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第一話.クイズ番組への出演依頼

「いきまーす!本番、五秒前!四、三……」


 二。


 一。


「……さあ今週も始まりました!『クイズ!あなたはCランク冒険者より優秀なの?』今回も魔術放送協会本部スタジオから生放送でお送りいたします!司会進行は私、ダイアン・マグウェイと」


「全国冒険者ギルド本部所属、イリナ・ローゼンです。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします!それでは早速、本日の挑戦者をお呼びしましょう!100万ゴールド獲得を目指してクイズに挑むのはこの方ですどうぞ!」


 ……よし、やるか。

 俺は軽く深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。


『役立たずの無能は必要ない、と言われて理不尽な追放をされるも、ハズレスキル【鑑定】が【覇者の心眼SSS+】に覚醒して見事に人生大逆転!?え?パーティに戻ってこい?そんなこと言われても今さらもう遅い!俺はこっちで充実した生活を送っているので、君たちの事情なんて知りません!今話題のS級冒険者、ミシェル・アングレーム!』


 紹介のナレーションが流れると同時に、俺は派手でゴテゴテとした装飾が施されている短いトンネルを通って解答席へ向かった。

 スタジオ内は全体的に煌びやかで、金がかけられていることがよくわかるセットが組まれている。

 さすがは高視聴率の人気クイズ番組といったところだろうか。


「ミシェル・アングレームです。よろしくお願いします」


 俺はカメラへ向かって挨拶をした。

 第一印象は非常に大事だからな。

 さて、どうしてS級冒険者の俺がクイズ番組に出演しているのか。

 その理由は今から数日前に遡る……。



「ご主人ご主人ご主人ご主人ご主人ご主人!!」


 いつものように冒険者ギルドで依頼完了の報告を済ませた後、屋敷に帰宅した俺を出迎えたのはエリザの元気な声と突進だった。

 幼いながらも半獣人であることを感じさせる力強さで勢いよく俺の腰に抱きつき、可愛らしい大きな獣耳をピクピクと動かした。


「ご主人ご主人!!」


「おっとっと……ただいまエリザ。そんなに慌ててどうしたの?」


「これ!ご主人に!」


「ん、ありがと」


 俺はエリザが持っていた白い便箋を受け取る。

 差出人は……国営魔術放送協会?

 確か、地域差のない平等な情報発信を目的として設立された放送協会だと記憶している。

 受信専用の魔道具「ビレテ」を一般家庭にも普及させ、誰もが手軽で簡単に番組を楽しめるように尽力したのが先代の会長だったはずだ。


 そんな大御所が俺に何の用件だろうと疑問に思いながら封を開くと、中には書類が二枚入っていた。

 その内容は、魔術放送協会が製作をしている『クイズ!あなたはC級冒険者より賢いの?』というバラエティクイズ番組への出演依頼だった。

 通常の出演料だけではなく、クイズに正解した際の賞金がなんと最大で300万ゴールドも出るという文章を見て、俺は思わず目を見開いた。


 もう一枚の書類には必要事項を記入する欄と、その下に魔力が込められたインクで《出演する》《出演しない》という文字が書かれている。

 どうやら自動帰還の魔術が仕込まれているようだ。

 発動条件は恐らくどちらかの選択肢に丸をつけることだろう。


「ご主人!なんて書いてあるの!?」


 エリザがぴょんぴょんと跳ねながら訊いてくる。


「俺にクイズ番組に出てみないかっていう依頼みたいだね。どうしようかな」


「くいずばんぐみってなーに?」


「あー、えーと……なんて言えばいいのかな……」


 俺が言い悩んでいると「色々な問題をみんなで楽しく答える番組ですよ」という澄んだ声が聞こえた。

 後ろを振り向くと、ヴァレリアが微笑んでいた。

 彼女は優秀な魔術師で、回復やバフなどの補助魔法はもちろん、広範囲の風魔法を得意としており、攻守共に隙がない。


「おかえりなさい、ミシェルさん」


 ヴァレリアの美しい長髪から、エルフ族特有のふんわりとした花畑のような優しい香りが微かに漂ってくる。

 これで香料の類は一切つけていないというのだから不思議だ。


「あ、ああ、ただいま。またそれ着てるんだね……」


 俺はヴァレリアの格好を見て少し言葉を詰まらせる。

 彼女が身に纏っていたのは、やや肌の露出が多い伝統的な民族衣装だった。

 本人はあくまで『動きやすい部屋着』『故郷ではこれが普通』だと言い張っているものの、俺からしてみればヴァレリアの豊満な胸と滑らかなボディラインが目立って毎回目のやり場に困ってしまう、そんな少々破廉恥な衣装だ。

