第五話.ラッキー問題と珍味
第五問. 主に『理不尽な理由で自分が所属している集団を追い出された後、その集団が酷い目に遭うことによって気持ちがスカッとする』という意味として、若手冒険者を中心に流行している言葉はどれ?
1:ぷぎゃあ
2:ぬるぽが
3:ぎゃふん
4:ざまあ
ふむ、折り返し地点では少し難しめの問題がくると予想していたのだが、どうやら杞憂だったようだ。
ここへきて簡単なラッキー問題とは運がいい。
「いやあ、これはまたすごい問題ですねえ。酷い目にあうことによってスカッと……って、イリナさん、最近の冒険者たちの間ではこういうのが流行っているのでしょうか?」
「はい。C級以下の冒険者を対象にアンケートを行ったところ、この意味の言葉を知っていると回答した方が76%、その中で実際に自分がこのような経験してみたいと回答した方が42%いました」
「なるほどー、割と広まっている言葉なんですねえ。つまるところ、他人の不幸は蜜の味。憧れの職業として子供たちからの人気も高い冒険者ですが、これは少し闇の部分が見えてしまったといったところでしょうか」
果たしてそうだろうか。
悪人が報いを受けるのは当然だと俺は思うがな。
「さあ、S級冒険者であるミシェルさんは、この言葉を知っているのか!?それでは答えをどうぞ!」
俺は余裕の笑みを浮かべながら解答を口にする。
「四番、ざまあ」
「正解です!」
まあこれは常識問題というよりは時事問題に近いだろうか。
ざまあみろを略して『ざまあ』だ。
やはり嫌な奴が悲惨な目に遭うと気分がいい。
しかも自らの手でそいつに報いを与えることができるなら最高だ。
そうだ、色々な人からこういう『ざまあ』の経験談を募集して、その再現ドラマを見てスカッとするような番組を作れば結構人気が出るんじゃないか?
俺がタレントとしてそこそこ売れてきたら、一つくらいは冠番組を持ってみるというのも悪くないかもしれないなあ。
「さて、ところでミシェルさん自身もパーティを追放される経験をされているということですが、自分が追放された後のパーティメンバーが現在どこで何をしているのか、ふと気になることはありませんか?」
……はあ、この司会者ダメだな。
こんなどうでもいい話題で話を広げるなよ。
まあ適当にいなしながら、さっさと次の問題に移るとするか。
「さあ、知りませんし別に興味ないですね」
「なるほどー。そう言うと思い、番組スタッフが調査を行いました!」
「えっ」
は?何言ってんだこいつ。
俺が「興味がない」と言うと思ったから調べるっておかしくないか?
普通逆だろ。
ここの番組スタッフ大丈夫か?
「ミシェルさんの以前のパーティメンバーは、モニカ・コリンズさん、エマ・カーターさん、ルドルフ・ヒューズさんの三人でした」
イリナが調査結果が書かれているであろう書類を読み上げる。
「まあ……そうですね」
俺は渋々相槌を打つ。
かつてのパーティメンバーたちの名前を一気に耳にしたせいで嫌悪感を抱いた。
「まずは、主に魔法支援を担当していたモニカ・コリンズさん。現在は冒険者を引退して、とある魔法薬店に勤務されています」
初めて聞く情報だが、今さら知ったところで「どうでもいい」以外の感想が出てこない。
そんな俺の無反応なんてお構いなしに、イリナは調査結果の続きを読み上げる。
「続いて、剣士のエマ・カーターさんも冒険者を引退しており、故郷で家業を手伝っています」
エマは三人姉妹の次女で実家は農業を営んでいる。
都市部から遠く離れた北東の田舎街にある実家に腰を落ち着かせているなら、滅多なことがない限りもう二度と会うことはないだろう。
「そして最後に、弓術で中〜後衛からの援護攻撃を担当していたルドルフ・ヒューズさんですが、残念ながら既に亡くなっていました」
「はあ……そうですか」
「ルドルフさんが亡くなっていることはご存知でしたか?」
「別に……だから最初に興味がないって言ったでしょう。あいつらは俺にとって、もう仲間でもなんでもない、ただの他人でしかないんですよ。というか、こんなことをわざわざ調べたんですか?」
「それがビレテ業界の仕事ですので」
イリナはさも当然かのように答えるが、俺には全く理解できない。
こんなどうでもいい事を調べるために人手を割くなんて、番組スタッフという仕事は余程暇なのか、それとも人員が余っているのだろうか。
まあどちらにせよ今の俺には関係ない話だ。
俺は自分の頬を両手で軽く叩いて気持ちを切り替える。
「さて、これで前半戦終了!100万ゴールド獲得まで残り半分となりました!ここから後半戦突入です!六問目はこちら!」
第六問. 珍味「ナデポ」とは、レラヤヤックのどの部位を加工したもの?
