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第八話.くだらない作り話

「モニカ、お前……どのツラ下げて出てきやがった!」


 俺は画面に映るモニカに向かって怒りの声を浴びせた。

 モニター越しとはいえ、二度と会わないと思っていたくそったれな姿が視界に入るだけで虫唾が走る。


「あーミシェルさん、これ録画なので話しかけても意味ないんですよ」


「……」


 ……まあいいだろう。

 卑劣な臆病者にはふさわしい行動だ。

 どうせ選択肢の中に答えは用意されていない。

 モニカ、お前がどのような荒唐無稽な作り話を用意してきたのか、お手並み拝見といこうじゃないか。


「今から二年ほど前、当時はまだD級冒険者だった私は、幼馴染のエマとパーティを組んでいました。剣士であるエマが前衛で剣を振り、私が後衛で魔法支援をする。そんな見渡せばどこにでもいるような普通の冒険者である私たちに、ある日声をかけてきた人物がいました。それがミシェルでした」


 淡々とした口調でモニカが話し始める。

 だがその内容は追放理由とは程遠い、俺たちが初めて出会った時の話だった。

 俺は『男は結論を最初に言い、女は最後に言う』という言葉を思い出し、この話が終わるのは果たしていつになるのやらと、早くもうんざりした気持ちになっていた。


「ミシェルは自分とパーティを組まないかと提案してきました。前衛の人数が増えてエマの負担が軽減されるならと思い、私たちはその提案を受け入れました。彼が持っていた【鑑定】スキルは戦闘向けではないのでよくハズレと言われますが、私たちのスキルも平凡なものだったので特に気にしませんでした」


 まさかとは思うが、ここから追放するまでの出来事を全て話すつもりじゃないだろうな……。

 

「エマがルドルフを勧誘してきたのは、それから間もない頃でした。訓練所で見つけてビビッときたそうです。ルドルフは幼い頃からエルフ族の師匠に弓術の指導を受けていたらしく、その腕前はD級とは思えないほど素晴らしいものでした」


 今思えばこれが全ての元凶だった。

 この時点で俺がルドルフの正体に気付いて化けの皮を剥がしていれば……そうすれば今ごろ……。


「ルドルフが加わったおかけで前衛と後衛がそれぞれ二人ずつというバランスの良い構成になり、私たちはC級昇格に向けて本格的にレベル上げに取り組むようになりました」


 この頃の俺たちは、レベリング効率を求めてダンジョンに潜ることが多かった。

 C級以上の昇格試験を受けるためには、各階級ごとに定められている基準値以上のステータスに達している必要がある。

 必然的にC級よりB級、B級よりA級の冒険者ほうがステータスは高くなるが、一番上のS級では同じ階級内でも強さはピンキリとなっている。


「目標レベルの半分くらいに到達した頃、エマはルドルフに弓術を教わるようになりました。彼の正確な狙撃を見て自分もやってみたくなったそうです。ルドルフ曰く、エマに弓術の才能はあまりないらしいのですが、それでも楽しそうに根気よく練習に付き合ってくれました。二人は次第に練習以外のプライベートでも会う回数が増えていき、笑顔が絶えず、連携もよくて……本当に……本当に、お似合いの二人でした……」


 と、ここでモニカが言葉を切って唇をきつく結んだ。

 はぁ……そういうのいいから早くしろ。


「すみません……そして私たちはC級の昇格試験を受け、無事に全員合格することができました。パローナ村が大洪水の被害に遭い、ギルドから緊急依頼が出されたのはそんな矢先のことでした」


 さてと、恐らく問題はここからだな。


「私たちがパローナ村に到着したのは、住民の救出がほとんど終わってからでしたが、村はまるでドラゴンが暴れた跡のような悲惨な状態でした。人の作り出した物なんて自然の力の前では簡単に壊れてしまうことを改めて実感しました」


 俺の脳裏にも、その時のパローナ村の光景が蘇る。

 あたり一面に散乱した建物の残骸や、どこからか流れてきた大量の岩や木が、村を囲むフェンスの一部を破壊していた。


「私たちのパーティは、人手が足りていない西側の端に配備されることになりました。先にいたD級とE級冒険者パーティと合流して、モンスターの襲来に気をつけながら瓦礫やゴミの撤去作業を行いました。そして撤去作業を始めてから数時間後、ぬかるんでいる地面で足を滑らせたのか、ミシェルが勢いよく転倒して抱えていた木材が大きな音を立てて落ちました。きっと長時間の肉体労働で疲労が溜まっていたのでしょう。私も腕が痛くなっていたので『少し休憩しようか』と皆に声をかけると同時にミシェルが立ち上がり、突然近くにいたE級の少年に掴みかかりました」