 どうやら空気中のマナを効率よく取り入れるためのデザインらしいが、俺は魔術師ではないのでよくわからない。


「はい。これは"部屋着"ですから」


「そ、そうだね……」


 まあさすがにこの格好で外出することはないから、その点は一安心か……。


「ねーねーヴァレリア!ヴァレリアはくいずばんぐみ出たことある?」


「クイズ番組はありませんね。故郷にいたときに薬草採取の入門番組の監修をしたり、あとはこの街へ来る少し前に『モンスター奇想天外』という番組スタッフの方々がエルフの大森林の生態調査をしたいということで、お手伝いをしたことならありますが……」


「せーたいちょーさ?」


 エリザが可愛らしく首を傾げる。


「その時は、木の上や洞窟に定点カメラを設置してモンスターをこっそり撮影するという企画でしたね。気温の高い日が続く中、スタッフの方と一緒にたくさんのカメラを設置するために、森の中を歩き回ったことをよく覚えています」


 そう言うとヴァレリアは、遠い目をして懐かしむような表情をした。


 エルフの大森林、か。

 下調べのために何度か通ったが、あの時以降一度も訪れたことはないな。


「それでそれで!?」


「一般の方はモンスターと直接関わる機会が少ないので、モンスターがどのような能力を持っていて、どのように暮らしているのか、映像を見ながらみんなで一緒にお勉強するんですよ」


「えぇー!?わたし勉強きらーい!」


 エリザが口を尖らせながら頬を膨らませる。

 本人はこう言っているが、決して頭が悪いわけではないらしい。

 それどころか学習能力や理解力は同年代の子どもたちと比べても頭一つ抜けているとか。

 どうやら長時間じっと座って人の話を聞くのがあまり得意ではないそうで、エリザにとって勉強とは「興味のない事柄以外も覚えないといけない退屈で我慢の時間」という負の側面が強い、とヴァレリアは分析している。


「ところでクイズ番組がどうかされたのですか?」


「うん、実はこんなのが届いてさ」


 俺は便箋と書類をヴァレリアに渡した。


「なるほど、クイズ番組の出演依頼ですか。ミシェルさんの実力が世間に認められて有名になってきた証拠ですね。私もとても嬉しいです」

 

「ははっ、褒めても何も出ないよ。ところでヴァレリアはこれがどんな番組か知ってる?」


「ええ。確かB級以上の有名な冒険者の方が、ギルドや冒険者関連のクイズに挑戦する番組だったと思います。私はあまり見たことはありませんけど、視聴率は結構高いそうですよ」


 なるほど、思ったよりも有名な番組らしい。

 ヴァレリアによれば、番組の形式としては大勢で正解数を競うものではなく、挑戦者が一人で問題に答えていくタイプだそうだ。

 出題される問題の難易度は最大でもC級冒険者でも解ける程度だが、それでも意外と答えがわからなかったり、そもそも知らない問題が出題されることも多いという。


「常に初心を忘れてはいけないという教訓が込められている番組だと私は思います」


「そう……かな?じゃあせっかくだし出てみようか」

 

「そんなに簡単に決めてしまってもよろしいのですか?闘技大会も近いですよ」


 ヴァレリアが心配そうな目を向けてくる。

 それに対して俺は優しく微笑んだ。


「番組に出れる機会ってあまりないし、何かのキッカケになるかもしれないからね」


 普通の冒険者活動にも少し飽きてきた頃だ。

 手応えのないモンスター、余裕すぎてあくびが出るダンジョン、口先だけのチンピラ、張り合いのない自称ベテラン冒険者たち。

 どいつもこいつも俺を楽しませるには物足りない存在ばかりで、正直言って冒険者としてのやり甲斐をなくしていたところだ。

 そんな俺に舞い降りたこの出演依頼は、まさに天啓とも言えるものだった。

 これからはタレント兼S級冒険者として売り出していくのも悪くないかもしれない。


「わかりました。では、当日はエリザと一緒に応援しに行きますね」


「わーい!くいずばんぐみくいずばんぐみー!」


 エリザが嬉しそうに尻尾を振りながらぴょんぴょんと跳ねる。


「あれ?勉強は嫌いじゃなかったっけ?」


「ご主人が行くなら行くー!」


 頬ずりしてくるエリザの頭を俺はそっと撫でた。

 特別な血筋の半獣人ということもあってA級冒険者に匹敵するほどの実力を持ってはいるものの、エリザはまだ9歳の子どもだ。

 楽しそうなイベントの雰囲気には敏感なのだろう。


 俺は二枚目の書類に必要事項を記入してから、最後に一番下に書かれた《出演する》に丸をつける。

 すると書類はたちまち鳥の形へと折り畳まれて独りでに空へ向かって飛び立っていった。

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