からは色が失われていくばかりであった。
ついに光までもが失われた。
恐ろしくなって手に持っていた書物を落としてしまった。
途端に景色は色を取り戻した。
そして、不思議なことに書物の内容も、とんと思い出せなくなってしまった。
奇っ怪な文章であったことは思い出せる。
しかしながら、その内容の一切を忘れてしまっているのである。
怖くなり、書物を拾おうと足元に目をやったが、床の他には何も無い。
ただ、木目のみがしっとりとあるのみであった。
その後しばらく捜索を続けたが、いまだに見つかっていない。
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