1:脳みそ
2:火炎袋
3:睾丸
ほう、レラヤヤックか。
確か四問目の選択肢にもあったな。
怪鳥の名を冠してはいるだけあって、大人になれば馬に匹敵するほどの体長になる比較的大きな鳥型モンスターだ。
その反面、強さに関してはE級冒険者一人でも勝てるほどで大したことはなく、見た目と実際の強さのギャップから別名『かませ鳥』とも呼ばれている。
農作物を荒らす害鳥ということもあり、駆け出し冒険者のレベル上げのためによく狩られているといった認識だ。
こいつから珍味が取れるという話は聞いたことがあるようなないような……。
「レラヤヤックといえば特徴的な鳴き声を持つことでも有名ですねえ。オスの鳴き声は非常にうるさく、テイマーが選ぶテイムしたくないモンスターランキングでは二十年連続ワースト3に入っている、といえば想像しやすいでしょう!」
そうそう、レラヤヤックは鳴き声がとても面白いんだった。
鳥とは思えないほど低くてガラガラの声で、特に攻撃を受けたときの情けない声が俺は好きだ。
人間様との実力差もわからずに向こうから攻撃してくるくせに簡単に返り討ちにされた挙句、体液を垂れ流しながら地面をのたうち回る姿は非常に滑稽だ。
駆除依頼の際、わざとトドメを刺さずに羽と足を切り落としてからジワジワと痛めつけて楽しんだっけなあ。
あー、思い出したらあの無様な鳴き声がまた聞きたくなってきた。
今度狩りに行くかあ……。
「それではミシェルさん、そろそろ考えはまとまりましたか?」
「……へ?あ、えっと、そうですね」
おっといけない、いつの間にか自分の世界に入り込んでいたようだ。
やれやれ俺の悪い癖だな。
さて、と。
とりあえず、これだけは絶対に違うという選択肢が一つある。
それは二番の火炎袋だ。
根拠は至極単純で、レラヤヤックに火炎袋は備わっていないからだ。
これで残る選択肢は脳みそと睾丸の二つ。
どちらが珍味っぽいかと聞かれても、どっちもどっちのような気もするが……。
「一番、脳みそ」
俺は少し迷った末に一番を選ぶことにした。
理由は特にない。
強いて言うなら、この世の中には「ゲテモノほど美味い」という格言があり、俺の中でどちらがよりゲテモノっぽいか比較した結果だ。
まあ要するに、自分の直感を信じてみた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「残念!ナデポは脳ではありません!」
ふむ、ハズレか。
だが……。
「しかしこれで終わりではありません!ミシェルさんは六問目にまだ救済措置を使用していなかったため、自動的に『転生』が適用され、新たな解答権を獲得することができます!」
そう、俺には救済措置『転生』が残っていた。
後半戦に突入していきなり使ってしまったのは結構痛いが、過ぎたことを悔やんでも仕方ない。
「それではミシェルさん、もう一度答えをどうぞ!」
「三番、睾丸」
俺は気を取り直して再び解答を口にした。
「……」
「……」
「……」
「……」
重い沈黙の時間が流れる。
これは……やらかしたか?
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「正解です!」
ふぅ、と俺は溜まった息を吐く。
まったく心臓に悪い。
だが、この緊張感は俺を楽しませてくれて、なかなか悪くないと感じていた。
やはりタレント兼S級冒険者という組み合わせは俺に合っているのかもしれない。
「レラヤヤックのオスは発情期が訪れるとパートナーとなるメスを探し始めますが、メスを巡って他のオスと争う際には鋭いクチバシや足の爪を使って相手を攻撃し、どちらかが逃げるまで終わらないという非常に気性の荒い性格をしています」
なるほど、俺たちにとってレラヤヤックはただの雑魚モンスターに過ぎないが、こいつらはこいつらなりにレベルの低い争いをしているんだな。
「メスを巡る戦いを行った直後のオスは激しい興奮状態に陥っており、睾丸が通常時の二〜三倍程に膨らんでいることがあります。この状態のレラヤヤックを生捕にしたのち、肥大化した睾丸が収縮する前に解体作業を行い、塩漬けにしてから数日間乾燥したものがナデポとして流通しています」
な、なかなか面倒くさい作り方だな……。
それにしてもナデポか。
珍味というからには一般受けする味ではない可能性もあるが、是非一度食べてみたいところではある。
一応食レポの練習もしておいたほうがいいだろうか。
「モンスター肉を食べる文化を持つ地域は少なく、冒険者ギルドでも肉自体の買い取り及び販売は行っておりません。お買い求めの際は、テイマー協会からの認可を受けたモンスター肉専門店をご利用ください」
ふむ、やはり専門店に行かないとこういうのは売っていないんだな。
近くの街にモンスター肉を扱っている店がないか、あとで調べておくとしよう。
「さあ、ミシェルさん、救済措置『転生』を使用して見事六問目を突破しました!これで残る救済は一つだけ!しかしまだまだ先は長いぞ!?快進撃はどこまで続くのか、七問目はこちら!」
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