 やれやれ、やはりこの時の話を利用することは読めていた。

 どのような妄言が飛び出すのか見せてもらおうか。


「一瞬、何が起きたのかわかりませんでした。すぐにルドルフが止めに入ると、ミシェルは『こいつが俺を馬鹿にしやがった』と叫びました。どうやら自分が転んだのをその少年に笑われたことが癇に障ったようでした。ミシェルは他の冒険者と口論になることが時々ありましたが、手を出すのを見るのはこれが初めてでした。少年が本当に笑ったかどうかはわかりません。ですが私には、自分の不注意で転んだことに対して八つ当たりをしているようにしか見えませんでした」


 違う。

 あのガキは確実に俺が転んだのを見て笑った。

 他人事だと思ってヘラヘラしていたから、そんな簡単ことにも気づかないんだ。


「その場はなんとか取り繕い、依頼期間を終えてギルドに戻ってから話し合いの機会を設けました。以前から私たちはミシェルの短気な性格と高圧的な態度に頭を悩ませていて、今回の話し合いでも改めるように諭しましたが、ミシェルはやはり聞く耳を持ちませんでした」


 話し合いだと?

 笑わせるな。

 三対一で俺の意見を聞こうともせず、無理やり従わせようとしたくせに。


「そしてルドルフが『今後もあのようなことを続けるのなら君とパーティを組むことはできない』と言うと、ミシェルは激怒して立ち去りました」


 やれやれ、物はいいようだな。

 モニカの話の傾向は概ね予想通りだった。

 まるで俺だけが悪者であるかのように、お前たちにとって都合が良い事柄だけを繋ぎ合わせて、都合が悪い真実を隠して話が構成されている。

 何も知らない人間がこの話を聞いたら簡単に騙されてしまうだろう。

 だが、俺を日頃から蔑み、否定し、邪魔者扱いして追放した事実は消えない。

 お前達から受けた仕打ちを忘れることはない。


「私たちは誰もミシェルを引き止めませんでした。むしろ彼がいなくなったことに、心のどこかでホッとしていたのかもしれません」


 モニカは静かに瞼を閉じ、胸元に手を当ててゆっくりと息を吐いた。


 画面が暗くなる。


「ありがとうございました!元パーティメンバーであるモニカさんからのヒントでした!」


 よーくわかったよ。

 モニカ、これがお前のやり方か。


「それではミシェルさん、答えをどうぞ!」


「三番」


 やはり俺は悪くない。


「三番、の何ですか?」


 悪いのは全部あいつらだ。


「……人格に問題があったから」


 俺にこう答えて欲しかったんだろ?


「正解です!話題のS級冒険者ミシェル・アングレームさん、十問連続正解を達成したことにより、100万ゴールド獲得となります!おめでとうございます!」


 まったく、反吐が出る。

 己の保身しか考えていない歪んだ作り話だった。

 いちいち訂正する気すら起きないくらい滑稽で哀れな言い訳だ。

 怒りなんてとっくに通り越して、あまりのおかしさに笑いがこみ上げてくる。


 だが、この罪は必ず償わせてやる。


「さてミシェルさん。早速ですが、この100万ゴールド獲得の権利を使って、ボーナスステージとなる300万ゴールドを懸けた十一問目に挑戦されますか!?」


「するわけねえだろ」


 こんなにも最悪の気分になったのは久しぶりだ。

 モニカの卑怯な印象操作によって、俺のタレント兼S級冒険者としての道は断たれた。

 ならば、せめて100万ゴールドだけでも持ち帰らないと割に合わない。

 わざわざ望み通りの解答をしてやった見返りとしてはあまりにも少なすぎるが、これ以上余計なことを言われるリスクを抱えてまで十一問目に挑戦するメリットはなかった。

 くだらない茶番はここで終わりだ。

 俺は二度と番組出演依頼なんて受けない。


「なるほどー、わかりました!ボーナスステージに挑戦はしない、というわけで正式に100万ゴールド獲得となります!」


 ふん、白々しい。

 心の中では俺が賞金を手に入れて悔しいに決まっている。

 どうせ欲に目が眩み、勢いに任せて300万に挑むとでも思っていたのだろう。

 俺はお前たちと違って賢いからな、この程度の嫌がらせで判断を誤ると思ったら大間違いだ。


「それでは最後に、出題予定の十一問目を見てみましょう!」


 モニターに問題文が映し出された。

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